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2話「目覚め」

 無意識から自我へ。

 無自覚から覚醒へ。

 無感覚から鋭敏へ。


 ありとあらゆる感覚が流れ込んできた。

 

(……………………?)


 そいつが最初に感じたのは困惑。

 そして困惑という感情を抱いたことに更に困惑を感じた。

 

(……!)


 困惑はやがて理解に。

 理解は徐々に驚愕へと移り変わっていく。

 

 腕を上げ、そいつは自分の手を見る。


(…………)


 白く、だが薄汚い…………骨だった。

 しかしこれは別段驚くことではない。

 そいつは元々骸骨(スケルトン)だったのだから。

 

 今度は腕を左右に広げて自分の体を見下ろす。

 

(……?!)


 そいつが目にした自分の体は、やけに細かった。

 自我が出る前の姿はなんとなくでしか感じ取れないが、こんなに細くはなかったと思う。

 どういうことか、知性を持った骸骨(スケルトン)でも分かることはない。

 骸骨(スケルトン)知識(・・)ではなく、知性(・・)を持ったのだから。

 

(………………)


 骸骨(スケルトン)は、考えても分からないことは後回しにして、ひとまず今、何が、どうなっているのかを考えることにする。

 骸骨(スケルトン)は顔を上げて周りを見渡す。

 墓地だ。

 いや、これは当たり前か。骸骨(スケルトン)は生き物が白骨化してそれに魔力がたまることで生まれるのだから。

 

(…………?)


 骸骨(スケルトン)は今の考えに疑問を感じた。

 何故自分はそんな知識(・・)をもっているのだろう、と。

 

(…………)


 結局分からない、と考えることを止めて改めて回りを見渡す。

 薄暗い、どんよりとした雰囲気の場所だ。

 墓石は乱雑に、碌に手入れもされていない状態でほったらかしにされ、そこかしこにはユラユラと揺れながら歩く骸骨(スケルトン)の姿がある。

 だが、そいつらは明らかに知性がない(・・・・・)

 

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは優越感を感じた。

 自分はそこいらにいる骸骨(スケルトン)とは違う、と。

 

(…………?)


 それにしても自分はこれからどうすればいいんだ?

 と、知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは考える。

 だが何かあるわけでもない。

 骸骨(スケルトン)などは食事を必要としない。

 また死者であるために睡眠なども必要ない。

 生きていく(死んでいる者にこういうのは違うと思うが)ためには別段必要なものなどないのだ。

 

(…………)


 せっかく知性を手に入れたのに、と知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは落胆する。

 しかし、そのとき――


『汝は知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムか?』

(?!)


 ――突然知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムに何者かが話しかけた。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは驚きで狼狽える。やたらと人間くさい驚き方が少しシュールだ。

 突然現れた何者かの声は続ける。


『我は汝と同じであった者だ。もうそちらの世にはいない』

(…………)


 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムはなんだかよく分からないなりに真剣に話を聞くことにしたようだ。耳を(骨だから耳などないが)傾けて一言一句かみ締める様に聞く。


『我はかつておぬしと同じように自我を持った。最初は我も戸惑って…………とこんな話をしている時間はないな』

(…………?)

『よいか? 簡潔に伝える。お主に我の成せなかった夢を担って欲しいのだ』

(…………?)


 夢? と知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは首を傾げる。一切表情など動かない骸骨がやっても不気味なだけだが。

 声の主は続ける。


『っ?! すまぬ、時間がない。わしの願いは人間になることだった。そのためにお主には強くなってもらいたい。そして…………』

(…………?)


 声の主の言葉は途中で途切れた。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは何を言おうとしたのか不思議に思い、首を傾げるがすぐに考えても仕方がないと割り切ると今の会話(と言っても一方的に喋られてただけだが)を反芻した。

 

【わしの願いは人間になることだった】


【そのためにお主には強くなってもらいたい】


 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは歓喜した。

 何の目的もなかった自分に目的が与えられたことに。

 ただ漠然としていた意識は目的がはっきりしたことにより覚醒した。

 世界が広がり、緩慢としていたときの流れが速くなっていく。

 知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは目的を果たすための一歩を踏み出した。

 






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