4話「慢心」
数時間が経ち、幾体もの骸骨を屠った知性ある骸骨の骨は強く、太く変貌していた。気持ち艶まで出ている気がする。
(…………)
知性ある骸骨はやや作業と化していた魔力集めをやめ、墓地を歩いていた。今なら骸骨と真正面から戦っても勝てるだろう。ブロードソードも片手で骸骨よりは速く振れるようになってきた。
よってさらなる強さを求めて場所を変えようとしているのだ。
知性ある骸骨は歩く、歩く、歩く……
……やがて、霧が晴れてきた。
墓石ももうなく、ただの赤茶けた土が広がっている。
知性ある骸骨は倒した骸骨から奪ったブロードソードと木の丸盾を両手に持ち進んでいく。
(…………?)
それにしても獲物が少ないな……と知性ある骸骨は首を傾げる。
知性ある骸骨の視界(目はないが)は三百六十度。つまり見落とすはずがないのだ。
何もここまで歩いてくるのに骸骨一体すら見なかった。
(…………)
なんだか嫌な予感を携えながらも知性ある骸骨は突き進む。
強くなるために…………
嫌な予感が的中した。
(………………)
知性ある骸骨の前には骸骨の集団がいた。
しかもただ骸骨が集まっているだけの集団ではない。
全員同じ武装。キチッと揃った行進。息の合った陣形形成。
骸骨軍団。
全体にして個、という全てを倒さないとまた数を増やしていつまでも存続するという厄介な敵だ。
それに対して知性ある骸骨は一人だ。
知性ある骸骨の背筋(正確には背骨)が凍りついた。
これは逃げ切れない……と悟ってしまったためだ。
骸骨軍団は野戦を得意とす。故にこんな足場の悪い大地でもかなりの速さで進むことができるのだ。
しかし、それでも骸骨。敵対行動をとらなければ無視されていたはずである。
(…………)
知性ある骸骨は、やっちゃったなぁ、と落ち込む。
知性ある骸骨は遠くに見えた骸骨を認識して意気揚々と剣を構えながら走って行ったのである。
しかし、近づくと狙っていた骸骨の回りの草がバッと立ち上がったのだ。
赤茶けた地面に不釣合いな緑の草。普通なら気づくはずの超絶簡単な罠である。
それに見事に引っかかってしまった知性ある骸骨。
それはもう頭を抱えたい気持ちで一杯であった。
あ、これが羞恥という感情か、などとまた違うことに思考を逸らしながらも意識は骸骨軍団から外さない。
骸骨軍団はじりじりと距離をつめてきている。未だ全員で一斉に襲ってこないことに安堵と共に警戒を感じた知性ある骸骨はどうすれば生き残れるか必死に頭(頭の中は空っぽだけど)をめぐらせる。
(…………!)
しかしそんな時間をくれるほど骸骨軍団は甘くなかった。
一斉に走り出してくる骸骨軍団。
いや、半分だけだ。数は五体。残りの五体は後ろで様子を見ている。
知性ある骸骨は、くそっ、と焦燥感を露にする。
ない知恵を絞りに絞って…………答えは出た。
(…………)
知性ある骸骨は覚悟を決めて剣と盾を構える。
そして狙うは端っこの骸骨。真ん中など狙ったら袋叩きになるくらいは分かっている。
知性ある骸骨は走り出す。
近づく両者の距離。知性ある骸骨は剣を大上段に構える。
(……ッ!)
知性ある骸骨から見て左端にいた骸骨へと剣を振り下ろす。
その骸骨は攻撃に対して盾を使って受け止めようとしたが、ボロボロの盾では力を強化した知性ある骸骨の一撃を防げず頭を叩き割られる。
(……!)
崩れ落ちそうになる骸骨。
知性ある骸骨はすぐさまその叩き割った頭に盾をぶつける。
すると頭は完全にひしゃげ、頭のあらゆるところから魔力が噴出した。
(…………ッ!)
と、ここで隣にいた骸骨が剣を振り下ろしてきた。
知性ある骸骨は避けることも、受け流すことも、受けることも出来ず剣が迫る。
知性ある骸骨は急いで倒した骸骨から噴出している魔力を吸い込んだ。
割り振るは全て頑丈さ。
知性ある骸骨が仄かな光に包まれた瞬間振り下ろされていた剣は直撃した。
しかし……
(……!)
知性ある骸骨は下から切り上げるように剣を振った。
その剣は見事下あごを破壊し、骸骨をよろめかせた。
知性ある骸骨はチラリと自分の腕を見る。二の腕部分の骨がひび割れているが、なんとかなりそうだ。
知性ある骸骨は自分の策が上手くいってホッとする。
知性ある骸骨の策。それは戦いの中で強くなること。
逃げても無理。戦っても無理。なら強くなればいい。
知性ある骸骨はあの作業で少しは知識を得ていた。
魔力は別に触らなくても自動的に自分の中へ入ってくるということと、吸い込むことが出来るということだ。
それを使い、とにかく一体を屠り強くなって…………となんとも脳筋な策だ。
だが、それ以外思いつかなかったのだから仕方がない。それに現にそれは成功している。
最初の一体を屠ったとき魔力で頑丈さをあげていなければギリギリ折れていただろう。
知性ある骸骨はこんな拙い策でも実ってくれたことに歓喜しながら次の獲物を狙う。
全てを屠り、魔力の回収も終わった知性ある骸骨はその場に座り込んでいた。
二の腕、肋骨、鎖骨とかなり皹が入っている骨が、多いのだ。
知性ある骸骨は感覚を遮断し集中をする。
骸骨系の魔物は自分の持っている魔力を使って自身を修復することが出来るのだ。この場合の魔力は魔法などを使うときに必要な方の魔力だ。
しかし、これは集中力が必要で戦いながらなどよっぽどじゃないと出来ない。
故に知性ある骸骨は回りに敵がいないかを注意深く確認してから自身の修復作業に入った。
じわじわと骨がくっついていく感覚が知性ある骸骨には感じられた。
魔力が皹の隙間に入り、接着剤のように骨をつないでいる。そしてしばらくするとその魔力は骨となんら変わらない姿に変わる。
三十分ほどして、知性ある骸骨の体は完全に治った。
(…………)
知性ある骸骨は自分の格好を見て納得がいったのかコクリと頷いて立ち上がる。
ちょっとここは早かったか、というようなことを考えながら知性ある骸骨は霧の方へと歩を進めた。