18話「監視」
ルスカフを倒したスケルとアインはルスカフが住処としていた洞窟へ降り立った。
そこで火を起こし、ルスカフを解体し、肉を焼いて食べた。
お腹が一杯になったからか、それとも結構疲れが溜まっていたのか食べ終わるとアインは寝てしまった。
スケルはその様子を温かく見守りながら近づいてくる者を警戒する。
やがてそいつは現れた。
(ヤあ、久しぶりダな)
(……何しに来た)
一目で豪華とわかる宝具を身に纏い、漆黒のローブを羽織る骸骨。
スケルが見間違えるはずがない。苦渋を舐めさせられた相手。
スケルは漏れ出る殺気を隠しもせずにそいつにぶつける。
(おお、こワい怖い。もう少シ友好的でモいいんじゃナいかな?)
(さっさと用件を言え。死者たる魔法使い)
死者たる魔法使いの返答に更に殺気を放ちながらスケルは問う。
死者たる魔法使いはこれに無駄な話はダメか、と肩をすくめて見せる。
スケルがゆっくりと腕を上げて魔法を発動しようとしたとき死者たる魔法使いは話し出した。
(お前の目的ハなんだったかナ?)
(…………強くなることだ)
スケルの返答に死者たる魔法使いは大きく首を横に振る。
(ちがウちガう。それハ最大の目的ノ前段階だ。あるダろ? もっと大きナ目的ガ)
(………………人間になること)
死者たる魔法使いの問いにスケルは長いこと考え、やがて答えた。
死者たる魔法使いはその答えを待っていたように語りだす。
(そうダ、それだヨ。それで? お前は人間ニなる方法を知ッているのカ?)
(だからそれは強くなること……)
(その次は? 強クなった後ハ?)
スケルは黙り込む。
確かにスケルは知らない。しかしそれも当然だ。あの声は途中で途切れてしまったのだから。
念話で会話する二人の間に音はない。僅かに火の爆ぜる音が響くのみだ。
黙りこむスケルが予想通りの反応をしてくれたらしく、死者たる魔法使いは頷く。
(知らないだロ? なら知りたくハないか?)
スケルはその言葉に思わず反応する。
こいつは知っているのか、と。
これまた死者たる魔法使いの予想通りの反応だったのか死者たる魔法使いは満足げな雰囲気を出しながら言葉を送る。
(あア、知っているとモ。知りたいカ? 知りたいだロ?)
(うるさい。知っているなら教えろ)
死者たる魔法使いの喋りがうっとおしく感じ始めたスケルは脅すように威圧を込めていった。ついでに中空に火、水、土、雷の四属性の槍を待機させながら。
死者たる魔法使いはそれを見てもふざけた態度を崩さず話し続ける。
(お~、怖いねェ。ま、教えルから安心したまエ)
そう言った死者たる魔法使いは突然雰囲気を変えた。
今まではふざけた、軽い空気だったのだが、今は空気がピリピリとしている。
スケルも態度を改め、話を聞く。
(人間になルための条件。それは…………人間を殺すことだ)
大きく火が爆ぜる。最後の一文だけやけにはっきりと洞窟に響いた。
スケルは死者たる魔法使いの言葉に意味を噛み砕き、咀嚼し、驚愕の声を上げる。
(はぁ?! どういうことだ!)
(どういウことも何モ、そのままの意味ダ)
スケルの驚愕に死者たる魔法使いは何事もないように答える。
が、スケルの求めていた答えはそれじゃない。スケルは自身を落ち着かせる。
スケルが落ち着くのを見計らってか、死者たる魔法使いがまた言葉を伝える。
(少シ言葉が足りナかったな。正確には、百万の人間ノ魂が必要なのダ)
(…………)
スケルはその情報に二の句を告げることが出来ない。
死者たる魔法使いの言葉を信じるならば最低でも三つほどは都市を壊滅させなければならないだろう。一番大きな王都ならそこだけでもいいかもしれないが。
そう考え込んでいると死者たる魔法使いが意識の隙間に潜り込むように話しかけてくる。
(なんナら私も手伝ってモよいガ? 虐殺にハ大いに手助けをしてヤろう)
確かに今の強さのスケルと、一級魔物の死者たる魔法使いが手を組めばそうそうやられはしないだろう。むしろ過剰戦力ともいえる。
しかし、スケルはそれらの言葉を鵜呑みにするなど愚かな真似はしない。
(お前の言うことが信用出来ないな。何か証拠でもあるのか?)
スケルのこの問いに死者たる魔法使いはしばし考え込む。
やがて死者たる魔法使いは話し出した。
(……私ハやつと戦っタことがある。骸骨のくセにな、人間と仲良くしテいたから私が突っかかっタのだ。このとき私は勝った。理由? あいつの仲間であるはズの人間ガ裏切ッたからダ)
死者たる魔法使いの声色には悲しみ、怒り、やるせなさといった負の感情が溢れていた。
死者たる魔法使いは怒りゆえか、魔力の制御が疎かになり、荒れ狂った魔力の奔流がアインの前髪を揺らす。
(私ハ面白半分でこう言っタのだ。『そいツを裏切り、殺スならば見逃シてやろう』と。私はこノ問いで動揺したリする姿を見たカったのだ。なのに人間とイうものは……一呼吸も置かずにやツを攻撃シ始めた。自分さえ生き残れればイイ。顔にそうありありと書かレていたよ)
死者たる魔法使いから出る魔力が通常時と変わらなくなる。
スケルはこの話に驚愕し、それとともに納得もしていた。
人間ならやりかねない、と。
(私は呆レ、すぐにそいツらを殺した。そして私が古クに知っタ知識をやつニ与えたのだ。あんなことにあっても人間ニなりたいとほざくカらな。そしたらどウしたと思う? 私に協力を求めテきたんだ! あいつは人間が嫌いになった。しかし人間ニなりたいといった。私はその相反するようナ感情の内を聞かせテもらうことを条件ニ手伝った。しかし、結果はああだったが……)
徐々に言葉に熱が入っていく死者たる魔法使い。
スケルはそれを黙って聞いていた。いや、正確には何も言うことが出来なかった、だ。
スケルには、そいつが何を感じ、どう悩み、どんな苦悩を抱えたのか分からない。
しかしこれだけはいえる。
全ては人間が悪い。
(…………まだ悩むだろウ。やつもそうだッタ。時間をやル。じっくり考えロ。ではナ)
死者たる魔法使いは俯いたスケルを一瞥すると【飛行】の魔法で飛び上がって去っていく。
スケルは何もする気が起きず、ただジッと俯いてアインの寝顔を眺めていた。
スケルの監視を目的とした総組合長の部隊『影』。
彼らは【飛行】で飛んでいるスケルの後を地面からつけていた。
『影』がスケルを尾行し始めたのはちょうどドラゴンと戦い始めたときだ。
総勢十名の『影』はその戦いを見、その実力に僅かに震えた。
あれだけの魔法をなんでもないように、しかも無詠唱で連発することに。
しかも相手は太古からあの山を縄張りとしてきたドラゴンだ。その強大なドラゴンの鱗をなんでもないかのごとく突き破る。
そして『影』は剣を持ったスケルにまたも驚愕を隠し切れなかった。
普通魔法使いは魔法の勉強をするために運動は得意としない。戦いを生業とするものはある程度鍛えているが、それでもあんな大剣を振り回せるほどの膂力はない。
最後に最も『影』が驚いたのがスケルの頭の上に乗っていた狐人族の獣人――アインだ。
アインはその四つ叉の尻尾から四種類の魔法を同時に発動した。『影』たちはそのとき見ていた情報を一つも逃さないよう瞬きすら惜しんでみていた。
やがてドラゴンは破れ、スケルに持っていかれた。
『影』はそのあとを着かず離れず、そして隠蔽系魔法をいくつも駆使し、最大限の警戒の元スケルの尾行を続けた。
『影』が溶け込む闇が来た。
スケルたちがドラゴンの巣で野営を始めていたのも『影』はしっかりと認識していた。
スケルがドラゴンの肉を焼くところも、アインが歳相応の笑顔を浮かべて肉を頬張る姿も。
そして『影』は見てしまった。一級魔物である死者たる魔法使いがその洞窟に降り立つのを。
『影』たちは総組合長からほとんどの情報を得ていない。命令は、スケルという人物を尾行してその行動を伝えよ、というものだ。よってスケルが知性ある骸骨の可能性があるということも知らない。
『影』は一級魔物の出現に警戒心をマックスにしていた。
が、いっこうに魔法戦などが繰り広がる気配がない。
『影』が不思議に思っていると凄まじい魔力の奔流を感じる。鍛えられた『影』でさえすくみ上がるほどの。
やがて死者たる魔法使いは飛び去った。
『影』の一人は今起きたことをすぐさま伝えに行くべく【遠距離転移】を発動させた。




