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イセイジン  作者: HAL
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第2話

-Kニ告グ。ワレラノ種ト人間ノ種ガ混合シタ、ワレラノ仲間ガ地球ニイル。探シテ連レテ来ルノダ。彼女ノ名前ハ、戸田あかり。ワレラノ王ノ子ダ。必ズ連レテ帰還セヨ。-

-ラジャー-

北極星との脳波通信を終えた彼は、人間世界に馴染むために始めた昼はカフェ、夜はバーというカフェバー、『ポラリス』への帰りに自分の密命の目的となる彼女を見つけた。その彼女は、今、彼の前でベンチに仰向けに横たわっている。よく見れば、彼女の顔にはまだ新しい涙痕が光っている。ここは最近、変質者が出たと噂の場所だ。ここは危険だと判断した彼は、彼女を抱き抱え、ポラリスへと運んだ。


目が覚めると、暖かな毛布が自分を覆っている。さっきまで私がいたのは外のベンチだったはずだ。それがどうしておしゃれなカフェらしき場所に来ているのだろう?ここはどこなんだろう?ここに誰が運んでくれたんだろう?次々と疑問が頭の中で駆け巡る。すると、目の前に男性のような、女性のような、どちらとも言えない、綺麗な人が私を覗き込んできた。

「あ、起きましたね。良かった。さっきまで外のベンチで眠ってたからわここまで運んで来たんです。」

「ありがとうございます!すみません。重かったですよね…。」

「そんな!天使の羽のように軽かったですよ!」

「ふふっ。天使の羽だなんて大げさですよ。」

「あ、やっと笑いましたね!ずっと、表情が暗かったから、気になっていたんです。」

「そんなに、暗かったですか?」

「えぇ、それはもう、幽霊にでも会ったような顔をされてましたよ。」

「むしろ幽霊の方がよかったです。今日は仕事で大きなミスをしてしまって…。」

「そうだったんですかね。私で良ければ、聴きますから、さぁ、話してみてください。」

「じゃあ、お言葉に甘えて…。」

私はなぜか、名前も知らないこの人に親近感を覚え、今日のプレゼンテーションで起こったことや、これまでやってきた努力を全部話した。話してスッキリするかと思ったら、今日の失敗で、失恋したことを思い出して、涙が止まらなくなった。入社してからこれまで3年間、ずっと片想いだった彼と一緒に仕事が出来ると思った矢先に、自分のせいじゃないけど、自分の仕事で彼からの信用を全て失ってしまったこと。その後、のこのこ浮かれて行った副社長室で…散々言われたことがよみがえって来た。

入室して、扉を閉めた瞬間に、彼がデスクをダンッと叩いた。そして、

「君は仕事をなんだと思っているんだ!どうして、一生懸命やったと言うならば、こんな失敗ができるんだ!小学生でもこんなミスはしないぞ!仕事に対する態度がこんなんじゃ、普段からさぞかし雑な生き方をしているんだろうな。よく見てみれば、その服はシワだらけだが、何日同じ服を着てるんだ?その様だと、風呂にも入って無いんじゃないのか?俺は自分の管理もできない人間が一番嫌いだ!そして、そんな人間を雇う余裕は我が社には無い。ビジネスの世界では、次は無いんだ!チャンスは自分で作るものだで、掴むものだ!今回、君は自分で自分のチャンスを蹴ったんだ。そのことをよく覚えておくんだな!もういい、出て行け。」

そうやって、罵るだけ罵って、私には反論や弁解する余地も与えてくれなかった。しかも一番腹立つのは、私がドアノブに手をかけたときに、

「あー、それと、これは君にプレゼンとだ。」

そう言って、私に投げ渡してきたのは、求人情報雑誌だった。だから私はせめてもの反抗として、あいつの目の前でその求人情報雑誌を破り捨ててやった。

「悔しい。本当に腹が立つ!絶対、あんな会社辞めてやる!」

「確かに辞めたい気持ちはよく分かりますが、そのような人間には、目の前で一生懸命頑張る姿を見せるのが一番効果があるんですよ。」

「そうでしょうか…。じゃあ私、頑張ってみようかな?」

「えぇ、あなたは悪くないんですから、きっと周りも認めてくれるはずですよ。」

そう言って、この人は笑った。そうしてる間に、今日の怒りや悔しさの負の感情が浄化されていった。


もうすぐ10時になる。今日も、副社長兼俺の友人である牧野蒼汰を家に送り届けるまでが、俺の秘書としての仕事だ。

「成瀬、今日のプレゼンテーションの女、明日中に会社を出て行くように言っておけ。」

「あぁ、分かった。しかし、彼女になんの弁解もさせなかったのは、ちょっとひどいんじゃないのか?」

「成瀬、俺の嫌いなことは何だ?」

「無駄なことだろ?」

「そうだ。分かってるなら、これ以上、無駄口を叩くな。」

「はぁ…。」

我が社の副社長、牧野蒼汰の性格は魔王並みだ。うちの女性社員たちは、こいつのことを顔良し!頭良し!家柄良し!非の打ち所がない、王子様と呼んでいるが、実際は性格が捻じまがった、ひねくれ者だ。しかし、外面だけは良いから、未だにこいつの本性を知っているのは俺だけだ。こいつの性格には、きっと神様も、地獄の閻魔大王でさえもお手上げだろう。いや、待てよ?よく考えれば、俺以外にも、こいつの本性を知っている人間がいた。というか、今日、知ったやつがいる。あの女子社員はきっと今頃大泣きしてるだろうな。まぁそうだろうな。憧れてた王子様が、魔王だったんだから…。

「おい、成瀬。信号は青だぞ。早く車を出せ。」

「おっと、すまない。」

「やっぱり腹が減ったから、どっか寄って帰るぞ。」

「はいはい。」

「なんだ、めんどくさそうな返事しやがって。おい、あそこの店にしよう。」

「まったく、店を過ぎた後で、行き先を言うなっての。戻るの大変だろ?」

「あーあ。あの店に行ったら、かわいい子がいっぱいいたのになあ。」

「え?マジで?!よし、行こう!」

「ふんっ。ちょろい奴だな。」


あいつの言葉に乗せられた俺が馬鹿だった。我が社の副社長様は、普段の外面を保つために隠してるけど、実は甘党だ。体の6割が砂糖でできてんじゃないか?って疑うくらい。

「おい、ここ男二人で来る場所じゃないだろ…。」

「別にいいだろ?スイーツバイキング店。最高じゃないか!」

「お前、こんなの夜に食べて、胃もたれしないのかよ。」

「ふっ、この甘党の胃袋をなめるなよ。それに女子社員がよく言ってるだろ?デザートは別腹だってな。俺にも、デザートは別腹だ。」

女の食べる甘ったるい菓子でこんなに喜ぶ男はこいつくらいのもんだろう。確かに、店は女の子でいっぱい…いや、女の子しかいないけど、こんなんじゃ、ナンパする女の子を吟味できないんだけど!逆に女子の目線が痛いし、恥ずかしいんですけど!!!完全にやられた…。ん⁈かわいい子発見!!ちょうど、あいつも席に戻って来たし、教えてやろうっと。

「なぁ、蒼汰!お前から見て、この仕切り挟んで、右のテーブルに座ってるショートの子、かわいくね?」

「ショート?あー、確かにお前好みの頭の足りなさそうな女だな。」

「はぁー、お前は本っ当に毒舌だよなぁ…これが王子様なら、俺はかの有名な英雄ナポレオンほどはいい男だよな~。」

「はっ、お前のナルシストはいつでも健在だな。」

「てか、あのショートの女はうちの社員だぞ。確か、今日のプレゼンテーションにいた、フード部門の枝川夏美だな。」

「マジかよ!うちにあんなかわいい子がいたなんて!!どうして早く気付けなかったんだ!」

「どうした?お得意のナンパはしないのか?」

「いや、今日はとりあえず、男がいないかの身辺調査をする!」

「ま、好きにしろ。俺はスイーツのおかわりを取ってくる。」

あいつ、絶対に明日胃もたれになるな。まぁ、うちの副社長は放っておいて、俺はこれから、単独捜査を行う!まずは話から男がいるかの確認だ!

「おい、成瀬…。仕切りに耳を当てて盗み聞きはどうかと思うぞ。」

「あー、はいはい。」

「ねぇ、夏美。今日は嬉しいことでもあったの?」

「そうなのよ!おかげで、口角が上がりっぱなしなの!!」

「何よ、そんなに良いことがあったのなら、聞かせなさいよ~。」

「ふふっ、今日、ついにあの憎っくき戸田あかりのプレゼンテーションをぶっ壊してやったわ!」

「あんた悪い女ね~。で?どうやったのよ?」

「それはね~、お茶に細工してやって、印刷物を総務部のと入れ替えてやったのよ。焦ったあいつの顔を思い出すと、笑いが込み上げてくる…ふふふふ…あははは………‼︎‼︎ふ、副社長‼︎」

「おい、さっきの話は本当か?」

「な、なんでこんなところに副社長が⁈」

「質問しているのはこちらだ。枝川夏美、フード部門の社員だろ。しかも、今日のプレゼンテーションにもいた。お前のことは、会社に行けば、すぐに調べがつく。ここで嘘を言っても、給湯室の監視カメラを確認すれば、すぐに分かるんだぞ!」

「…。すみませんでした。でも、私は納得できないんです!彼女なんかより、私の方が企画力があるのに、田辺部長が彼女に企画を任せるから!!!」

「ほう?自分の未熟さを人のせいにするのか?自分の方ができると言うのなら、仕事で示すのが道理だろう⁈処分は明日言い渡す。覚悟しておけ。成瀬、帰るぞ。」

「はい。」

家へと向かう車の中で、蒼汰は一言も発さなかった。ただ、あの女性社員に理不尽に怒鳴り散らしたことを思もいだしたのか、ばつが悪そうな顔をしていた。そして、車を降りたときに、彼女の処分は取り消しだと、一言だけつぶやいて、家へと消えていった。今日は星がよく見える夜だ。明日はきっと雲ひとつない青空が広がるだろう。

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