13話「テンプレ」
町へ入ったスケルとアインはまず、門兵に言われた通り冒険者組合を目指すことにした。
なんにせよ強いやつらが集まると聞いたそこは目的には最適の場所だし。
そうしてスケルたちは日差しが強い中人通りの激しい道を歩いてゆく。
途中で冒険者組合がどこか知らないことに気付いたスケルは道ゆく人にアインをけしかけたりしていた。
やはり同じ人間、しかも自分のように怪しくないとこんなにスムーズにいくのだな、などとスケルは考えながら初めてのお願いに緊張した様子で人に道を尋ねるアインを物陰から眺めていた。
そんな感じで進むこと小一時間。スケルたちはやや無骨な大きい建物の前まで来ていた。
看板には『冒険者組合』の文字が書いてある。
スケルは戸惑いなどなくそこへ入る。間違ってもまた人に聞けばいいと思っているがために。アインはその後ろを小判鮫のようにぴったりとくっついてついて行く。ちなみに扉は開閉式でこの世界の標準のものだ。
スケルたちが中へ入ると様々な視線が投げられる。威圧するような視線、観察するような視線、面白いことはないかと期待する視線。しかしそこに怪しい格好を見て眉を細めるものはいない。まるでそれくらい普通だと言わんばかりだ。
スケルはそれら全てをさらりと受け流し(そもそも骸骨系は精神ではほとんど負けることはないのだが)、受付へと真っ直ぐ進んでいく。アインはまだそれらの視線に慣れていないのか、スケルのローブの裾をギュッと握って耳を伏せた。よっぽど怖いのだろう。
そして受付はそれらの出来事に全く反応せず、スケルが来るのをジッと待っていた。
その証拠にスケルが受付の前へ立つと同時に、
「本日はどのようなご用で?」
営業スマイルで迎えたのだった。
スケルはほんの少し念話(人間からは精神感応と呼ばれるもの)を使うか迷い、アインを抱き上げた。
カウンターで完全に隠れていたアインは急に抱き上げられ、受付の人の前へと出されて困惑する。受付は可愛らしいアインを見て表情を緩めるがすぐに引き締めた。
スケルは困惑でスケルを見つめるアインに念話で指示を出す。
(アイン、今から俺が言うことを真似してくれ。返事はいらない)
コクリと頷くアイン。
スケルは困惑でそろそろどうしようかと考え始めている受付を行動に移させないためにすぐに念話を飛ばした。
アインはニカッと笑って拙い言葉で話す。
「あのね!アインたちはね、ぼーけーしゃにないたいの!」
キチンと言われたことを言えたアインは首を回して後ろのスケルを褒めてほしそうに見る。
スケルはよく言えた、と念話で言いながら受付の反応を待つ。
受付はしばし沈黙し、何を言いたいのか理解すると営業スマイルを浮かべた。
「はい、冒険者登録ですね。ではまず証明板の発行には銀貨一枚が必要となりますがよろしかったでしょうか?」
スケルはこちらの言いたいことが伝わってよかった、と思いながらコクと頷く。
受付はその反応を見て続ける。
「では早速書類の方を記入してください。代筆の方も承っております」
そう言って受付はカウンターの下から一枚の紙を取り出す。
が、スケルは文字の知識を持たない。故に動けない。
代筆を頼もうにも声は出ないので何も言えない。
しばし悩んだ末にスケルは決めた。
(まず最初に驚かないでくれ。これは精神感応だ。俺は声を失ったためこれで意思を伝えている。それで代筆をお願いする)
受付は突然頭に響いてくる声に驚くが、スケルの言葉通りすぐに表情を元に戻す。
「はい、代筆ですね。銅貨三枚になりますがよろしかったでしょうか?」
(ああ、構わない)
受付の確認にスケルはそう言いながら小さめの銅貨三枚をカウンターに置く。
受付はそれを受け取ると筆を持ち、各項を読み上げて行く。
名前から始まり武器の種類、魔法の有無など、あまり多くはないがそこそこの数の質問に答えさせられた。
アインも同様に質問に答え、二人分の証明板を作ってもらった。元気よく答えるアインの姿は可愛らしく受付の表情もいつの間にやら緩んでいた。
証明板を受け取ると、受付は冒険者としてのマナーや、冒険者組合でのルール、位についてなど様々なことを説明した。
簡単にまとめると、冒険者はその実績により位が定められており、下が十位、そして上が一位となっている。そして魔物には級が定められており、一級の魔物は、一位冒険者が四人集まって倒せる程度の危険度とされているようだ。まああくまで目安であり、相性などで一位冒険者が五級の魔物に負けることもあるが。
一通りの説明が終わるとスケルは踵を返して組合を出ようとする。アインもつまらない説明が続いて眠そうにしていることだし宿でも取るか、と考えながら。
しかし、
「よお後輩くん」
スケルの前に立ち憚るスキンヘッドの大男。
無精髭を生やし、タンクトップを着ている姿はただの酒場で飲んだくれてるオヤジにしか見えない。
しかしその肉体はかなり鍛え上げられてると見てわかるものだった。
丸太のように太い腕、分厚い胸板、ドッシリとした下半身。
その見た目通り彼は位五位の、肉体を武器とする戦い方をする冒険者だ。
そんな彼の顔はやや赤みがさしており、口からはアルコールの臭いがプンプンする。スケルには分からないものだが。アインはその臭いに眠気を覚まし、顔を顰めている。
スケルはそんな彼の前で立ち止まり二mはあろうかという大男を見上げた。
大男はニヤリと笑って腕を組む。
「新たな我らの仲間である君!後輩なら後輩らしく先輩に挨拶したらどうだ?」
ちなみに俺は位五位の大先輩だぞ、と付け加える大男。
スケルはそれを聞いて呆れたような雰囲気を出すとその横を通り過ぎる。
が、そんなこと許されるはずもなく。
「何無視してんだ?おい」
案の定大男が突っかかって来た。
三百六十度の視界があるスケルは肩に伸ばして来た腕を躱しながらまたも大男と対峙する。今度は位置が逆転した場所で。
大男は腕を見もしないで避けられたことにムカついたのか、さらに顔を赤くさせて叫ぶ。
「誰の許可あって避けてんだ?!ああ?!これだから調子乗った新人は!キチンと教育してやらねえとなぁ!」
言葉の前後が若干繋がっていない大男はそう叫びながらその丸太ほどもある腕を振りかぶる。
スケルはまたも呆れながら一番早くその場を沈めれる方法を考える。
しばし考え、スケルは腰のあたりの高さで手のひらを上にした。
そして大男が腕を振る前に素早く唱える。
(【火球】)
突如現れる火の球。
大きさはバスケットボールほど。しかしその中に込められている魔力は尋常じゃなかった。
メラメラ……いや、ドロドロとまるでマグマのような光を放つ火の球を見て組合内からどよめきが起こる。
スケルの目の前の大男は目の前に出された火の球に驚き腕を引っ込める。
腕を引っ込めたことを確認するとスケルは火の球を握り潰して大男の横を通り過ぎて行く。
今度は止められることはなく外へ出た。
静寂が組合内を支配する中ある一言が紡がれた。
「…………あいつは、何者なんだ……?」
その日全身の肌を隠した怪しげな人物の情報が町中に広がった。




