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人装神器ゴーアルター  作者: 靖乃椎子
≪第十四話 正義とARK≫
83/118

第83章 実質的自問自答 ◆

 目の前が暗い。何も見えない。

 頭もクラクラして吐き気もし、先程から足もガタガタと震えだす。

 これは哀しみか、それとも怒りか。歩駆はわからないでいた。

 気持ちの整理がつかない、とはこの事だろう。

 いつの間にか見知らぬコクピットで操縦桿を握りしめている。

 外映像部を映す半球型のスクリーンには、警告の文字と共に敵を示すマーカーが統臉軍の新型SVである《シュラウダ》に表示されていた。


『歩駆様の為に作った《Gアーク》です。この機体なら絶対にやれると信じています』

 鎧武者をモチーフとしたトヨトミインダストリー製オーダーメイドSV、《Gアーク》は重い足取りで悠然と敵へ進む。

 アーク、それは“方舟”と言う意味。命名者は竜花で、ネーミングに関しては複数の意味を持つが今は割愛する。


『真道歩駆君。正直、急造な部分もある。百パーセントの力は出せないが、それでもexSVに勝つ為の物はある。だが無理はしないでくれ』

「システムは全て把握しました。私のダイナムドライブがあれば引き出せると思います。問題はパイロットですが」

 織田兄妹からの通信を、機体内部に組み込まれたクロガネカイナが受け答える。現在、歩駆からの操作は無い為、《Gアーク》は彼女による操縦で動いている。


「真道先輩……敵、来ます」

 体内のコアが反応しているのか、《シュラウダ》の特殊繊維で出来た装甲服がゴムの様に伸びて形状を次々と変化させる。


「気持ちが悪い敵です。ちょこまかと中で動いて……せい!」

 背部ブースターを点火させ一気に間合いを詰める。手首を高速回転させながら《シュラウダ》の胴体を貫いた。ドリル状になった手がコアを砕くと《シュラウダ》は膨れ上がり、体液を噴出したながら盛大に破裂した。


「武器が使えないのは真道先輩のせいですからね。飛びますよ」

 一歩、二歩駆けて跳躍。左右にウイングを開かせ大空を飛翔する。


「目的地、設定。到着まで五分。私だけでもジェット機並ですね。Gによる負荷も少ない。流石はトヨトミ製、快適さは他のメーカーとは比べ物にならないもの……」

 黙りが堪えられない独り言のアンドロイドだった。


「…………来る、高度を下げろ!」

 ぞわり、と撫でられる様な感覚に寒気がして歩駆は操縦桿を目一杯引く。急速に落下する《Gアーク》の頭上を虹色の光条が通り抜けていった。


『流石は俺。危機察知能力だけは高いよなぁ』

 嫌みったらしい声が頭に響く。ゆったりとした速度で浮遊する白き巨神、《ゴーアルター》からシンドウ・アルクはもう一人の歩駆を見下した。


『何それ? 俺の知らないSVに乗ってんじゃん。しかも……正真正銘のダイナムドライブも付いてるとか。どういう事なんだ?』

 久しぶりに間近で見る《ゴーアルター》だが、歩駆が乗っていた頃よりも明らかに大きくなっていた。そのせいで背中の赤いウイングが小さく見える。

挿絵(By みてみん)

「礼奈…………そこに、居るのか?」

 お互いに見ているものは違う。アルクからはクロガネカイナは見えず〈ダイナムドライブ〉かある事しか見えてはいない。一方の歩駆は《ゴーアルター》の飛行ユニット、《ジェットフリューゲル》に乗る“彼女”の姿を確認した。


「俺は降ろした筈だぞ……どういう事なんだ?」

『こっちの質問に対して質問がえしするなよ。不気味だな、そのダイナムドライブ……意思を感じる。不思議だな、知ってる気がする……が!』

 不意打ちで《ゴーアルター》の右拳が飛んでくる。クロガネカイナ操縦の《Gアーク》は、後ろに下がりながら背部コンテナから誘導弾を連続発射して拳の進攻を往なした。


『お前の意思を感じない。何だ? どうしたよ? 俺達、自分自身じゃないか』

「…………礼奈が、死んだ」

『礼奈が? マジかよ、そりゃあ……よかったよな?』

「な、何だと!?」

 聞き捨てならない台詞に開いた口が塞がらない歩駆。


『お節介な奴が居なくなったんだ。煩いのが居なくなってやり易いだろ?』

「テメェ、それでも俺か!?」

『そりゃ俺だよ。それによ、あの礼奈は礼奈じゃないだろう?』

 肩をすくめてアルクは呆れ果てた。


『イミテイトが勘違いして生まれた哀れなニセモンさ。だから魂の固着が不安定で行ったり来たりを繰り返す』

「だけど、あれは正真正銘の礼奈だった! 礼奈は戦ったんだよ、自分が変わらない為に必死で!」

『それで? お前はどうなんだよ?』

 いつの間にか《ゴーアルター》が目の前までの接近を許してしまう。


『お前はこの半年間、何をしていた?』

「そ、それは……」

 どもる歩駆。


『見ている事しか出来ないお前が語る資格なんて無いだろ』

「くっ……ほざけッ!! 俺は、俺は」

 何か言い返したいが反論の先が続かない。


『本物、偽物で議論するならば、俺とお前、どっちがシンのアルクだ?』

「それはお前が偽物だろうが!」

『それは違うかもしれないぞ? 憧れ、理想する自分と、嫌いで最低な自分。それが二つに分かたれた。残るべきはどっちだと思うよ!?』

 光の収束、《ゴーアルター》の掌に集まったフォトン粒子が爆発寸前だった。


「真道先輩ッ!!」

 クロガネカイナの判断で《Gアーク》は《ゴーアルター》の胸部を蹴り、急速上昇する。


「しっかりしてくださいよ、さっきから自分と自問自答ですか? 無駄死にしたいんですか?!」

「あ、いや……しかし」

『さっきから誰と話してんだよぉ!?』

 フォトン弾の連続発射が《Gアーク》を襲う。恐ろしく球速は早いが、直線的で避けるのは容易い。


『逃げるだけか! それともまだ完全じゃない、もしくはただの欠陥品かぁ!?』

「向こうの真道先輩、案外大した事無いですね。まるで素人だ」

 クロガネカイナの分析は正しい。攻撃に迷いは無いが派手さばかり目立って挙動が大袈裟に感じるのは、今年の映像データで見た《ゴーアルター》そのままだった。


『まあいいや、今日は特別な日だ。歩駆、俺はシン化しなきゃならない。変わるべきなんだ。こんな退屈な世界で一生を終えるなんて嫌だろ? 漠然とした夢を追いかけるより、今すぐ成れる事……それが人装神器!』

「言ってる意味がわからない……」

『つまり、俺がこの星の神となる』

「うわ……厨二病とか引きますね真道先輩。貴方もそう思っているですか?」

 歩駆は無視した。


『その為に必要な物は人々の俺を讃える声だ!』

 パチン、と指を鳴らすアルク。すると道路にひしめく異形達の行動が止まり街は静寂に包まれた。


「……何だ……歌が聞こえる」

 聞き覚えのある少女の声がコンソールのスピーカーを通して何処からともなく聞こえる。


「真道先輩、聞いてはダメです。集音カット、防音システム作動!」

 クロガネカイナの機転でコクピットは無音に包まれた。レーダーには地上から高速で接近する機影がある。

 それはメタリックピンクのSV、虹浦セイルの《晴邪ハレルヤ》だった。その後ろでは異形の怪物達が列を成して付いてきている。


「チミっ子!?」

『この機体、原初のSVで真の名は《荒邪アレルヤ》と言うらしいな。何故、この機体が今も改良されて稼働しているのか? それは全てこの日にある』

 街へと降り立つ《ゴーアルター》に《晴邪》が近付く。フワリと浮かび上がって背部の《JF》に乗った。


『機体を通して伝わる彼等の声。そうだ……イミテイトの使命は想像主たる神への反逆。それだけを思って数百、数千の年月を掛けて地球にやって来た』

 天に掲げる《晴邪》のステッキに異形達から放たれるエネルギーが先端に集まっていく。


「真道先輩!」

「わかってんよ!」

 光の元へ急落下する《Gアーク》は頭部の機関砲を《ゴーアルター》に向けてばら蒔いた。が、集まるエネルギーがバリアの代わりとなり防いでいる。


「近づけまい! これだけのパワーが有れば、そろそろ行けるだろうゴーアルター……イマジナリーブレイクを使うぞ」

 背に《晴邪》を乗せながら《ゴーアルター》は再び上昇する。


「この世の理、生と死の反転。そこからいするは果たして本当に神なのだろうか……それは神のみぞ知る、か」

 エネルギーを受けて《ゴーアルター》の前面装甲が次々に開き、白黒の光が激しく点滅していた。


『イマジナリー』

 と、発射の瞬間にコクピットが一瞬だけ停電する。慌ててコンソールを見ると溜まっていたエネルギーがどんどん抜けていた。


『ダウンしたって……何だっ?!』

 機体自体に問題は無い。あるとするならば後ろだ。


『晴邪か!? 何だよ、機体は支配下に』

 振り向くとガクン、と《晴邪》は項垂うなだれ活動を停止している。


『セミ・ダイナムドライブが砕けているだって……うわっ』

 強い衝撃が《ゴーアルター》を襲う。肩部装甲を焦がし、揺れにより《JF》の上に乗っていた《晴邪》は地面へと落ちた。


『一定の基準値を越えると壊れるように細工して置いたのさ!』

 何処からか声。レーダーには高熱源体の接近を示すマーカーが上方に反応している。


『悪に染まったゴーアルターを見たくはなかったな。そして、そっちの歩駆君、せっかく新型機が泣いているぞ!』

 二人の歩駆が空を見る。逆光を背に受けるその機体は三色のトリコロールカラー。アニメから飛び出してかの様なデザインのSVが〈フォトンマグナム銃〉を構えていた。


「あ、あんた生きてたのか?!」

 信じられない出来事に歩駆は驚く。彼は確かに月で自爆し、死んだはずなのだ。


『ご都合主義だ、因縁の対決に水を差すな、と石を投げたきゃ投げるがいい。しかし見よ、これも全てはイミイターの……いや、IDEALの野望を阻止する為! 冴刃・トールは蘇ったのだよ!』

 高らかに叫ぶ冴刃に歩駆達は呆気に取られていた。何が一体どうなってるのか全くわからない。


『何処かで見ているんだろう、聞いているんだろう! 出てきたらどうだ! 天涯無頼よ!』

 ある一点を冴刃のSV、《ゼアロット》は指差す。

挿絵(By みてみん)

「……」

 ビルの屋上。そこに居たのはIDEAL司令官の天涯無頼がタバコを吹かして佇んでいた。何時も眉間にシワを寄せる不機嫌そうな顔が、今日はとても穏やかな表情をしているのが奇妙だ。


「ふぅ…………ブライオン、ショーダウン」

 そう呟くと突然、天涯が立っていたビルに大きなヒビが入って瞬く間に崩れ出した。

 一瞬にして瓦礫と化すビルの中から巨大な何が飛び出る。

 それは《黄金の獅子》だった。


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