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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

逆行した俺は彼女にもう一度告白することにした。

作者: 陸菓


「えと、あの……ごめんなさい」

 俺がどもりながらようやく絞り出した告白に、申し訳なさそうに謝るサヤさん。少し困ったような顔も麗しい。

 今年の春に俺のクラスに転校してきたサヤさん。その美少女っぷりと明るい性格で瞬く間に学校中で噂になった。内面も外見も良いから、彼女に惚れる男子が続出した。俺、シュウトもその一人だ。

「いや、こちらこそ話、聞いてくれてありがとう」

 そう言って頭を下げる。ここでスマートに言えたら格好良いんだろうけど、情けない事に声はブルブル震えてしまっていた。……分かっていたんだ。顔はまだ普通な事は救いだが、馬鹿でコミュ障、所謂フツメンな俺がサヤさんに釣り合う筈がないって事は。目頭が熱くなる。やっぱり好きな子に振られるってのは思ったよりショックだったみたいだ。泣いている所なんて、絶対に見られたくない。俺は一秒でも早くこの場を離れたくて、サヤさんから逃げるように走り出す。


 気が付いたら俺は自分の部屋のベッドの中にいた。ひとしきり泣いて少し落ち着いたら、今度はシーツの濡れた感触が不快になってきた。それに喉も渇いた。俺はベッドからのっそり出ると、飲み物でも飲もうと一階のリビングに向かう。

 常に思うが、ウチの階段は急すぎると思う。親父とお袋はもっと年を取ったらどうするつもりなんだろう。現役高校生の俺でさえキツ――!?

 足を踏み外し、視界が大きく傾く。ヤバい、落ちる! 俺は衝撃に備えて目をぎゅっと固く閉じる。



 ゴスッと軽い衝撃が体に走る。少し痛いが、これでは軽すぎる。以前階段から落ちた時はもっと死にそうなくらい痛かった。俺はそっと目を開けてみる。そこは俺の部屋だった。だが、変だ。目線が変に低い。周りの家具がいつもより少し大きく見えるし、ずいぶん前に処分したような物まで置いてある。ふと窓ガラスに映った自分の姿が目に入る。

「は!?」

 思わず素っ頓狂な声をあげてしまうが、無理もない。俺は――――小学生くらいの姿になってしまっていた。急いで壁にかけてあるカレンダーを確認する。カレンダーの数字は丁度十年前を記していた。

「どういう事だよっ!?」

 訳が分からない。どうして? なんで? そんな言葉が俺の頭の中をぐるぐると回る。

 かなり長い時間をかけて、ようやく落ち着いた俺は取り敢えず前向きに考えてみる事にした。どういう原理かは全く分からないが、俺は時を遡ってしまったらしい。なら、もしかしたら今までの事全部をやり直せるんじゃないか? 全部やり直したら、俺はもっと凄い俺になって、サヤさんに振り向いて貰えるんじゃないか? ……試してみる価値は十分にある。

 きっと、いや、必ずサヤさんを振り向かせてみせる! 俺は小さな手をぐっと握り締めてそう誓った。

 それから俺は死に物狂いで努力した。積極的に人と関わってコミュ力をつけた。勉強は前の俺は壊滅的な馬鹿だったから、本気で取り組んだ。お陰で成績もクラスで五本の指に入るくらいには良くなった。人間、頑張れば何でも出来るんだな、と思ったものだ。それくらいの頃に暇つぶしで読んだ本の中で俺と同じ体験をしているものがあった。作者はそれを『逆行』と呼んでいた。なんとなく響きが気に入ったから、俺もその言葉を使う事にした。

 中学に入って体が大体しっかりしてきたら、細マッチョを目標に筋トレも始めた。運動をしたからか夜はすぐに眠くなって、規則正しい生活を送れるようになった。そのおかげで身長も逆行前よりもっと伸びそうだ。外見にも気を使った。ファッション誌を読み込んで自分に似合うお洒落な髪型とファッションの研究もした。

 そうこうしているうちに高校生になってサヤさんが転校してきた。久しぶりに見るサヤさんはやっぱり可愛かった。


 明日は逆行前の俺がサヤさんに告白して、そして逆行してから丁度十年目の日だ。俺は明日、サヤさんに告白するつもりだ。逆行前の自分の為に。

 大丈夫、きっと俺ならいける。俺は十年もの間、努力し続けた。何度も挫けそうになった。でもその度にサヤさんの顔を思い出したら立ち直れた。俺の十年はサヤさんの物だ。これは恋なんて薄っぺらい感情じゃない。最早愛だ。

「サヤさん、好きです。俺と付き合って下さい」

 今度はどもったりせずにサヤさんの目を見て言えた。完璧だ。だが、目の前にいるサヤさんはなぜか困ったような顔をしていた。嫌な予感がして、背中に冷たい汗が流れる。

「えと、あの……ごめんなさい」

 なぜだ!? どうして!? 俺はサヤさんの為に十年もかけたのに、なんで駄目なんだ!? 俺の努力が足りなかったのか? ……それなら。

 俺はサヤさんを残して全速力で走り出す。目指すは俺の家。もう一度繰り返せば、きっとサヤさんは俺のものになるはずだ!

 家の階段に着く頃には息は上がりきって、汗も凄いし、折角セットした髪もぐちゃぐちゃになっていた。でもそれくらい気にしない。俺はなんの躊躇いもなく階段の一番上から飛び降りた。





『本日、自宅の階段から転落したと見られる高校生の遺体を――――




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― 新着の感想 ―
[一言] 私は基本的にハッピーエンド主義なのですが……こういうのもアリですね!
[良い点]  ご都合主義に対するアンチテーゼが良いですね。 大好物です。
[一言] 拝読させていただきました。 ふ、不憫すぎやしませんか(汗 ハッピーエンド一直線の流れだったのにどうしてこんな方向に……。 せめてなぜ二回目もあんな結果になったのか、その理由だけでも教えてあ…
2015/01/07 23:02 退会済み
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