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16話「疑惑」

 スケルが死者たる魔法使い(リッチ)に見逃されてから二年の月日が経った。

 スケルはその間に様々なことを学んだ。

 武具はもちろん。魔法や金銭の偉大さ、人間の社会について。

 スケルは随分と強くなったと思う。


 現在スケルは全身を漆黒の鎧で覆っている。最初の目的である正体を隠すためだ。

 死者たる魔法使い(リッチ)に見逃されて町に帰ったスケルはなおのこと強さを求めるようになった。近くにいる小さな存在を守るために。

 故にどんどんと依頼をこなし、お金を貯めてすぐに鎧を買った。そのときには冒険者の位は五位まで上がっていた。僅か半年でそこまで上がったのだ。そのときからスケルは注目され始めていた。

 そしてスケルはその様々な効果の付与された鎧を着て更に強くなった。依頼で魔物を狩り、魔力を奪って強くなったスケルを更に強くしたのだ。

 やがてスケルは武器も手に入れた。スケルの選んだ武器は、大剣だ。

 理由としては、スケルほどの膂力があれば簡単に振り回せるし、その質量での破壊力が凄まじいものだったからだ。

 武具を手に入れて、次に求めたのは、知識だった。

 スケルは魔法の知識を得るにはどうしたらいいか考えた。しかし、教えを請うには自分の正体をばらさないといけない。

 そんなこんなで滞っていた魔法の知識はあるときスッと氷解した。

 いつものように依頼を受けていたときだ。そのときは骸骨魔法使いスケルトン・ウィザードの討伐だった。スケルはそのとき、二体同時に出てきて、一体の魔力を吸収したのだ。依頼は一体で十分だったし。

 するとどうか、スケルに魔法の知識が流れ込んできたのだ。スケルは魔法の知識を手に入れた。


 そうして強くなったスケルの現在の冒険者の位は一位。人類最高峰の順位だ。

 ちなみにアインも成長した。

 身体的にはもちろん、精神的にも成長した。

 スケルが一番驚いたのはアインが魔物と戦いたいと言い出したときだ。

 アインも思うことがあったのだ。あのとき死者たる魔法使い(リッチ)に何も出来なかった自分に。

 スケルは悩み、考え、折れた。

 スケルがダメだというと、勝手に飛び出していきそうだったのだ。

 故にアインはスケルの監視のもと、魔物と戦うようになった。

 獣の本能というのか、連日連戦の過酷な日々を経験してアインはその年齢に似合わない強さを手に入れた。


 順調な毎日を送っていたスケルとアイン。

 しかし、ある日その日々は崩されることとなる。












「おい、あれがあの漆黒の鎧か?」

「ああ、そうだ。誰も喋ったところを見たことないから漆黒の『鎧』らしいぜ」

「かっけぇ……」


 冒険者組合へと向かうスケルの耳にそのようなヒソヒソ話が聞こえてくる。

 骸骨(スケルトン)系の魔物であるスケルは触感が薄い代わりに他の感覚が優れているのだ。

 スケルはその声らを無視して颯爽と歩き続ける。

 周りから様々な視線を感じるスケルは後ろの小さな存在をそれらの視線から庇うようにたなびくマントで覆った。


「あ、ありがとー」


 アインはやはり人の視線には慣れていないようで、スケルのマントで体を隠しながら隣を歩く。

 それにしても成長したな、とスケルは思う。

 現在のアインの身長は百二十cmほどだ。まあスケルも自身の強化に伴って体をでかくしたため、差はあまり変わっていないが。ちなみにスケルは今二百cmほどだ。

 発音も大分流暢になり、動きももたつかなくなった。

 スケルはその成長に温かい気持ちになっていると、組合が見えた。

 組合からはゴツい、一目で荒くれ者と分かるような輩共が出て行ったり入ったりと今日も賑やかそうだった。

 しかし、何か違う。

 そうスケルは感じながらもその理由に思い至らなくとりあえず行くことにした。

 スケルが組合の扉に近づくと、あのゴツい荒くれ者共が道を譲るように開けた。みな知っているのだ。この漆黒の鎧が誰なのか。

 スケルはそれに僅かばかりの優越感を覚えながら扉を開ける。

 すると中の視線が集まる。初めてきたときと同じことしかしないのか、こいつらは。

 スケルは毎回そんなことを思う。

 が、中の者たちは入ってきた者が誰か知ると、あからさまに視線を逸らした。

 ん?とスケルは内心首を傾げ、やはりおかしい、と訝しげに思った。

 とにかく、とスケルは受付へ向かった。いつも通り初めて来たときに対応してくれたやつの所へ。


「よ、ようこそ!今回はどのようなご用件で?」


 すると受付はかなり上擦った声で定型文をうたった。


(お前もなんかおかしいな。何があった?)


 それに対しスケルは単刀直入に聞くことにした。

 スケルが直接聞いたことで覚悟を決めたのか受付は据わった目つきになり、口を開いた。


「お話があるので来ていただけませんか?」


(…………ああ、分かった。ただしこの子も連れて行くからな)


 受付の覚悟を決めた目にやはり何かあったのだと感じたスケルはそれに応じることにした。

 それが今の生活を壊すと知らずに。






 スケルは三階にある組合長の部屋へと通された。

 コンコンと受付がノックをすれば中から、入れ、と威圧感たっぷりの声が返って来る。

 それに呼応して受付は扉を開けて中へと入る。

 ほんの少し嫌な予感を覚えながらスケルはその後に続く。

 中には何回か会ったことのある組合長と、他にもう一人いた。

 普通は立場が上のものが座るのが常識だ。なのに何故か、組合長が立ってそのもう一人が座っている。

 それはどういうことか。つまり……


「どうも、初めまして私は冒険者組合総長のギルバート・アルデンテと申します。ギルと呼んで頂ければ幸いです」


 そう言って和やかに笑うギル。しかしその目は笑ってなどいない。

 スケルが中へ入り、どうぞ、と言われたので席に着くと組合長が扉を塞ぐように回り込む。

 だんだんきな臭くなって来た、と思い始めた所でギルが話し出す。


「君は数十年前のある魔物が起こした大災害を知っているかな?」


(…………知らないな)


 急に何の話だ?とスケルは訝しむが、まずは答えておこうと思い答える。

 ギルは、ふむ、と言い目を瞑る。

 数秒の後、ギルは目を開け、獲物を狙うような目つきでスケルを見ながら口を開いた。


「そのヘルムをとってはくれないかね?」


(無理だ)


「何故かね?」


 ギルの願いにスケルは即答する。

 するとギルはそんなこと予想出来てたとでも言うように更なる問いを重ねる。

 スケルは一瞬だけ理由を考え、言葉を発信する。


(……実は私の顔には呪いがかけられている。そしてその呪いは見たものに感染する。故に私はこのヘルムをとったことはない。それはこの場でも同じだ。もう一度言う。私はこのヘルムをとる気はない)


 スケルの少しばかり長い言葉にしばし考えるギル。

 スケルは隣で不安そうに見上げてくるアインの頭を撫でながら答えを待つ。

 やがて答えが出たのかギルが口を動かす。


「……分かった。今回はすまなかったね。少しばかり不安な可能性が出て来てね。本当なら早めに摘み取りたいと思ったのだよ。いやぁ、違うなら結構結構。君は組合にとって数少ない大事な一位冒険者だからね。やすやすとなくしたくない(・・・・・・・)もの。それではもう用もないので出て行ってもいいよ?聞きたいことがあれば、答えられる範囲で答えよう」


 早口にまくし立てたギルはそう言ってスケルを見る。その視線はヘルムの奥を見透かしているかのようでスケルにとって気味の悪いものだ。

 故にスケルはすぐにでもここを出たいと思うが、知りたいことがあったので、一つだけ聞くことにした。


(……では一つだけ聞かせてもらおう)


「何かな?」


(数十年前の魔物が起こした大災害とはなんだ?)


 この問いにギルは若干目を細めた。が、それは正面のスケルにしか見抜けないほどの僅かな時間だ。

 ギルは話し出す。


「君は知らないのか。そうか、なら話そう。…………あれはまさしく災害だった。単騎で城壁を崩し、単騎で兵士数万をなぎ倒し、単騎で国を落とした。それの正体は……骸骨(スケルトン)。しかしそれはただの骸骨(スケルトン)ではない。骸骨(スケルトン)には……いや、魔物にはないはずの知性がその者にはあったのだ。言い伝えによると、それは人間社会に溶け込み、普通に人間と共に暮らしていたらしい。つまり人間と同じ程度には知性がある、ということ。いや、それだけなら死者たる魔法使い(リッチ)の可能性もあるだろう。でもそいつは剣も魔法も肉弾戦も行った。それは知性があり、学ぶことが出来、かつそれを行う力があったからだ。故に死者たる魔法使い(リッチ)でもない。私たちはいつしかそれをこう呼ぶようになった。知性ある骸骨スケルトン・ウィズダム、と………………まあこんな所かな」


(…………そうか、分かった。怪しいものがいれば捕まえておこう)


 スケルはそう言って席を立った。

 舟を漕ぎ出していたアインはスケルが立ち上がったことに気づくと慌てて立ち上がり、一緒に部屋を出て行った。

 スケルたちが出て行ったあとも部屋は静寂から動こうとしない。

 数分後、ようやくその静寂が破られた。破ったのは、ギルだ。


「いやぁ、どうしたもんかね」

「は、早く捕まえて無理矢理にでもあの仮面を剥ぐべきだと思います!」


 ギルの呟きに反応したのは一緒にいたギルド長だ。

 ギルはそれに、ふむふむ、と頷くと言う。


「無理矢理、ねぇ。あれって何位だっけ?ああ、冒険者の位じゃなくて序列の方ね」

「…………三位です」


 序列。

 それは一位冒険者を超えたと思われるもののみにつけられるギルド内でのみ使われる位だ。ギルド内のみの位なので外の者がそれを知ることはない。

 そしてスケルは組合に既に三位とまで言われるまで力をつけていた。

 つまるところギルド総長はこう言いたいのだ。


 そんな実力者をどうやって捕らえるんだ?


 と。

 確かに罠や、物量で押しつぶせば捕らえれるかもしれない。しかし生半可な罠は力でねじ伏せられるし、三位を倒せるほどの罠を作るには時間も金も人員も足りず、物量だと多大な被害を被る。

 そして両方に共通するのが、失敗すれば、もしくは成功しても正体が人間だった場合、完全に敵対してしまい、組合は三位という強大な戦力を失うことになる。

 どこの国にも属さない冒険者組合にとって戦力は必要不可欠なものなのだ。

 だからギルはこう考えている。相手が何も行動を起こさないのならばわざわざこちらから手を出す必要はないのでは?と。


「言い伝えを忘れたのですか?!知性ある骸骨スケルトン・ウィズダムは人間と共存していたが、ある日突然人間を襲った魔物なんですよ?!」

「ああ、分かっているとも。しかしそれがあれとは限らないだろう?とにかく今は情報が少ない。あーあ、これもどっかの誰かさんが怪しげな強者の存在を楽観視してたせいだね〜」

「う……」


 ギルの言葉にギルド長は押し黙る。

 ギルの言う通りギルド長はスケルのことをかなり楽観視していたのだ。

 それこそ一年と半年くらい前に知性ある骸骨スケルトン・ウィズダム発見の報告は来ていたにも関わらず。

 ギルは、はぁ、とため息をついて席を立つ。


「それじゃ、私はこれでおいとまするよ。そちらもあれのことちゃんと調べといてね。こっちも『影』を使うから」

「は、はい!分かりました!」


 そう言ってギルはその場から消えた。

 そう、文字通り消えたのだ。


「……第一位魔法【遠距離転移(テレポーテーション)】」


 シン、と静まった空間にその呟きだけがやけに響いた。









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