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最終話「決断」

 スケルは目の前の光景が信じられずに動きが止まった。


(何だあれは?)


 スケルは動く代わりに思考をする。


(どういうことだ)


 しかしその思考は無意味なことを延々と問い続ける。


(どうして動かないのだ)


 やがて黒装束たちはそんなスケルを前に、立ち上がった。

 どこか落胆したような、だがそこまで深刻ではない雰囲気をまとって。


(どうしたのだ? アインを抑えねば私が暴れるというのに)


 スケルは考える。

 考えて、考えて、違う回答を求めた。


(私は…………私が…………)


 しかしそんなもの出てくるはずがない。

 今この状況であの黒装束の行動。

 結果は一つだ。


「あぁ、思わずこの獣人を殺してしまった。あの魔力量は異常だった。故に何かに使えそうだったのだが……」

(…………アインは死んだのか)


 スケルは理解する。

 アインが死んだと。

 そして黒装束が、まるで道具を壊してそれを残念がるような雰囲気を出していることの意味を。

 スケルはキレた(・・・)


(【重力増加(グラビティダウン)】)

「「「?!」」」


 突如、スケルを中心に半径五十mの重力が増した。

 木々は軋み、黒装束たちは突然の体重増加に一瞬大地を踏みしめる。

 大地を踏みしめた。つまり力は全て真下へいっているため、その瞬間は別の行動が出来ない。

 スケルは剣を握り、地を蹴った。


「「「?!」」」


 驚愕する黒装束たちを無視し、まずは【聖域(サンクチュアリー)】を展開している黒装束たちを殺す。

 頭を、首を、心臓を、胴体を、全て一刀両断でしとめていく。

 黒装束たちは力を奪ったにも関わらず、ここまで強いことに再び驚愕する。

 しかしスケルは待たない。どんどんと黒装束たちを殺していく。

 一人、また一人と殺していくうちに、スケルは返り血で染まっていく。

 艶のある、テカテカの純白の骨が、赤黒く、ドロドロした色に変わっていく。


 やがて、スケルは真っ白な骸骨から、赤黒い、骸骨へと変貌した。









 再び訪れた静寂。

 月が隠れて見通しの悪くなった森と浜辺の境界線上。

 スケルはアインを前に立ち尽くす。

 アインは全ての力を開放している途中で殺されたからか、力んだ顔のまま死んでいる。

 スケルはその顔をジッと眺めてたたずむ。


(すまぬ…………)


 ポツリとスケルがこぼす。全方位に伝える念話。

 その声は念話といえど、悲しみに満ちていた。

 スケルは泣けないその身に怒りを感じた。

 しかしそれもすぐに別の感情で塗りつぶされた。


(怨めしい。アインを守れなかった私が。アインを殺したあいつらが。…………私たちに関わってくる世界が)


 そのときだった。

 スケルの傍に何者かがスタッと舞い降りた。

 スケルは頭を動かさず視線だけ向ける。

 そこには、漆黒のローブと様々な宝具で身を包み、暗い白色の骨をさらけ出した、あいつがいた。


(奇遇ダな。どうだイ? 調子ハ)

(……何のようだ死者たる魔法使い(リッチ)


 死者たる魔法使い(リッチ)は、はぁ、と出もしないため息をついて話し出す。


(相変わラずだネぇ。私は君の手伝イをしてあげヨうと思っていルのに)

(……どういうことだ?)

(察しが悪イねぇ。いヤ分かっているンだろう? …………人間を殺す手伝いだよ)


 死者たる魔法使い(リッチ)の言葉にスケルは黙り込む。

 死者たる魔法使い(リッチ)はなおも畳み掛ける。


(何故そんナに殺したくなイんだ? オ前は大事な者ヲ殺されたンだぞ? 報復して何ガ悪い)

(…………)

(人間は醜イ生き物だ。危険カもしれない。それだけでとりあえず(・・・・・)排除すル。どういうコとか、分かるネ?)

(………………)

(人間は何モお前に与えなかっタ。なら与えテもらおうではないか。あいつらの命を)

(……………………)

(あぁ、もウ人間になルっていう目的はないノか。残念だ。人間ナら回復魔法モ使えて、禁術ではあるガ蘇生魔法(・・・・)だってあるのに)

(っ!? …………詳しく頼む)


 死者たる魔法使い(リッチ)の言葉に何一つ反応しなかったスケル。

 しかし死者たる魔法使い(リッチ)の蘇生魔法という言葉に反応してしまう。

 死者たる魔法使い(リッチ)は、かかった! と内心嗤いながら言う。


(蘇生魔法だヨ。知らない? 死者ヲ生き返らせル魔法だ。もちろン私たちに使われたラ即死だけどネ)

(………………それは本当か?)

(ああ! 本当ダとも! 百万の人間ノ魂を奪い! 人間の禁術デある蘇生魔法を奪う! そうすレばそこの獣人は生き返ルことが出来るよぉ?)


 やたらと芝居くさった死者たる魔法使い(リッチ)の言葉。

 しかしスケルは考え込む。

 考えて、考えて、考えて、考える必要もないことに気がついた。


(そうだ、考える必要なんてない。人間を殺せばいいだけ(・・・・)の話じゃないか)


 死者たる魔法使い(リッチ)はこれを聞いて、堕ちた、と内心ほくそ笑む。

 スケルは頭を死者たる魔法使い(リッチ)へと向け、言う。


(お前の力をくれ。くれるんだろ? 人間を殺すなら)

(ああ! もちロんだとも! では早速行こウではないか! 今はちょうド夜だ。絶好の奇襲日和ジャないか!)


 死者たる魔法使い(リッチ)が大げさな手振りで空を指し示す。

 スケルは暗澹とした空を見て、暗く澱んだ目にある光を光らせる。

 死者たる魔法使い(リッチ)が叫ぶ。


(殺すのだ! そウ、殺せ! 人間なド全て殺し――――)


 しかしその叫びは途中で途切れる。

 スケルが手に持った大剣で死者たる魔法使い(リッチ)の頭を吹き飛ばしたからだ。

 ガシャンと音を立てて崩れ落ちる元死者たる魔法使い(リッチ)であるただの骨(・・・・)

 スケルはそれから魔力を吸い取る。自分の力を高めるための魔力を。


(力をくれる(・・・)んだろう? だから遠慮なくもらっていく)


 流石は一級魔物と呼ばれるだけはある。

 スケルはどんどんとみなぎる力に歓喜の念で震える。

 これで殺せる。人間を殺せる。たくさん殺セル。


 魔力を吸い終わったスケルはアインを自身の異空間へと丁寧に入れる。

 腐敗防止の魔法をかけ、奪われることのない異空間へ。

 そしてスケルはもう一度空を仰ぐ。

 月が少しだけ顔を出していた。


(希望……か。あるのか分からぬが、行くしかない)


 暗闇の中、赤黒く変色した骸骨が空を飛んだ。






















「なあなあ、知ってるか?さい害(・・)ってやつ」


 少しばかり薄暗い裏路地に、昼から酔っ払ってるのか顔を赤くしたおっさん二人が歩いていた。


「ああ、知ってるぜ〜。てか最近のことだろ?国を四つ(・・)も滅ぼした災害」


 それに対しもう一人の男は、それだけかぁ?と小馬鹿にしたような顔をする。

 答えた男は赤い顔を更に赤くし言う。


「ま、まだあるわい!あーっと、災害は四つ目の国を滅ぼした後忽然と姿を消したらしいな。それにしても小国とはいえ計百万もの人が死んだんだよな。数がでかくてイマイチわかんねぇわ」


 そう言って先ほど小馬鹿にされたことも忘れたように大笑いする。

 もう一人の男が付け足すように言う。


「あぁ、ちなみにさい害ってのは、再びってのと災いってのをかけてさい害って言ってるらしいぜ。前回の災害と同じだったらしいしな」

「へぇ、そうなのか。前のっていやぁ、知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムのことか」

「ああ、そうだ。そんで今回も同じやつが襲ってきたそうだぞ。……………………そんでさ、ここだけの話なんだがよ」


 片方の男が声を潜めて喋り出すと、もう片方の男も自然と声を小さくする。


「なんだ?」

「その知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムの目的が人間になることだっていうらしいぜ。百万の人間の魂を集めたらなれるだとか」


 それを言ってニヤニヤと笑う男。

 それを見てもう片方の男も笑い出す。


「「ガハハハハハハハハハハハ!」」

「全く、変なためを作るなよ」

「わりぃわりぃ。それでさ、話は変わるがこれも知ってるか?」


 笑いあった後、適当な会話をしてまた、知ってるか、と喋り出す男たち。


「今度はなんだ?」

「最近実力を伸ばしてきてる冒険者がいるじゃねぇか。なんでもそいつは蘇生魔法を探してるらしいぜ」


 これにはびっくりしたのか男が、なんと……と驚愕する。

 喋った男はしてやったりとにやけると調子に乗って続ける。


「そんでよぉ、実は俺それの手がかりを知ってんだ」

「ほぉ、それはそれは大層なこって…………」

「それは興味深いですね。是非私も混ぜてくれませんか?」


 突然の第三者に驚き酔っ払い男二人はギョッとして振り向く。

 そこには…………


「私がお話に上がっていた冒険者ですよ。蘇生魔法。知ってること全部吐いてもらおうか」


 人間・・がいた。



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