17話「雑魚」
(さてと、どうするものかな)
スケルは冒険者組合を出て町の外へと向かって歩きながら考えていた。
内容は今後についてだ。
(あれ、ほとんど確信してるやつの顔だったな……)
スケルの見た感じでは、ギルはほぼ、スケルが知性ある骸骨だと見抜いている。
となると、このまま町にいるのは危険だとスケルは思うわけだ。
しかし、あそこで仕掛けてこないと言うことはまだ確証は得られていないのだろう。
でもそれも時間の問題かと思われる。
スケルはここまで隠し通して来たが、組合が本腰入れて見ようとすればどんな方法も行うだろう。
なんせスケルは大災害なのだから。
スケルはチラリと横で手を繋いでいるアインを見る。
「ふゅ? どーしたの?」
大きくなって、その愛らしさは変わらないどころかますます増しているアイン。
スケルは、なんでもない、と言うと前を向く。下手なことでバレないようにと常日頃から顔を向けることを心掛けていたスケルはいつの間にか人間と同じような動作を身につけていた。
無言で歩き続けることしばらく、門が見えてきた。
スケルは特に依頼を受けているわけでもないが外へ出ようと思い、門をくぐった。
そしてそのまま抜けて草原を歩いていく。
しばらく歩いた所でスケルは、ん? と思った。
あそこまで疑っていたのだから何か仕掛けてくると思っていたのだがな、とスケルは思いながらも、何もないことはそれでいいことか、と切り替えて前を向いて歩く。
目指すは北の山脈。
目的は二つ。
一つは勘付かれ始めたので隠れるため。
そしてもう一つは強くなるためだ。
スケルは今一度目的を確認するとアインを肩車する。
「ひゃあ!? な、なにするの〜?」
スケルはそのまま【飛行】を使って空へ飛び出す。
グングンと高度を上げるスケル。
やがてサーラの町が一望出来る高さまで来たときにピタリと止まる。
日はまだお昼時なのか頂上でさんさんと輝いており、町をキラキラと照らす。
スケルは感慨深げに町を見つめるとアインに話しかける。
(アイン、おそらくもうあの町に帰ることはない)
「…………」
スケルは町の方を眺めたまま話し続ける。
(あの対応を見て分かっていると思うが、私はみなに嫌われている。詳しいことは分からぬだろうが、しょうがないことなのだ)
「…………うん、別にいーよ。アインはスケルと一緒ならどこにでも行くー!」
スケルの話を聞いてアインは少し俯くが、すぐに元気いっぱいのアインに戻り声を発する。
スケルはそんなアインの優しさに温かい気持ちになりながら北へと向けて飛行し出した。
サーラの町から北へ数十キロの位置にある山脈。
そこには古くから山脈を縄張りとする竜が住んでいるとされる。
故に商人や、冒険者はそこを通らず、迂回する道を選ぶ。竜の逆鱗に触れたくないがために。
しかしそこへ堂々と、竜の領域である空から侵入する影が一つ。
山脈の上方にある穴倉から顔を覗かせる竜は顔を上げて空を見上げる。
竜はその目になにを写しているのか。何もない空を見て竜は鼻息を一つ。
「我の領域に正面から堂々と入ってくるとは…………いかに愚かなことか身を持って味合わせてやろう」
竜は、そう人間の言葉で言って穴倉から這い出て来た。
とりあえず、とスケルは山脈を越えようとしたところ、下から凄まじい熱量を持った何かが飛来するのを感じて【転移】でその場を離脱する。
スケルは少し後ろへ転移し、目の前を灼熱の玉が通り過ぎるのを見届けるとその出処へ視線を向けた。
その出処は山脈の上方に位置している。
それは…………
「うわぁー、すごいねー炎がぶぉぉおおお! って! あと、りゅーだよ! りゅー! すっごいつおいの!」
…………遠目だから正確には分からないが、少なくとも体長十mは超えるであろう竜だった。
竜はその獰猛な目をギラリと光らせこちらを睨みつけてくる。その眼力はまるで物理的な力でもあるかのようにスケルを襲う。
が、
(竜などなんども狩っている)
日々敵を倒しては魔力を吸い取っていたスケルにとってこの程度の竜など相手にもならない。
スケルは今にも飛び出さんと羽を広げる竜に向かって指を向ける。ちなみにアインは竜の威圧を当てられながらもキャッキャと騒いでいる。余波とはいえ常人なら気絶してもおかしくない威圧を受けてなんともないとは……アイン、恐ろしい子。
スケルは上に乗っているアインの騒ぐ声に微笑ましい気持ちになりながら、魔法を発動する。
(【雷槍】)
激しい発光。そして次の瞬間には飛び出した竜の片方の翼を打ち抜いていた。
まさに神速の槍。まあ、欠点として金属が近くにあるとそっちへ流れてしまうのと、直線的な動きなので射線を読まれたら簡単によけられることだ。今回は山、しかも竜という巨体なのではずしようがなかった。
翼を打ち抜かれてバランスを崩した竜。それを見てまた騒ぐアイン。
「お~! スケル、あのりゅー倒すの?」
(ああ、そうだ)
「やった~! 今日はりゅーのお肉だ! アインも攻撃するよ~!」
アインはそう言うや否や、スケルが止める暇もなくその四つ叉の尻尾を膨らませる。
やがて尻尾はそれぞれアインの身長を越すほど大きくなり、膨張を止めた。
そしてその尻尾の一つ一つから違う属性の魔法が放たれる。
「いっけ~!」
火、土、水、雷。
火は大きな火の塊を上空へ向けて撃ち、土は大小様々なつぶてを生成し乱射し、水は勢いよく一直線に竜を狙い、雷はその水に絡み付いて竜を狙う。
竜は水と雷の混合技に危険と感じたのか、不安定な体勢ながらも無理矢理体を捻って回避する。
しかし乱射されたつぶては回避できずに全身を殴打された。
竜はそれにジッと耐え、衝撃がこなくなりようやく終わったと頭を上げれば視界一杯の火の雨。あの空に向けて撃ちだされた火の塊は空中で花火のように中身を撒き散らしたのだ。
(全く、周りへの被害を考えろ。それだと山が燃えてしまうだろ。それにあれだと竜には効かん。一点集中で狙うべきだ)
「ご、ごめんなさい……」
スケルの様々な指摘にしゅんとなり項垂れるアイン。
さしものスケルもここまで落ち込まれるとは思ってなかったのか、若干慌てだす。
(い、いや、でもあの水と雷の攻撃はよかったぞ。竜もびっくりしていたな)
「そう?! アイン役に立った?」
一気に元気を取り戻したアインにスケルは、ああもちろんだ、と返答してホッとする。子供はコロコロと感情が変わるなぁ、と感じながら。
スケルたちがそんな風にのんびりとしている間にも、もちろん竜は動いていた。
竜独自の古代魔法を使い体の傷を治し、身体を強化し、正真正銘竜は全力で当たろうとしていた。そこに最初の余裕はなくなっていた。
空へと浮かび上がった竜はスケルと相対し、口を開く。
「汝、その強さはどこで手に入れた?」
スケルは、喋れたのか、と変に感心しながら質問の意図を考える。ちなみに今までの竜は下位のものだったため喋らなかったのだ。
スケルは熟考し、答える。
(鍛えた)
「ありえぬ」
しかし、スケルの答えは気に入られずに、即否定された。あながち間違えでもないのだが。
スケルは今までと違う竜に知的好奇心がゆすぶられ、話すことにした。
(いいや、本当のことだ。しかし、なぜこのようなことを聞く?)
「我は上位竜、ルスカフぞ。人間風情がどれだけ強くなろうが単体で勝つなど不可能」
(ほう、しかしお前は一つ間違っている。人間の可能性を舐めたら、狩られるぞ)
「何をほざく。可能性といえど、それにも限界はある。我が負けるなど……」
(今狩られそうになっているのにか?)
スケルは馬鹿にするように嗤う。
ルスカフもその雰囲気を感じ取ったのか静かに怒りの炎を燃やす。
ちなみにアインはなにやら大事そうな話をしているのかな? とジッとしている。だが、さすがに長いと感じているのかスケルのフルフェイスメットをペチペチとたたき出した。
スケルはなおも続ける。
(まあ、お前の言いたいことも分かる。自分の力に絶対の自信を持っているんだろ? 竜というこの世で最も優れた種族、しかもその上位ともなるとその矜持が負けを認めたくないのだろ?)
「黙れ。貴様に何が分かる。偉そうにものを言いよって。…………もう話すことはないな。さっさとお主を滅して傷を癒すとするわ」
(残念だがそれは出来そうにないな。ここで私の糧となってもらうがために、な!)
話が終わると同時に、スケルは『異次元倉庫』から大剣を取り出し凄まじい速さで接近する。
ルスカフはこれを向かい撃つがためにその強靭な爪を振るう。
しかし、
(弱いな)
スケルの振るう斬撃により竜の前足が斬り飛ばされる。
ルスカフは苦悶の方向をあげながら懐へ潜ってきたスケルに口を向けて開く。
この角度だと自身も傷を負うが、仕方ない。
ルスカフはそんな考えと共に灼熱のブレスを放つべく喉の奥に火をためる。
が、
(遅い)
スケルのそんな言葉を伝えながら大剣を袈裟斬りに振るう。
ルスカフの胴体が斜め一文字に切り裂かれ、赤い血が噴出す。アインがその血を浴びるが嫌そうな顔はせず、逆に嬉々としてその血を舐め取った。
ルスカフはあまりの痛みに口を閉じようとするが、それをとどめてブレスを吐く。もう自身が生き残ることなど考えていないような威力。
(【障壁】)
「ふっふっふ~ん」
しかし、その覚悟も虚しくスケルの防御魔法と、アインの鼻歌交じりに出された防御魔法に防がれてしまう。
ルスカフは自身の体を傷つけるだけで終わってしまったのだ。
ルスカフは激しく混乱する。
「ありえぬ……ありえぬ! 我は上位竜! たかが人間ごときに負けるわけがない!」
が、その叫びをスケルはその大剣を振るう風圧で消し飛ばす。
そして何気ないように真実を話す。
(あぁ、いい忘れてたが、私は人間ではない。骸骨だ)
「なら尚更ありえぬ! 骸骨ごときが……」
スケルの言葉にまた激高するルスカフ。
しかしその言葉は最後まで続かなかった。スケルが首を切り落としたからだ。
ルスカフは今まで飛んでいた魔法と翼の力がなくなり、重力に従って落ち始める。
が、
(【浮遊】)
スケルの発動した魔法により、その巨体が宙に浮く。
スケルの発動した魔法は、対象を宙に浮かせる魔法だ。ただし、これは生きているものには使えないものだ。故にアインはずっとスケルの上に座している。
ルスカフの血を舐めていたアインはようやく終わった戦いに、ようやくか~、といった雰囲気を出す。まるでそこらへんの雑魚と戦った後のような雰囲気だ。
上位竜すら雑魚と思わせるスケルとアイン。二人の強さは計り知れなくなっていた。




