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6話「旅立ち」

 殺した冒険者二人分の魔力を奪った知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはかなり強くなった。

 やはりヒヨっ子と言えど、体を鍛え、魔物と戦って来た者の魔力は多いようだ。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは初めて強化用魔力を魔法用魔力の最大値上昇へ降り割った。

 すると、知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは自身の内側にある何かが大きくなる感覚を感じた。それと同時に空気中から吸い取る魔素の量も増えたようだ。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは自分が強くなっていることに何かが満たされる感覚を味わいながらこれからの予定を考える。

 とりあえず人間という生き物がとても魔力を持っていることが分かった。だからこれからも人間の魔力を奪って行きたい。しかし、正直あれが人間の中で強いやつとは思わない。それに人間はとても数が多いと知っている。何故だか分からないが、知っている。

 ともあれそんな美味しい獲物をみすみす逃すつもりはない、と知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは思い、あることを決意する。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは冒険者たちのところでしゃがみこみ、ゴソゴソと何かをしだした。












 数分後、知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは様々な衣類を身に纏った状態で立っていた。

 足は冒険者の剣士のほうが履いていた丈夫そうなもの。ズボンも剣士の履いていたゴワゴワしているが丈夫そうなもの。上も同じ。ついでに手も隠すため手袋を拝借した。そしてそれらの上からローブを羽織る。

 ローブにはフードもついていたので深く被ればそうそう正体がばれる心配もないだろう。

 そして極め付けは仮面だ。

 元は白色だったろう色はいまや薄汚れて灰色になっている。

 そんな仮面は、目のあるところに三日月形の小さな穴が空いてあるだけで、他には何もないのっぺらとしたものだ。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはそれをそれについていた紐でしっかりと結んでずり落ちたりしないようにする。視界は元々魔素を感知して確保していたので問題はない。ちなみにあの魔法使いが使っていた『魔力感知』と違い、知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムの方は『魔素探知』とかなり上位の能力だ。もっとも、魔法使いの方は魔法だったが。



 よし、完璧だ。



 そのようなことを知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは思って歩き始めた。

 とりあえず目指すは人里。そこで人間の情報を集めよう。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムの旅が幕を開けた。














 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは当然人里への道など知りもしないので適当に歩いていた。道中の魔物は殺した剣士から奪った剣で全て屠っている。魔法を使うと更に魔物が集まってきそうだったからだ。目立つし。

 そんなこんなで歩き続けた知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは赤茶けた大地から緑色の草が生える地面へ、緑色の草が生える地面から何かがよく通っている獣道へ、獣道からやや整備された砂利道へとどんどん歩を進めていた。

 時たま人間を見かけたので少数の場合は殺して、あのときの冒険者のような格好をしていたら物陰に隠れてやり過ごしてきた。しかし、殺した人間からはあまり多くの魔力は奪えなかった。何故だろうか、と考えるも答えは出ない。知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは諦めてとりあえず少ない魔力を奪っていった。ついでに殺した人間からは人間の使う貨幣を奪った。これから人間の町へ行くのだ。おそらく必要になるだろうと考えて。


 そしてとうとう町へとついた。

 いや、町と呼ぶにはあまりにも小さい。おそらく村だ。

 周りには申し訳程度の柵が立てられており、一部だけ柵がないところがあった。多分そこが入り口なのだろう。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは向こう側に見える質素な家々を見ながらその入り口を通った。

 静寂を保つ村に砂利を踏む音が響き渡る。

 と、ふと知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは疑問を感じた。



 それにしてもなんで人間は隠れているんだ?



 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは村に入って数歩で人々が家に篭っていることを見破った。

 ここには魔素の流れを邪魔するものがほとんどない。故に今の知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムの感覚はかなり鋭敏になっているのだ。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムの疑問が解消されないまま歩いて村の真ん中ほどまで行ったときだ。


「止まれ!」


 村中に響き渡る大声が発せられた。

 声を発したのは知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムが通ってきた道にある家から飛び出してきた大柄な男だ。三百六十度の視界を持つ知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムには全て見えていた。

 故に対して驚く体も見せずに立ち止まり、ゆっくりと振り向いた。振り向いたのは、知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは三百六十度視界があるが、人間はそんなに視界が広くないためと、話すなら対面した方がいいと考えてのことだった。

 ゾロゾロと周りに人間が集まり始めたのを視界に捕らえながら知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは続きを待つ。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムに話す気がないのが伝わったのか声をかけた男は続ける。


「お前は何者だ?! この村に何の用があって来た?」


 男の問いに知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは困ったように首を傾げる。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムが何に困っているかと言うと、どうやって相手に意思を伝えたらいいか分からないためだ。

 骸骨(スケルトン)系の魔物に声帯はない。いや、普通に考えて骨が喋るはずがないのだ。

 男は知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムの沈黙を、答える気はない、と受け取ったようで手に持った剣を構えた。剣は骸骨(スケルトン)が持っていたようなみずぼらしいものだが


(……!)


 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは呑気に観察している場合じゃない! と首を振る。一応勝てると思うが、確実に何人か逃がしてしまうだろうから今は敵対するべきではない、と判断して。

 この行動に向こうも何か言いたがっていると察したのか動きを止めた。構えは解かないが。

 とりあえず知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはジェスチャーで伝えようと試みる。

 手を喉に当て、次に顔の前で腕をクロスさせてバッテンを作る。


「む? お前喋れないのか?」


 男は見事知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムの動きが意味することを読み取った。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはぶんぶんと頭を縦に振り、肯定する。

 次に自分を指差し、剣を捨てた。まあ目の前だし、村人たちとの距離を考えれば襲いかかって来る前に拾えるが。


「それは敵対する気はないということか?」


 しかしそんなことに気がつかない男は上手いこと解釈してくれた。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはその考えにのって、首を縦に振っといた。

 そしてやや長い空白が生まれ、お互いを観察し終わった頃に静寂は破られた。


「よし、分かった。お前が俺らに害を及ぼすつもりがないのはな。だが、俺らにお前を歓迎出来る余裕はない。さっさとどっか行ってくれ」


 村人たちはみな剣を下げ、それぞれの生活に戻って行った。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは内心ほくそ笑む。十分に観察させてもらい、分かったからだ。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは心の中で舌舐めずりをする。今日はご馳走にありつけそうだ、と。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはあたかも男の言葉に肯定したように頷くと背を向けてもと来た道へと戻って行った。







 深夜。

 闇夜の晩にカツカツと硬いものが地面を叩く音が響き渡る。

 それは規則的に鳴り響き、歩いているようだ。

 そして浮かび上がる白い人型。いや、骨。

 右手に手入れの行われていない長剣を持ち、左手には何も持っていない。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは不気味にまとわりつく風をきり、闇夜の中、村へと歩き続けた。


 翌日。昨日ある怪しいローブの者が立ち寄った村に人はいなくなった。








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