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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
三章 秘密
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日高家へ

 星河の家はパン屋である。けれども、僕の家とは違って店の入り口の他に、裏手に日高家としての入り口がある。

 もちろん、買い物に来た訳ではないのでその裏手へと回って、玄関脇の呼び鈴を鳴らし、扉を開く。

「こんちはー!」

 元気良く挨拶する。

 と、すぐに玄関に姿を現したのは星河の弟の(ひろし)だ。

「あーかずきだ!」

 ととととっと犬のように一直線に廊下を走ってきて、ぼふっと勢い良く下腹の辺りに体当たりをかます。

「おー相変わらず元気だな、宙は」

 予想通りの行動に、何だか頬が緩む。

 丁度つかみ易い位置にある五歳児の頭をわしゃわしゃと撫で回し、そのままでは動けないので体から引っぺがす。

 そうこうしている内に、奥から別の人影が現れる。

「あ、おじさん。こんにちは」

 運良くそれは、届け物を渡すように指名された人物、日高修司であった。

「こんにちは、一輝君か。星河はまだ帰って来ていないんだが」

 見慣れた柔和な表情で、僕と宙のやり取りを見て、星河と同じ垂れ目を細めている。

「あ、いや、今日はおじさんに用が有って来たんです」

「私に? 星河をお嫁に欲しいって言うんなら、高校卒業するまでは待ってもらいたいな」

 ホント、この人は二言目にはいつもこれだ。

 幼い頃からの付き合いで、僕のことも実の息子のように可愛がってくれているのは嬉しいんだけれども、星河をお嫁にやるのは僕しかいない、などとまで言うのはどうなのか。

 大体、こういうことを言われると、星河と付き合っている訳でもない僕としては、どう反応したら良いのか困ってしまう。

「いや、今日は父さんから届け物を預かって来たんですよ」

 今までの経験から、おじさんの言葉に一々反応しても泥沼にはまるだけなので、冗談はスルーして要件だけを伝える。

「届け物? 何か頼んだ覚えはないんだが…」

「いえ、なんでも昔借りた物らしいんですけど」

 と、首を傾げていたおじさんの顔が一変する。

「借りた……それってもしかして首飾り?」

「は、はい、そうですけど」

 急に変わった厳しい表情に気圧されながらもそう答える。

 すると、おじさんは何かを呟いたように見えた。

「あの、どうかしましたか?」

 その様子が、あまりにも普段とかけ離れていたために思わず訪ねてしまう。

「あ、いや、何でもないんだ。と、ここではなんだから居間の方に上がっていきなさい」

 ペンダントを渡すだけなら別にここでも構わないはずなのだが、僕はその言葉に従って靴を脱ぐ。

 父親の奇妙なお使い命令に続き、このおじさんの反応。何かあるのは間違いない。

「宙、お父さんは一輝君と大事なお話があるから、一人で遊んでいなさい」

 おじさんは宙の背中を押して、二階へと連れて行こうとする。

「えー! せっかくかずききたのに! いっしょにあそぶー」

 と宙はそれに逆らおうと体を揺する。

 いつもなら喜んで一緒に遊んでやるのだが、何やら今日はそんなこと言っていられない雰囲気である。

「宙、また今度遊んでやるから今日は我慢してくれ。な?」

 屈み込んで宙の顔をのぞき込む。

 と、宙は口を尖らせ渋い顔をする。

「しょうがないな、きょうはゆるしてやる。そのかあり、つぎはかくごしておけー!」

 現れた時と同じ様に、とととっと廊下を走り、階段を上って行く宙。

 それを見届け、立ち上がる。

「ははは。我が子ながら物分りは良くて助かる。じゃあ行こうか。店の方に行って、しばらく店番頼むよう母さんに話してくるから、先に行って待っていて」

 そう言って浮かべた柔和な笑みは、さっきとは違って何処かぎこちない。

「分かりました。では行ってますね」

 そう返事をし、僕は日高家の居間へと向かった。



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