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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
十章 闇
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消える想いと残る意志


『ふ、ふふ。我が誰かだと? 我は人では無い。なれば名前など持たない。だが、そうだな。あえて何かと言うならば、闇のアルドの化身と言ったところか』

 何処か偉そうな響きをもった低い落ち付いた声。しかし、僕らが答えるよりも早く、同じ声が別の言葉を発した。

『違う! あなたは人よ! 思い出して! あなたは――』

 声を精一杯、喉の奥から絞り出した様な大きな叫び。

 同じ声であるにもかかわらず、別の女性が発している様に聞こえる。まるで、一人で二役を演じているかの様に。

『ええい、黙れこのクソ女神が! 貴様などに我が身体を好きにはさせんぞ!』

 再び低い声になるが、やはり元の声は同じに聞こえる。

「ったく、一人で何小芝居やってんだか」

 ぼそりと、時雨がそう漏らした。

「でも、何となく状況は見えて来たよ。今の泥人形、アレはまだ取り込んだ人格同士がぶつかり合って上手い事動けないで居る。だから、先程までよりは危険が伴うかもしれないが、まだ削り続けるチャンスだ」

 あの好戦的な人格が、全てを支配する前に出来る限り黒いアルドを減らしておくのが正解だ。

 僕は、星河の能力によって傷がすっかり消えて無くなった右肩をぐるりと回し、その動きに違和感がない事を確かめる。そして、

「ありがとう、星河」

 お礼を言うのと同時に、時雨の横をすり抜けて泥人形へと斬り掛かった。

 一刀目は何事も無く泥人形の左肩から右脇へとその身体を両断する。

『ぐうう、貴様ぁ!』

 その切断跡は今まで通りすぐに塞がるが、今度はその肩から黒い刃が生えて来て、続く二刀目はその刃によって弾かれる。

 僕は能力を発動、次の斬撃を放つ。

 左脇からの横薙ぎの一撃は予定通り泥人形のアルドを削り、その間に泥人形の肩の刃は消えてしまっている。

 続け様に二撃、泥人形のアルドを削り続ける。

『まだ粘るか、アルディール!!』

 声が響くが、それには気を取られずに能力を使って刀を振るう。

 今度は反撃の未来が見えたが、振り下ろした刀はしっかりと泥人形の身体へとすぐ消える傷を刻む。

 そこで、見えた通りに黒い刃が迫る。

 僕の身体を一メートル程離れて、回り込む様にして伸びていた黒い塊が、背後から刃を振り抜く。

 だが、それには僕は何の反応もせずに、次の斬撃を泥人形の本体へと放っていた。

 何故なら、背後からの刃を炎の剣で打ち払う時雨の姿が予知出来ていたからだ。

「せんきゅー」

 視線も向けずにそう言いつつ、僕は斬撃を繰り出す手を止めない。

 段々と、目の前の泥人形は女性の姿が定まらなくなって来ていた。

 表面がぐにゃりと歪んだかと思ったら、黒い刃が飛んで来る。それをやり過ごすと、元の女性の姿に戻っている。

 そんな事を繰り返している内に、それがどういう事なのか理解出来た。

 おそらく、女性の姿を維持している限りは、自ら進んで無に帰ろうとしている女性の意志が強く反映されるのだ。

 そして、その意志に反する攻撃的な意志は、その女性の姿を歪ませて攻撃を繰り出してくる。

 いつまで保てるのか分からないが、その強い女性の意志に感謝しつつ、僕は刃を振るい続ける。

 泥人形を構成するアルドが減るにつれて、女性の姿が保たれている時間はどんどん減っていく。

 始めはこちらが三回程刀を振る間に一回の反撃というペースだったのが、今や一回毎に黒い刃が迫って来る。

 けれども、まだ女性の意志が邪魔をしているのかその攻撃は単調だ。未来予知の能力を使えば、見えるほぼ全てが攻撃をかわす未来だ。

 前から来る黒い刃を光る刃で弾くと、そのままの勢いで泥人形の脇腹を斬り裂く。

 すると今度は、背後で時雨が炎の剣と黒い刃がぶつかり合う音が聞こえ、僕はその間に泥人形を肩口から斜めに大きく両断する。

 二つに裂けた様に見えた泥人形はすぐに元の一つに戻るが、その両手が人のそれでは無く、巨大な鎌へと変わっている。

 左右からの交差する斬撃を、僕は後ろへと飛び退いて回避、その鎌を支える細い腕へと斬撃を繰り出すと、巨大な二つの鎌は本体から切り離され宙を舞う。

 大きさからそのままにしておけないと判断し、突きを放つ。光る刃に貫かれた鎌であった塊は、数秒の内に光る粒子となって空中に霧散して行く。

 そして、僕は女性の最後の声を聞く。

『すみません、ここまでで――』

 急遽、五メートル程の間合いを取って後退した僕の視界には、もう既に女性の形をした泥人形は映らなかった。


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