最初の夢
クラウド・ルインズ
辺りはぼんやりと靄がかかっていて、視界がはっきりとしない。
うっすらと見える周囲の様子から考えると、どうやらそこはしっかりと手入れの行き届いている日本庭園のようだ。
周りには竹林が広まっていて、そこに屋敷が唯一つ、静かにたたずんでいる。
ふと、その静寂を破り若い男の声が聞こえてくる。
「姉さん、話というのは?」
その声に反応し、屋敷の中から何やらガサゴソと音がすると、閉められていた縁側の戸が開かれる。
「時雨? もう来たの?」
中から出てきたのは一人の女性。着物姿で、どこまであるのかぱっと見では分からない程長い黒髪をなびかせている。
なにやら慌てている様子で、彼女は落ち着きなく周囲へ視線を巡らせて他に人気がないのを確認すると、
「時雨、早く中へ」
男を中へと招き入れる。
男は言われた通りに音も立てずに女の後に続く。
そのまますっと戸は閉められ、あたりには再び静寂が訪れる。
まるでテレビドラマを見ているかの様に視点が急に切り替わる。
今度の場所は、おそらく先程の屋敷の中。
客間…なのだろうか。綺麗に片付けられた畳張りの部屋にはただ机が一つあるだけで、他にこれといった家具は見当たらない。
視界は相変わらずぼんやりとしていてはっきりとは分からないが、男女が机を挟んで座っている。
「久しぶりね、時雨」
「ああ、この家に来たのは一年振りだからな」
二人の声、その言葉から先程の二人に間違いないだろう。
「と、それより本題に入りましょう」
柔らかな口調だったのが一転、女の声は急に堅く緊張感のあるものへと変化する。
「大方想像出来ていると思うけど、まず、今日あなたをここに呼んだ訳は――」
声が潜められ、内容を聞き取ることが出来ない。
だが、それを聞いた男は思わずといった感じで大きな声を上げる。
「なんだって! それじゃあ――」
「しっ! 大きな声を出さないで。どこで聞かれているか分からないわ」
そう言って女は男の口を塞ぐが、男につられたのか声は聞き取れる程に大きくなっていた。
「それで、あれをあなたに持っていて欲しいの。ここが見つかるのも時間の問題だから」
女は屈み込むと机の下から何やら取り出し、机の上へとそれを載せる。
それは閉じた手帳ほどの大きさの、薄い木箱のようだ。
「これが――」
恐る恐るといった感じで男が手を伸ばし、箱を受け取る。
「そうよ、それが――――よ」
何故か、その言葉だけ聞き取ることが出来なかった。
確かに女はその言葉を口にしたはず。その声の大きさにも変わりがなかったはず。なのに、何故かその言葉だけがすっぽりと抜け落ちていた。
「何かあったら連絡するわ。気をつけて。だからあなたも――」
「分かっているよ。それじゃあ」
女の言葉を遮って男はそう言うと立ち上がる。
と同時に、ぼやけていた視界が今まで以上にぼやけてきて、そして――