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イセイジン  作者: HAL
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第一話

「・・・だくん、戸田くん!おい、戸田あかりくん、起きなさい!」

「ひぃ!ぶ、部長、すみません!」

「まったく。そろそろプレゼンテーションの時間なんだから、しっかりしてくれよ?今回は副社長もいらっしゃるんだからな。」

「はい・・・。」

私は日本でも指折りの大企業、牧野コーポレーションのフード部門で、商品開発を担当している。今までは雑用と手伝いしかさせてもらえなかったけど、今回、プレゼンテーションする企画は私が初めて部長から単独で任された。だから、部長の期待に応えるためにもこれまでの1ヶ月、血のにじむ思いで取り組んできた。でもさすがに今日は緊張するなぁ~。はぁ~、まさか副社長が来るとは思わなかったもんな~。こんなことなら、もっとダイエットしておくべきだったよ・・・。ここ最近の食生活と言えば、デスクに転がるカップラーメンと栄養ドリンクの空き瓶の山が物語っている。一日3、4時間寝られたら良い方だ。おかげで目の下のクマは消えそうにない…。とほほ、こんなんじゃ副社長に顔も見せられない。はぁー・・・最悪だよ~。泣きたい。

「あかり~、なにをしょぼくれてんのよ。あんたらしくないじゃない?」

「うぅ、潤ちゃ~ん。だってさー、だってさー!副社長が来るんだよ!顔よし!頭よし!家柄よし!非の打ちどころが無い、女なら誰しもが望む理想の王子様にお目にかかるチャンスなのに!なんであたしはこんなボロボロの姿なのよーーー!」

「なるほどね~。でも、私はシンデレラの魔法なんてかけられないからね。せめて、その見てるだけの恋がプレゼンテーションの成功で前進することを祈るわ。頑張れ、あかり!」

「うん!ありがとう、潤ちゃん!」

潤ちゃんはしっかり者で、いつもあたしを支えてくれる最高の友達だ。その通り、今もこうやって私の嘆きを聞いて、励ましてくれる。恋のためにもこのプレゼンテーション、成功させなきゃ!


-女子トイレ-

「なんで、部長はあんな女にこの企画を任せたのよ!私の方がずっと、ずっと・・・!!そうだわ!あの女のプレゼンテーションをぶち壊せばいいのよ。ふふふ~ん。私って策士よね~。見てなさい!戸田あかり。あんたのプレゼンテーションはおしまいよ!」


-会議室-

プレゼンテーションの準備は上々だ。そろそろ副社長が来るころだ。任せてくれた部長のためにも絶対に失敗できない。頑張れ、自分!

「よし、そろそろ時間だ。戸田くん、迎えに行こう。」

「はい!部長!」神様、ありがとう!感謝します!ついに我が社の王子様に会えるのね!

「え~、部長~。夏美が部長と一緒にお迎えに行きたいですぅ~。」

「んー、夏美ちゃんがそう言うなら仕方ないな~。じゃあ、戸田くんはここの準備をしておいてくれ。」

「はーい・・・。」ちぇ。何よ、夏美のやつ。先輩への遠慮というものを知らないのかしら!あぁ、神様・・・、これは私が王子様に早く会いたいと思った事への罰なのですか!

「あ、戸田先輩!ちょっと、こっちに耳を貸してください。」

「な、なによ。」

「私がお茶は準備しましたからね。」

「あら、気が利くじゃない!ありがと。」

今日はやけに気前が良いわね。でもなんでわざわざ内緒話のようにこそこそ話さなきゃならないのかしら?・・・まぁいいわ。お茶の準備をする時間が無かったから、ちょうど良かった。



でも、夏美の気前の良さの謎が会議中に解けた。プレゼンテーションが始まる前に私が出した、否、夏美が用意したお茶は、お茶ではなく、罰ゲームかと思うほどの激渋の液体だった。そしてプレゼンテーション中には、なぜか印刷物が別の部署と取り違いになっていて、私がパネルで説明していた内容と全く違っていた。何とか、プレゼンテーションを終わらすことはできたけど、同時にこれまでの1ヶ月の努力が無駄に終わった。これで私の企画、いや、会社人生が終わった。けれど、プレゼンテーションの終わりに、副社長は「過ちは誰にでもあるものだ。次を期待している。」とフォローを入れてくれた。さすが、王子だ!こんな私にまで、慈悲深い。そして、会議室を後にする際に、彼は私を励ますためなのか、副社長室に来るようにと伝言を残した。

そして、伝言通りに私は副社長に向かった。この時、彼が会議室で私をフォローしたのではなく、私に呆れていたのだと分かっていれば、こんな間抜けなこと考えなかったのに。私は大ばか者だ。でも、恋はいつだって人を盲目にさせる。


浮かれた気分で、副社長室に入った私と副社長室から出てきた私の顔はきっと別人のようだったと思う。部屋から出てきた私を秘書の成瀬さんが気遣うように、ハンカチをくれた。

「大丈夫ですか?」

「あ、はい。では、これで失礼します・・・。」

今まで彼を王子と呼んでいた自分が馬鹿らしい。彼は王子様なんかじゃない。悪魔だ。


その日は、プレゼンテーションの処理を済ませて、すぐに退社した。それでも、夜七時は超えていた。定時は午後五時なのに。私はこの1ヶ月、本当によく頑張った。でも、その頑張りが理不尽な意地悪によって芽を出さずに、理不尽に踏みつけられて・・・、納得いかない。でも、怒りよりも疲労が私の全身を包み込んでいた・・・。歩く気力もなくて、寄り道した公園のベンチに腰かけて、悔し涙でかすむ空を見上げた。空はいつだって、太陽が出て、星が出て、また太陽が出る。きっと小さなことじゃこのサイクルは変わらないんだろうなあ。

なぜか、私は夜空を見上げると北極星を探す癖がある。でもこの日、北極星は見つけられなかった。すべてが嫌になったこの日、夜空を眺めている内に睡魔が私を襲い、不思議な夢を見せた・・・。

ー・・・ニ告グ。ワレラノ種ト人間ノ種ガ混合シタ、ワレラノ仲間ガ地球ニイル。探シテ連レテ来ルノダ。彼女ノ名前ハ、・・・・。ワレラノ王ノ子ダ。必ズ連レテ帰還セヨ。-

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