勝利条件
アルドの性質――アルド自体を知ったばかりの僕には良く分からないが、一体どういう事だろうか。
そんな僕の内心を悟ったのか、父さんが丁寧に解説口調で話し出す。
「アルドは、この世の全ての物に宿っている。俺達が能力を使えば、それによって消費されたアルドは空気中や周囲の物質の中へと細かく霧の様になって散らばって行く。そして、それは色々な物の中を循環し、またいつか俺達の身体へと取りこまれる」
つまりは、原子や分子が世界を回っているのと同じ様なものか。
父さんの言葉は続く。
「だが、あの泥人形を構成しているアルドは周囲に悪影響を及ぼす。浸食し、同じ様に黒く染め上げる。アレが霧散して周囲に取りこまれたら…周囲のアルドも同じ様に黒く染まってしまう可能性は十分に有る」
父さんが出した結論は、詰まる所、手の打ちようがないという事だ。
そのままにしておいても触れた物を浸食し、小さなアルドとして周囲に霧散しても浸食してしまう。
ならば一体どうすれば良いというのか。
…いや、ちょっと待て。本当に何も打つ手がないのか?
思い出せ、あの泥人形――ザルードの心を代弁した泥人形は何と言っていた?
そう、確か…三つの至宝を持ち帰りシュトゥルーを救う――そう言っていた。
現在のシュトゥルーはあの黒いアルドに多くの土地が侵され、人々が苦しんでいるとザルードは言っていた。
そのシュトゥルーを救うという事は、黒いアルドの浸食からその土地や人々を救い出すという事ではないか。
三つの至宝さえ有れば、あの黒いアルドに対抗出来るという事ではないか。
僕はザルードへと話し掛ける。
「あの泥人形が言っていた。ザルード、あなたの本当の目的を。シュトゥルーを救うために三つの至宝を持ち帰る、と。つまり、至宝が有ればアレに対抗出来るという事ではないですか?」
僕の問いに、ザルードは顔をしかめる。
「確かに、私の目的は三つの至宝を持ち帰る事が第一だった。シュトゥルーにある残りの二つの至宝と合わせ、五つの至宝の力が集まれば闇のアルドに打ち勝つ事が出来る――そう言い伝えられていたからだ。…つまりは、貴様達の先祖達が至宝を持ち出さなければ、シュトゥルーの荒廃は今程進んでいなかったという事になるがな」
そのザルードの指摘に、胸の奥がズキリと痛む。
自分がした事では無いにしても、御先祖達のせいで、シュトゥルーに住む多くの人達が苦しむ事になっているという現実を突きつけられたのだから。
だが、紫雲さんがザルードの言葉を真っ向から否定する。
「そもそもはアンビシュンが侵略という手段を取ったがためだ。その頃からアレの様な物による被害が出ていて至宝の力が必要だったのなら、力を借りるという方法もあったはずだ。そうしなかったがための結果だ。一輝君、君が責任を感じる必要は無いぞ」
僕の心境はどうやら顔に出ていた様だ。
そう言われ、少し胸の中が軽くなった様な気がする。
「私も生まれる以前の昔の事をとやかく言うつもりはない。余計な事を言ってしまったようだな。すまなかった」
意外にも、ザルードがすぐに謝罪の言葉を口にした。
騎士としての格好からも読み取れるが、敵対する関係に無ければ本来は礼儀正しく、心やさしい人なのかもしれない。
辺りに何となくしんみりとした空気が漂う中、それをぶち破る様に普段通りの語り口で父さんが話し出す。
「って事で話を戻すが、アレを何とかする糸口は見えて来たって事で良いのか? 至宝の力を使えば、あの黒いアルドを清める事が出来ると?」
「今ここには三つの至宝しかないが…あれだけの量のアルドで有れば可能だろう。要である、クラウドルインズは有るのだからな」
ザルードの言葉に僕は問い返す。
「クラウドルインズが要?」
「そうだ。あの黒いアルド中和する事が出来るのは、クラウドルインズが生み出すアルドだけだ。他の四つの至宝が必要なのは、クラウドルインズの力を強めるためなのだからな」
結界を張る時もそうだったが、ここでもクラウドルインズが中心の役目を果たす事になるのか…。
急に肩の上にずっしりと重い物を乗せられた様な気分になって来る。
そんな僕の心中をお構いなしに、
「クラウドルインズなら、ね。やはりそういう事か」
何か納得している父さん。
「何がそういう事なんだ?」
紫雲さんが問い掛ける。