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提案

「そりゃそうか。俺も、病院からお前が目を覚ましたって連絡を受けて来た訳だしな」

 ザルードの言葉に時雨はそう応えると、腰を据えて話す気になったのか、ベッドの脇にあった丸椅子を引き寄せ、そこに腰を下ろす。

 そして、再び口を開いた。

「んで、三日休んでアルドは回復したか?」

「こうして、ベッドの上で上体を起こせる程度はな。だが、まだ普段通りは動けんよ。気力が出ない、と言った方が分かり易いか?」

 やはり病室にいるだけあって、ザルードの状態は万全ではないらしい。

 時雨曰く、危険は無いらしいが…彼を病院で療養させているのは聖風家の意向なのだろうか。

 確かに、彼は現在のシュトゥルーの様子を知るための唯一の手掛かりではあるが……。

「お前が倒れた時の様子は見ているが、あれは本当にアルドがほとんど感じられない状態だった。言い方が悪いが、死んでるんじゃないかと思った位だからな。それがここまで回復したんだから、運が良かったな」

「ははっ、私の悪運の強さは、この世界に辿り着いたという事でも十分証明されているからな」

 と、自嘲気味に笑うザルードに対し、時雨は眉をひそめて聞き返す。

「どういう意味だ?」

「言葉通りさ。結界が張られている状況で、シュトゥルーからこの世界へのゲートを無事通り抜ける事が出来たは、運が良かったとしか言いようが無い。実際、私を含めてゲートへと入った人数が何人だと思う? 二十三人だ。それが、辿り着いたのは私一人だけだ。引き連れてきた影の魔物共は別だがな」

 変わらず自嘲気味にそう話すザルード。おそらく、共にゲートをくぐり抜けようとした者達を助けられず、自分一人が辿り着いたという事を悔いているのだろう。

 だがそれは、それだけの犠牲を出してでもこの世界に来なければならなかったというザルード達の差し迫った状況を表してもいる。

「そうか。それは……運が良かったな」

 時雨も流石に言うべき言葉が見つからなかったのか、ただザルードの言葉を返すのみ。

 数秒の沈黙の後、気を取り直したのか改めて時雨が口を開く。

「そこまでしてこの世界に来た理由は、三つの至宝をシュトゥルーに持ち帰り、黒いアルドの汚染から祖国を救う事なんだろ?」

「今更隠しても仕方ないな。そうだ、その通りだ」

 頷き、肯定の返事をするザルード。

 僕らはアンビシュンがこの世界へも侵略の魔の手を伸ばしてきたのだと思っていた。だから、ザルードが嘘を吐き、僕達の油断を狙っているという可能性もまだ捨て切れていない。

 けれども、あの黒いアルドの泥人形を目にした今、ザルードの言っている事が嘘だとも思えなかった。

 ただの侵略者であれば撃退するのみだが、その止むに止まれぬ背景を知ってしまった今、何とかしてあげたいという気持ちが湧いてくるのが人情という物だ。

 アンビシュンだけでは無い、シュトゥルーに住む全ての人々に関わる事ならば尚更だ。

 そして、それは時雨も同じ気持ちだったようだ。

「だったら、至宝を持つ俺達三人がシュトゥルーに行くとなったら、お前の目的は達成されたという事になるよな?」

「何?」

 訝しげに聞き返すザルード。

 彼からすれば寝耳に水の話かもしれないが、僕達からすれば当然の話だ。

 何故なら、

「元々俺達は、いつかシュトゥルーに戻ってアンビシュンの奴らから故郷を取り戻すっていう目的の為に、この世界で世代を重ねて、力を蓄えてきたんだ。そして、そのために必要な力を俺達、今の世代の三人は手にした。となれば、シュトゥルーに行くってのは自然な流れだろ」

 と、時雨が説明をしてくれる。

 それを聞いて、ザルードは時雨の言いたいことをすぐに悟った様で、先回りして指摘する。

「なるほど…つまり、道案内人として共に行かないか、と…そういう事か」

「ああ、俺達が思っていたのとシュトゥルーの状況は随分違ってきているみたいだしな。分かっている人間が居た方が安心だ。如何だ?」

 時雨の問い掛けに、ザルードは黙り込む。

 その様子から、如何するのか思案しているというのはすぐ分かったが、一分程の間の後、待ちきれないといった様子で時雨が再び口を開いた。


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