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9話「言葉」

 狐人の女の子を保護した知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは、これなら人里に行っても警戒されにくいだろう、と思って森を抜けようと歩いていた。ちなみに知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムが、狐人が女の子と分かったのは、オシッコのとき男性器が着いていないのを見たためだ。なお、それは骸骨(スケルトン)なので問題はない。

 最初は手を握っていた狐人の女の子は、途中で思い出したように手を離し、今では知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムが歩く数歩後ろを着いて歩いている。

 時折聞こえる草木の物音に敏感に反応しては知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムを見つめて安堵する、を繰り返している。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムの視界は三百六十度なのでそれらの動作も全部見えていたが、そうする理由まではあまり分からなかった。


 やがて木も少なくなって来てとうとう森の出口へ出た。

 森の中は日陰が多かったため、急な直射日光に狐人の女の子は手で目を押さえて立ち止まってしまった。耳や尻尾までキュッと縮こまり、全体的に小さくなったように見える。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは当然のごとく影響などないので、狐人の女の子が歩いてくるのを待つ。

 狐人の女の子は最初に耳が持ち上がりピコッと動くと、目を覆っていた手をどかし、ゆっくりと目を開けて、最後に縮こまっていた尻尾をクタァと緩めた。

 狐人の女の子は少し先に行ってしまった知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムを見るとタッタッタと駆け寄り、また知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムの数歩後ろで止まった。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは歩みの遅い狐人の女の子を少し焦れったく思い、近寄っても歩き出さない知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムを不思議そうに見ている狐人の女の子の方へ、ゴツゴツした手袋を嵌めた手を差し出した。

 狐人の女の子は一瞬何をしてるのか分からなく、首を傾げていたが、ハッと気付いたような顔をすると、恐る恐ると言った感じに尋ねた。


「ふゅ? ……てて、つないでもいーの?」


 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはコクリと頷き手をグッと差し出す。

 狐人の女の子は嬉しそうな顔をするも、何故かその顔を見られないように俯きながらトコトコと歩いてきて手を握る。ゆっくり、戸惑いながらも、しっかりと。

 怪しげな旅人とその手を繋ぐ小さな子供は短い草が生い茂っている草原をひたすらに歩いていく。








「ねーねー、おにーちゃんのおなまえなーに?」


 手を繋いで歩くこと数分で、狐人の女の子は知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムに話しかけてきた。

 内容は至極当たり前で、なんで今まで聞かなかったのかと思うようなものだ。まあ、骸骨(スケルトン)である知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムにはそんなこと知ったことではないが。

 しかし、これから一個体として人間の近くで過ごして行くには名前というものは必要だ。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはしばらく歩きながら考え、無視されたのかと泣きそうになったとき知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは気づいた。


「あ、お声、出なかったね!」


 全くもってその通りである。

 しかし声がないのは不便だな、と知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは考える。

 人里でも主なコミュニケーションは言葉だろう。それが出来ないとなると大分困るだろう。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはどうにか言葉を伝えることが出来ないか考える。知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムの隣では歩きながら目を瞑って、う~んう~ん、と唸って何かを考えている狐人の女の子。

 しばらく時間が経ち、草木のこすれる音しかしなくなった頃、狐人の女の子は声を発した。


「よし! あきあめよー! お声はしょーがないの。だからアインのじこしょーかいしゅる! アインはアインって言うんだよ! えっとね、三歳なの!」


 諦める、と言った狐人の女の子はそのまま自己紹介を始めた。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは急すぎる展開に一瞬置いていかれたが、骸骨(スケルトン)という精神の波が小さいおかげですぐに話について行けた。

 狐人の女の子、改めアインは知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムを見上げてニコニコ笑顔で返答を待つ。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは咄嗟の反応に何か答えようとして、


(ありがとう)


「ふぇ!? お、お声が聞こえたよ!? おにーちゃんはお声でないよねー?」


 伝わった。

 アインは突然聞こえた声に驚いて知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムを見ては周りを見て、と慌ただしく首を動かしながら質問を繰り返す。

 これには知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムも驚いた。まさか自分が言葉を使えるとは思わなかったのだ。

 でもよくよく考えれば言葉を使えてもおかしくはない。魔法とは魔力を使ってこの世界に語りかけ、現象を起こすものだ。知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは既に魔法を使えている。つまりは語りかける手段があったことを意味している。

 そのことに気付いた知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは納得すると同時に、これで不便なことが一つ解消されたな、と首を縦に振る。


 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは未だに隣で騒いでいるアインに言葉で話しかける。突然の声に恐れて、頼りになる『お兄ちゃん』も無視とくれば三歳児なら取り乱すだろう。


(アイン、落ち着け。俺だ、お前の隣で手を繋いでいる者だ)


「ふぇ? ……このお声はおにーちゃんなの?」


 半狂乱になり始めたアインに静かに語りかけた知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムに反応してアインはピタッと動きを止めた。歩みはそのままだが。

 アインは最後まで知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムの言葉を聞き、聞き終わると、そうなの? と言った顔で知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムに確認をとる。

 もちろん知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはコクリと頷いて肯定する。

 すると、アインは二パッと笑って、


「お声が出るようになってよかったね!」


 どこまでも純粋な笑顔で喋りかけた。でもおにーちゃんじゃなくておじさんみたいらね~、という言葉が気になったが。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは純粋というものに嫌悪を抱くが、それと同時にこれを守りたいと思った。

 あまりに綺麗で自分にないものだから……


 喋れるようになった知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは三歳児らしく、舌足らずながらも一生懸命に話してくれることを不思議と暖かく思いながら相槌を打ち続けた。




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