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クラウド・ルインズ  作者: 時野 京里
十章 闇
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反応

 そんな事を考えている内に、僕らは時雨のすぐ傍に到着する。

 紋章術によって泥人形は吹き飛ばされ、時雨は泥人形と十メートル程の距離を取って対峙していた。

「やあっと到着か。アレをどうするか、方針が決まったっつー事で良いんだよな?」

 一人戦っていた時雨は、僕らがどんな話をしてここまで来たのかという事をまだ知らない。

「うん。私達三人で決着を付ける事になったよ。でも、要となるのは一輝だけどね」

 星河の質問に、時雨は訝しげに問い返す。

「要ってのは?」

 話しながらも、時雨の視線は泥人形へと向かったまま。

 ずっと激しく動き続けていたというのに、吹き飛ばされ、地面に転がった泥人形は中々立ち上がろうとはしない。それはまるで、こちらの会話が終わるのを待っているかの様だ。

「クラウドルインズのアルドが唯一、あの黒いアルドを中和する事が出来る。だから、僕の力で奴を斬り刻むってのが、奴を倒す方法だ。二人は俺のサポートって事になる」

 僕の言葉に、時雨は肩をすくめる。

「やれやれ、やっと本気出してやれると思ったが、こっから先もやれる事は大して変わらねぇって事な。オーケー、俺もあのアルドに汚染された世界ってのには住みたくないからな」

 そんな軽口に対し、僕は腰からクラウドルインズを手に取りながら答える。

「じゃあ、頼むよ。俺も星河もあの動きに一対一で付いていけるとは思ってないからな」

 手に握る円筒へとアルドを込める。

 するとすぐに、手にした円筒から光の刃が現れる。

 瞬間、

『それは!!』

 泥人形の声が響く。

 だがそれは、今まで聞こえていたザルードと同じ声では無い。

 最初に聞こえた、ザルードが姫と呼んだ声でも無い。

 新しい、今まで聞いた事の無い女性の声だった。

 だが、その頭に響く特有の声は泥人形の物でしかあり得ない。

 泥人形はいつの間にか立ち上がっており、その姿形も全くの別物、おそらく聞こえて来た声の女性の姿へと変わっていた。

 その髪型は、最初、姫と呼ばれた姿になる前の形と似ていた。背中の後ろまで伸びる長い髪。

 顔や体の造形は、あの時は定まっていなかったが、今ははっきりと決まっている。

 先程の姫の姿よりは大人びていて見える。二、三十代位の若い女性の姿だろうか。

 相変わらず真っ黒なので判別は難しいが、何処となく中東やインドの民族衣装を思い出される衣装が体を包み込んで居て、頭にもターバンが巻かれている様に見える。

 全く見覚えの無い姿だが、これもこちらに来る前にシュトゥルーでコピーして来た姿だろうか。

 だとしたら、何故、今この姿に変わったのだろうか。

 その答えは、続く言葉によってすぐに予想出来た。

『…それは…の……ルイン…』

 不明瞭ながらも、それは僕の手にする輝く刃を目にしての言葉。

 そう、おそらくクラウドルインズに反応して新たな姿へと変化したのだろう。

 元々、ザルードの姿に変わった時点で、三つの至宝に反応していた。

 それが、クラウドルインズに対してのみ今の様な新たな変化を示した。という事は、この姿の女性はクラウドルインズと何か深い関係が有る人物なのだろうか。

 泥人形は僕に対してゆっくりと手を伸ばす。そして――

『あ…ああ…私は誰?』

 急に問いを発した。

『俺は…誰だ?』

 言葉は続く。だが、その声は、ザルードとも違うまた別の男の物となる。

『あたしは…私は…私は…僕は…私は…俺は…私は―――』

 目まぐるしく声が変わり、もうそれが聞いた声なのかそうでないのかも分からなくなる。

 この泥人形は、一体どれだけの人をコピーして記録しているのか。

 ザルードにほんの少し触れただけで模倣しきったのだから、僅かでも触れれば心も姿も取り込めるのかもしれない。

 とは言うものの、目の前の泥人形は声が変わるだけで、その姿は先程の女性の姿から変わっていない。声と姿が一致しない…その事に何か意味が有るのだろうか。

 呆気に取られて泥人形を見ていた僕に、

「おい、今がチャンスなんじゃないのか?」

 時雨が冷静に指摘してきた。


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