インペリアルガード
「つまり、あの泥人形がその大切な姫様の姿になった事で、お前は姫様が黒いアルドに取り込まれてしまったのではないかと考えてしまい、身動きが出来なくなってしまった、と。そう言いたいんだろ?」
時雨の返答は真面目な物だ。
先程までのからかい口調から、もっと別の言葉を警戒していたであろうザルードは若干拍子抜けした様子。
「あ、ああ。そういう事になるな」
だが、そこで一度気を抜かせる所までもが時雨の手の平の上だったらしい。
「で、お前と姫様との個人的な関係はどうなっているのかなぁ?」
予想通り、結局の所はそこが聞きたかったのだ。
時雨は、ザルードと姫様との間に何かあると踏んで最初から話題を振っている。それは傍から見ている僕にもすぐに分かる位分かり易い態度だ。
「はぁ。別に隠すつもりは無い。だからそんな回りくどい聞き方をするな」
少々疲れた様な表情でそう言うザルードに、時雨は本当に楽しそうに笑ってみせる。
「くっくくく。こんな楽しい事をただ一方的に聞いているだけだなんて、勿体ないだろう」
「そうか。君という男がどういった人物なのか、段々と見えてきた気がするよ」
「そりゃあ良かったぜ」
そんな軽口をたたき合う二人。確かに、仲は良くなっている様に見える。
「それでだ…姫様との関係の前に、まずは私の立場をきちんと説明しておいた方が良いな。初めに名乗ったと思うが、私は帝国のインペリアルガードの第一席という役職をいただいている」
「インペリアルガードっていうのは、皇帝直属の部隊の事か?」
「いいや、少し違うな。インペリアルガードというのは皇帝だけでは無く、皇族全てを護る為の部隊だ。皇族を護り、アンビシュン皇帝の血脈が途絶える事を防ぐーーそれがインペリアルガードの役目だ。そして、インペリアルガードのメンバーそれぞれが決まった皇族を護ることになる。だから、インペリアルガード全体の上司は存在せず、それぞれが護る皇族に直接仕えるという事になる」
「ふむっ。だが、第一席って事はお前は皇帝の警護担当になるのか?」
第一と聞けば、当然そう思うのが筋だ。
だが、その予想は裏切られる。
「残念だったな、その予想ははずれだ」
やっと時雨の鼻を明かせたと、少し得意気な様子のザルード。
「おいおい、違うのかよ。その第一席ってのは一番強いって意味じゃ無いのか?」
納得いかないと、そう聞き返す時雨。
それに対しては頷きが返ってくる。
「いや、それは間違っていない。インペリアルガードはその実力によて一から順に席次が与えられているからな。その正確な人数までは教えられないが、五十人以上居て、全て席次が決まっている」
「じゃあ何でその一席が皇帝担当じゃ無いんだ? それよりも守らなきゃならない身分の者がいるってのか?」
「その通りだ。皇帝にはインペリアルガードの他に直属部隊が居る。その構成員は部外者の私には教えられていないので分からないが、少数精鋭の部隊だと聞いている。一説には、全てのメンバーがインペリアルガード第一席より実力が上だとかいわれているが、少なくとも私は戦った事は無いので真偽の程は分からないな」
「ったく、複雑なんだな」
「あくまでも、インペリアルガードは皇帝の血脈、つまり、アンビシュンという国の形を護る為の部隊だからな。だから、こんな権限も与えられている。インペリアルガードの九割が、現在の皇帝がアンビシュンを治めるのに足らない者だと判断した場合、次の皇帝へと強制的に交代させる事が出来る」
その言葉に、流石の時雨も息を飲む。
「皇帝っつーと独裁みたいのを想像していたが、そういう訳でもないんだな。アンビシュンってのは思っていた以上にしっかりした国、なのかもしれないな」
「ふふ。そう言って貰えるのは嬉しいが、その理想と現実はそうそう一致はしないのだよ」
自嘲気味にそう口にするザルード。
「理想と現実?」
「そう。インペリアルガードの設立理念は、国と民をしっかりと統治出来る優秀な皇帝を護り続ける事であったからこそ、そこまでの大きな権限が与えられている。だが現実は、国や民の事よりも自らの保身の方が大事な者ばかり。メンバーの九割が認める、などという事態は今まで一度も無かった。つまり、形だけの権限…そういうことだ」