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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
十章 闇
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勝利

 そのまま、何秒経っただろうか?

 十秒? 二十秒? 三十秒も過ぎただろうか。

 無限の時の様な、一瞬の間の様な、いつの間にか時間の感覚が曖昧になっていた。

 そうして、手の平に感じられていた熱は、いつしか身体全体へと広がり、全速力で走った後の様な感覚が身体を包む。

 実際に運動した訳では無いが、荒い息を繰り返しながら、僕は再度の未来予知を実行する。

 見えた未来は――――

「時雨!!!!」

 目を開き、叫んだ。力の限り。

 それでだけで、僕の意図する所はきちんと時雨に伝わった。

 正面で泥人形と攻防を続けていた時雨は、待ってましたと言わんばかりに、瞬時に後方、つまり僕の後ろへと大きく跳び退いた。

 視界に残るは、少年の形をした黒い泥人形のみ。

 そこまでの距離は、十メートル以上あっただろう。

 だが、僕がやった事は、刀を振り下ろした――ただそれだけ。

「はああああああああ!!!!!」

 そう、僕の握る光輝く刃は、今や泥人形との距離を優に超える三十メートルは有るかと思われる長さ、そして泥人形を余裕で押しつぶすだけの二メートル以上の幅を持っていたのだ。

 それだけ巨大な輝く刀は、アルドで出来ているがために重さは全く感じられない。

 僕の感覚としては、ただ手元の細い円筒を振り下ろすだけだ。

 けれども、その巨大な刀が泥人形の頭上へと到達すると、それに反発する力が手元へと伝わって来る。

『ぐ、が、が、こ、こんんんな、もの、で!!』

 黒い少年の声。

 泥人形は、光の刃の重圧から逃れようと、両手で刃を押し返そうとしている。

 そう、これだけ巨大な刃になっても、やはりその泥人形の身を傷付けるには至っていないのだ。

 だからこそ、狙ったのは圧倒的なアルド量で押しつぶすという物量作戦。

 僕は両手に力を込める。ここまで来て、気を抜く訳にはいかない。

 黒いアルドが触れる物を汚染する様に、泥人形が光るアルドの刃に触れ続ける限り、徐々にその接触面の黒いアルドは浄化されて行くのだ。

 刃が通らなくても、奴を刃に触れ続けさせる――そうすれば徐々に黒いアルドは削られて行き、最後には硬い身体も維持出来なくなり、黒いアルドは完全に浄化される事となる。

 それが僕の見た未来。

 だから、もう既に勝負は決しているのだ。僕が、この刃を振り下ろしたその時に。

 だが、最後まで手を抜く訳にはいかない。全力を持って奴を押しつぶすというのが、僕の出した結論なのだから。

『こ、こんな、ば、バカな……ち、力が抜けて、ぐ、ぐ、ああ!!』

 次第に、両手に感じる反発も弱くなっていく。

 心なしか、光る刃が地面へと迫った様な気がする。

 その証拠に、押しつぶされているはずの黒い泥人形は、輝く刃に遮られて視認出来なくなってしまっている。それだけ、小さくなったという事だろう。

「一輝、もう少しだよ!」

 と、不意に肩に手が添えられる。

 それが星河のものだという事は声からすぐに分かる。

 同時に、ふっと身体が軽くなる。全力で走った後の様な疲労感が薄れたのだ。

 つまり、星河がクレセントムーンの力で体力かアルドかを回復してくれたのだろう。

 おかげで、口を開く余裕が出来る。

「ありがとう、星河。助かる」

 そう礼を言うと、

「ううん、これが私に出来る事だから」

 そんな返事が返ってきた。

 それを聞きながら僕は両腕にさらに力を込め、叫ぶ。

「終わりだ! この泥人形が!!!」

『こん、こんな、こんなはずでは!! く、そ、がああああああああ!!』

 それが泥人形の断末魔の叫びとなった。

 両腕に感じていた反発の力がふっと消え、光る巨刀は地面へと叩き付けられる事となる。

 たっぷり十数秒、僕はその両腕に力を込めたままの姿勢を維持し、

「終わったのか?」

 背後から聞こえて来た時雨の声に顔を上げた。

 同時に、両手に握る円筒から伸びていた光る刃が、灯が消えるかの様にして瞬時に消える。

 その下から現れたのは、ただ押しつぶされてくたびれた公園の芝生のみ。

「はは、そうみたいだな」

 口から出たのはそんな言葉。

「やった? ねぇ、終わったんだよね?」

 すぐ耳元に星河の声が聞こえて来て、星河が僕の肩へと手を添えたままだという事にそこでやっと気が付く。

「せんきゅー、二人共。やっと、終わった…終わったん、だ…な」

 そう言い終わるのと同時、全身の力が抜け、僕は地面へと倒れ込んでしまった。

「か、一輝!?」

「お、おい! 大丈夫か!?」

 そんな二人の声が、何処か遠くから聞こえて来る様な気がした。



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