9話 白い悪魔は、黒い奴よりなお悪い
メリークリスマス!!(で…いいのかな?)
クリスマスですが、そんなの関係なしでいつも通りに進行します。
聖なる夜に、聖職者に相応しく無い僧侶の話をどうぞ…
『来るのが遅いのでは無いか? 待ちわびたぞ、半身』
先程の急な連絡から、まだ、5分も経っていない。コレでも結構急いで来た方だ。ディアナの目を盗んであの場から立ち去る事は容易だが、立場的に勝手な行動が出来ないので口実が必要だったのだ。
俺が用意した口実は、『ハルピュイアの残党を見つけました、皆さんはここから動かないで、私が倒して参ります。ディアナさんは皆さんを守ってあえて下さい』だ。
そして、俺が居るのは、俺が泊まっていた部屋…
中央には頭部を肉片にされた無惨なハルピュイアの死体がある。俺はこの死体を、今回の口実に利用する事にしている。
魔王はその死体を一瞥してから…
『ククク…コレはお前の所業かの? いやはや…本当に聖職者のする事ではないよなぁ、我も少し呆れたぞ?
それに、下の怪我人共に施した貴様の《芸》とやら…笑いを堪えるのに必死だったぞ?』
全部、見ていたのか…
すこぶる鬱陶しいなこの仮面野郎。ん? そもそも、コイツは男なのか女なのか? …まぁ、どうでもいい話か、俺にはコイツの性別なんざ関係ないのだから。
「…そんな厭味を言う為にわざわざ俺を呼び出したのか?」
『いや、我もソコまで暇では無い。
しかし、折角手に入れた素晴らしい玩具が、簡単に壊れてしまいそうなのが惜しくての…忠告と言うか、アドバイスをしてやろうと思ってな…』
「近頃の魔王は随分と面倒見が良いんだな…」
『いやいや、我は玩具を壊す主義だよ。貴様も半身といえど例外ではない、最終的に我は貴様を壊すだろうよ。しかしな、お気に入りの玩具と言うのは、なかなか壊すのに気が進まぬものだろ?』
溜め息が出て来る。
その上手く無いたとえ話に、少し共感してしまった自分に溜め息が出る。
『諦めろよ半身。貴様と我は本質的に似ておる。
逆に似ているからこそ、我の力を半分も手に入れたと言えるだろうな』
俺は、見透かした様な口調で喋る魔王を睨む付ける。
殺意が籠っていたかもしれない…しかし、魔王は仮面の奥で笑みを作りつつ、それを受け入れる。
「お前に俺の何が解る」
『貴様も、なにも解っていないのだろ? そう言う事だよ半身。
貴様の言う《何》なんてものは、実はこの世に必要無いだろ? そして、貴様にとってそれは口実でしか無い筈だ。違うか?
大事なのは意味。今の貴様が存在する意味なんだよ。
貴様の存在理由は我は知らない。しかし、存在する意味なら多少理解出来るつもりだよ』
五月蝿いな本当に…
コイツ…神にでもなったつもりか?
否、つーかコイツ元神様だっけか?
あーそうだよな、神の座から追放されたんだったよな?
嗚呼、鬱陶しいは本当…
しかし、魔王は肩を振るわせてて笑いながら。
『そう、カリカリするなよ。
そんなに嫌なら我を殺せばよいではないか? なぁ、半身?
丁度、半分貴様に力を分け与えたのだから、六神の加護を受けている分、貴様の方が強いぞ?
どうだ、今から我の城に来るか?』
本当に腹の立つヤツだ…
俺だって好きでこんな加護を受けている訳では無い。出来る事なら使いたくねーんだよ。
「…巫山戯てないで、アドバイスとやらをさっさと言えよ」
こんなヤツと話したって時間の無駄だ。
魔王は大きく溜め息を吐いた後。ベッドに腰掛けると仮面の下から声を発した。
『では、まず最初に白い悪魔…《グラキエス・ウェブスター》について喋るとしようかな。
言ったと思うが彼奴は、我が神の座を追われ地上に落とされた時、我に逆らった愚か者よ…
ヤツは魔族至上主義者であり魔物至上主義者でな…例えるなら、人間のことを害虫のように思っておる。
きっと、貴様等が殺したハルピュイアの死に憤慨している事だろうさ…ヤツがこの死体を見てどんな顔をするか、見物ではある…ククク』
そう言い、笑いながらハルピュイアの死体を足で突く。
白い悪魔についての文献は少ない、神話の中にも伝承にも出て来る名前だが、その実、多く語られない魔族なのだ。ただ、吹雪に関連のある魔族なのだとは察しが付くが。
『我が彼奴を殺せなんだのは、奴が強かったからでは無い。
無論、確かに強かったのだが。奴は、魔族と魔物に絶大な人気を誇っておってな。一部の魔族には神として崇められたりしておった。
奴を殺すと、奴を慕っていた魔族を皆殺しにするとか、そんな状況になりかねんかったからな…人間に封印された事にしておいたのだ』
傍迷惑なことをしてくれる。
そこで魔王が殺しておけばこんな面倒な事にはならなかったものを…
『気付いているか? この猛吹雪は奴の魔力によって引き起こされたものだ、つまり奴の加護を受けた魔族や魔物は、この吹雪の影響を受けないこととなる。完璧に奴のテリトリーで戦う事となる訳だ。
そこでアドバイスだが、ここら辺で貴様の大事な《仲間》を使う事をお勧めするぞ?
貴様程ではないが聖なる加護を受けた《聖騎士》の称号を持つ奴なら、この吹雪の影響を無視した強さを発揮出来る事だろうよ…どうする?』
アイツは死んだ事になっている…いや、死んでいるからな…そう簡単には使えない。
『…まぁ、今しばらく我が預かっておいても良い。貴様の判断で呼び出すとよい。
後、貴様の施した《芸》だが、力の使い過ぎでかなり強力なのが産まれるぞ? 心して御するがよい』
「…忠告、ありがたく受け取っておくとするよ魔王。
俺も忙しいんだ、下らない事で呼び出すな」
『ククク、そうだわな。要らぬ、節介だったか…貴様の戦い、高見から見物させてもらうとしよう…』
そう、言い残すと魔王は肩を振るわせながら姿を消した。
なんなんだよ本当…
結局、解ったことと言えば、敵がかなり面倒な奴と言う事だけだ。
まぁ…流石にどうでもいいじゃ済まされそうに無いよな…
身に掛かる火の粉は振るうだけだ。
…いや、雪…かな?
窓に吹き付ける吹雪を睨みながら、俺はそんなことを思うのだった。
■
美しい氷で象られた氷像…
数分前まで人間だった男がそこに居た。
(本当に不思議よね…
害虫としか思えない人間も、氷で包めば美しく感じられるのだから…)
氷の表面に映る自分の姿を見る。
雪の様に美しい純白の髪、透き通る様な肌、まるで凍ってしまった様に歳をとらない見た目…
白い悪魔と呼ばれる、幼い見た目の魔族がソコに居た。
彼女の周りに立つ並ぶのは、ほんの数分前まで帝国軍の騎士だった者達…そして、ここは帝国首都に作られた軍事基地だった場所だ。氷で包まれたこの場所は、既に彼女にとっての魔城と化していた。
「…このおおお、くそ魔族がああああああ、殺すなら、はやく、はやく、殺せ…」
音のした方を向く。
そこに転がっていたのは、今にも凍え死にそうな、服で着飾った醜く太った害虫…
先程、凍らせた害虫が《司令官》と呼んでいた害虫だ。
この害虫が、この基地の最高責任者だったらしい…
コイツの他にも生き残った害虫が、20匹程、この場所に転がっていた。どいつもこいつも、醜く着飾った者共だ…
コイツ等を殺すのは容易だが、他の害虫を釣る餌になってもらわねばいけない。
本当にさっさと駆除したい…
彼女は司令官の腹を踏みつける、何度も何度も踏みつける…
血を吐いたので、流れて来たソレを瞬時に凍らせてやった、害虫は顔を青ざめさせ涙目になりながら大人しくなった。
「黙れよ害虫。
お前等はな、ワタシの気紛れ1つで死ぬんだよ。
そこをよく考えろよ、害虫…
お前等の使い道なんか、氷像になるか、ワタシの可愛いハルピュイアの餌になるかしか無いんだからよ?」
害虫共の周りにハルピュイアが飛んで来る。
この子達は随分と腹をすかしている筈だ…直にでも餌をあげたいのだけど、コイツ等は、勇者とかいう害虫の親玉を釣らなければならない。それに帝王とかいう害虫も取り逃がしている…駆除しなくては。
それにしても…
「遅いわ…遅過ぎる…
どうしたのかしら? ワタシの可愛い子達…」
ある方角に向かわせたハルピュイアがなかなか帰って来ない…なんで? なんで帰って来ないの?
彼女の向いた方角は、勇者パーティーが居るホテルのある方角…
そこから逃げ延びて来たハルピュイアが、彼女の前に傷だらけで現れるのは数分後の話である。
いろいろ元ネタを予想して頂いた《白い悪魔》ですが…
元ネタは、『白い悪魔は、黒い奴よりなお悪い』ということわざと、雪崩や吹雪など雪害に対する通称から。どちらかと言うと、後者が先ですね。
グラキエスは、ラテン語で《氷》の意味。
ウェブスターは、《白い悪魔》という演劇の劇作家の名前が由来です。
作者の、『氷系の魔族書きたい衝動』で産まれた方です。
劇作家の名前とか、ラテン語とか…これらは作品とは殆ど関係がありません。
作者の趣味です。はい。
作中に出て来る登場人物の名前は、結構ちゃんと考えてる人と、適当な人が混在してます。
今後、名前の由来とか、後書きで書いていきたいなぁ〜…などと思っております。
最後になりますが、今日と言う日が読者の皆様にとって良い日であります様に…
え? 作者ですか?
リア充爆発しろと叫んでる人ですよ? なにか問題がありますか?
早く、お酒が飲める歳になりたいですよ本当…