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8話「打算」

 村人を全部殺して魔力を奪った知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはまた旅人の服装で歩いていた。

 足元まで隠しやや引きずっている頭から被るタイプのぶかぶかローブ、皮の動きやすく壊れにくい靴、皮のゴツくて手の形が分かりづらい手袋、最後に目の部分が弦が下向きの三日月型に空いている薄汚れた仮面。

 鼻もとまでフードで隠しているので遠目からはただの怪しい旅人にしか見えない。

 そういうことくらいは分かるのか知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは目立つ街道などを避けて林や森などを進んでいた。

 青々とした草木の生える森の中、不気味なオーラ全開の旅人が歩くのはかなり違和感がある。中身が骸骨だとしたら尚更。

 そんな不気味な旅人は当てもなく、時折現れる動物――魔力を持つ動物を魔物という――を殺して微量ながらも魔力を奪いながら人里を探していた。知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは、あの村は弱い者ばかりで美味しいと思ったのだが、あとで奪った魔力を確認してみると微々たるものだと分かってしまった。

 どういうことか。前も感じたことを視野に入れて考えればすぐに答えに辿り着いた。

 力の弱い者は魔力も少ないということ。

 だが、だからと言って魔力をたくさん得るため強い者を狙えば返り討ちにあう。

 だから知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは考える。

 考えて、考えて、答えは決まった。


 もっと知識が欲しい。もっと知って知って自分の力にしたい、と。


 故に知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは今度は人間を殺さずに仲良くしてみようと考えている。人間は弱いのに、知恵を使って強くなっていることを知っているから。


 そんなことを考えながら歩いていると不意に知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムの耳(骨だからないのだが)に甲高い泣き声が聞こえてきた。


「うわぁぁぁぁああああああん!」


 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはその声に反応して動きを止めるとしばし考え、やがて声の聞こえた方向へ体を向け、歩みを変更する。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは人間と会話するにはこんな怪しい旅人だと警戒されるということくらい分かっている。この前の村がそうだ。しかしちょうど聞こえたこのピンチっぽい叫び声の人物を助ければ多少怪しくても命の恩人と言うことで怪しまずに接してくれると考えたのだ。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは自分の考えに、俺頭いい!  みたいなことを思いながら歩みを速めて行く。悲鳴は右へ行ったり左へ行ったりと動きまくった。

 そしてその悲鳴が大きく聞こえて来た頃、その人物の姿が見えた。

 それは――


「うわぁぁぁぁああああああん!  おかーさーん!  おとーさーん!」


 ――齢四つか五つくらいの獣人だった。

 頭にふさふさそうで大きい耳がついており、お尻からはもふもふしてそうな大きな尻尾が出ていた。細かいところを見れば爪が鋭かったり、瞳孔が縦に長かったりと獣っぽいところはたくさんある。

 そんな獣人――おそらく狐人族(キビト族)――は二匹の狼に襲われようとしていた。

 狐人が肩で息をしているところと、悲鳴があっちこっち行ってたことから逃げ回っていたが、とうとう限界が来て追いつかれた感じだろうか。

 逆に狼たちは息を乱すどころか楽しんでいるところからわざと逃げさせていたのだろう。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはパッと見の短時間でそこまで思考を巡らせた。


(【火球ファイヤー・ボール】)


 と、同時に行動も開始していたが。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムがしっかり狙いをつけた火球(ファイヤー・ボール)は真っ直ぐ狼のケツに当たり、ケツが燃え上がった。

 今知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムと狐人は狼たちを挟んで一直線上にいる。だから絶対に外すわけにはいかず、知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはゆっくり狙いを定めていたのだ。

 ケツが燃え上がった狼は瞬時に全身を焼かれ、黒焦げになった。断末魔の叫びが恐ろしかったのか狐人の子がビクゥッと体を震わせて耳を縮こませた。

 敵の存在に気付いたもう一匹は慌てて後ろを振り返るがもう遅い。火球(ファイヤー・ボール)を打つと同時に走り出していた知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムの刃が届く方が早い。

 狼は悲鳴を上げる暇もなく首を斬り落とされ絶命した。

 ドサリと狼の体が倒れ、血溜まりが出来て行く。その血もすぐに地面へ吸収されることになるのだが。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは二匹とも心臓に剣を刺して魔力を奪ってから狐人へ近寄った。


「ひぅっ!」


 狐人は疲れているのか腰が抜けているのか全く動けずにイヤイヤしながら知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムを見ている。知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムが近寄って来た時など喉が引きつったような悲鳴を上げた。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは何故助けたのに怖がられているのか、そもそも怖いとはなんなのか、と思考を巡らせた。

 ふと知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは狐人が右手の剣を見ていることに気が付き、これが怖いのかと思って剣を後ろへ放り投げた。

 狐人の視線がそれに釣られたことから、やはり剣が怖かったのか、と知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは納得する。

 生き物にとって、命を奪った物が目の前にあったら怖いのか、と知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはまた一つ知識を得た。

 と、そんなことを考えている間に知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは狐人の目の前まで来ていた。狐人の怯えた顔が知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムのすぐ下にある。

 とりあえず知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはまだ怖がっている狐人をどうすれば落ち着かせれるか考える。


「あ、ぁの……たすけて、くえて、あい、がとー……」


 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムが考えていると沈黙に耐えかねたのか狐人が先手を打った。目線は彼方此方に(あちこち)に行き、耳と尻尾は垂れ下がり、背を丸めて怯えているが。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはそんな様子の狐人をこれ以上怖がらせないように、とゆっくり頷く。

 続いて手を喉に持ってくる。一応ゆっくり動かしたのだが、狐人は、ヒッ!  と怯えてしまった。どうすればいいんだ、と知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは苦悩する。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは喉を指差して次に両手でバッテンを作る。

 案の定伝わらなかったみたいで狐人は頭上にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げた。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは何度も狐人へ伝えようと試行錯誤する。


 何回かの問答ののち、狐人は分かってくれたようでパッと顔を明るくさせて言う。


「おこえがでなんらね!」


 舌足らずの言葉に知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは理解が遅れるが、なんとなく分かってくれたことを理解できた。

 何回もこういうやりとりをしていたためか、狐人の子は大分打ち解けてきてくれている。所詮は子供だ。まあ理解してくれない狐人にあたふたとジェスチャーする知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムが面白いのかもしれないが。

 狐人は最初の怖がり様はなんだったのかというくらいニコニコとしており、すっかり知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムが怪しい容姿をしていることを忘れている。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは、子供でよかった、と思いながら立ち上がり、狐人に手を差し出した。

 狐人はそれがなんなのか分からず、首を傾げた。


「ふゅ? 連れてってくえゆの?」


 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムがその問いにコクリと頷くと狐人はパッと顔を輝かせて飛びついた。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはその時あることに気が付いた。

 狐人の尻尾が四つに見えたのだ。

 実際この狐人の尻尾は四股になっており、お尻から出ていた。

 狐人は知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムの視線など気にせず(そもそも知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムの視界は三百六十度なので視線を向ける必要はないのだが)皮のゴツゴツした手袋をギュッと握っている。

 四股というのにちょっと違和感を覚えた知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムだが、不思議そうな顔で見上げてくる狐人が目(骨だけど)に入り歩を進めることにした。





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