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頼み

「なるほどね。何処の世界も権力者ってのは似た様なもんか。んで、話が結構ずれちまったみたいだが?」

「そうだな。それでインペリアルガード第一席の護衛対象となるのは、皇位継承権第一位の人物となる」

 ニヤリと笑みを浮かべる時雨。

「ここで、そのお姫様と繋がる訳か」

「そういう事になる。姫様を護るのが私の任務だ。他にも何人か居るが、席次が一番上の私がそのリーダーとなる」

「そして、一番身近で一番親しい関係になるぅ訳だよなぁ?」

 時雨は結論ありきで話している。当然、話の流れはそうなるだろう。

 ザルードは、もうそんなからかいには反応せずに淡々と話を続ける。

「私は幼い頃から皇帝陛下の御慈悲によって、その居城で生活してきた。生まれを問わず、陛下は私の力を認めてくれたのだ。もし、そうでなかったならば、子供の内に野垂れ死んでいたかもしれないな…シュトゥルーの環境の厳しさはもう分かっているだろう?」

「そうだな…。つーことは、お前とお姫様は幼馴染みみたいなもんか?」

「私の方が少し年上だが、姫様が生まれた時から知っているとも。だから、幼い頃は私が姫様の御世話係の様な事もしていた。成長した私は自らの力によってインペリアルガードの第一席の地位を得て、今では姫様の護衛をしている。いや、していたと言った方が正しいか」

 と、時雨はもう耐えきれないといった感じで直接的に問いを飛ばした。

「お前と姫様とが長い付き合いだってのは分かったよ。で、気持ちは如何なんだよ!? それだけ一緒に居て、特別な感情は無いのかよ!?」

 数秒間の沈黙。ザルードは、目を閉じて思案しているようだ。

 やがて、ゆっくりと目を開けたザルードは、時雨とは正反対の明後日の方向を見ながら声を出した。

「姫様は大恩ある陛下の愛娘であり、アンビシュンの次代を担う御方。我が命が無くなるその時まで御護りし続ける大切な御方。それだけだ」

「即答出来ない時点で、それだけとは思えないんだよなぁ」

 と、即答する時雨。

「どう思おうと勝手だが、我が思いは話した事だけだ」

「ったく、分かったよ。分かったが…如何してその姫様を護るのが役目のインペリアルガードが、こんな所にいるんだ?」

 もっともな疑問を口にする時雨。僕もそれは気になっていた。

 やっと話が逸れて安心したのか、ザルードは時雨へと視線を向ける。

 だが、返答はそう優しいものではなかった。

「姫様を護るよりも至宝を手に入れる事の方が重要だった。そういうことだ」

 つまり、三つの至宝を持ち帰る事が、次代を担うはずの皇位継承候補者を護るよりも重要だと。

 それだけ、シュトゥルーは黒いアルドによって追い詰められているのだという事。

「まぁそういう事だろうとは思ったが……お前と組んで向こうに行っても、そうそうゆっくりはしていられなそうだな」

「ああ。こちらを目指した二十三人のメンバーは、皆がインペリアルガードの精鋭達だ。それだけのメンバーを欠いたアンビシュンが今どうなっているのか…あまり考えたくないな」

 厳しい表情を浮かべるザルード。

 それに対して、時雨ももうおちゃらけはしない。

「なるべく早く向かった方が良さそうだな。お前の体調が戻り次第、ゲートを通れるように準備を進めておくさ」

「ああ、頼む」

 そう言って頭を下げるザルードに、時雨は笑顔を浮かべてみせる。それは、先程までのいやらしい笑みとは違って、さわやかな笑顔。

「なーに、そんなかしこまってんじゃねーよ! 立場はともかくよ、俺はお前のことは気に入ってんだ。よろしく頼むぜ、ザルード!」

 その言葉に、ザルードも笑顔となる。

「ふっ、本当に面白い男だ……。君になら任せられるかもしれないな」

「任せられる? 何がだ?」

 疑問符を頭上に浮かべる時雨に、ザルードは真剣な面持ちで答える。

「もし、シュトゥルーに行った後に姫様と出会う事があったら、彼女の事を護ってはくれまいか」

「何だそれは? お前がお姫様を護るんだろう?」

「私一人の力では守り切れぬかもしれん。それにーー」

 途中で言葉を止めてしまったザルードへと時雨が聞き返す。

「それに?」

「いや、何でも無い。とにかく、何が起こるか分からない現状がシュトゥルーにはある。だから、何かあったときには彼女の助けになって欲しい。頼む」

 深々と頭を下げるザルードに、

「しゃーねーなぁ。分かったよ。もし、お姫様に出会って、何かあったら…だからな」

 と、頭を掻きながら答える時雨。

 同時に、視界が段々と白ずんで行った。


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