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8話 被害報告

《連合軍》…

 200年程前、その活動を再開した魔王に対抗するため、人間及び親交の深い種族間で結成された《世界連合》の戦力。人間側における世界最大の軍隊といっていい。

 世界各地の戦える戦力を掻き集めたその軍は、魔王軍との戦いや魔物討伐を主な仕事とし。世界各地を飛び回り活躍している。

 とはいえ、結成から200年…その上層部の一部は腐敗し、権力者が自らの欲を満たし、権力を振りかざす為の飾物の組織に成り果てている。その腐りは実働部隊にも影響を及ぼしており、賄賂や盗賊との内通、売春や奴隷売買…などなど、様々な犯罪に軍の部隊が関わっているのが現状である。


 と、いうのが俺の連合軍に対する評価だ。

 これは、俺が軍の上層部とそれなりの接点を持っているから出来る見方であって、何も知らない一般市民は彼等《連合軍》がそんなことに関わっていると思う人間は少数派だろう。

 そこそこ、上手くやっている連中だよ本当。

 俺の上司はその辺を懸念していたが、俺には関係の無い話だ。

 …しかし、まぁ、そんな腐った連中と関わっていると万一、俺に対する世間の評価が下がっても行けないから積極的に関わろうとは思っていない。


 カジノホールでの情報交換その最初の話は、その連合軍騎士団要人警護特設部隊の被害報告から始まった。


 勇者パーティーの面々とホテルの支配人の前に立ち、白金の鎧を身に纏った隊長さんが口を開く。


「まず最初に、先程の戦闘における戦況報告させて頂きます。

 我々の部隊は、連合の精鋭を選抜して選ばれた総勢100人の中隊です。その隊長はこの、《レオナルド・トゥルム》が勤めさせていただいております。以後、お見知り置きを…」


 レオナルド・トゥルム?…ああ、確かそんな名前だったなこの隊長。

 最初に会った時に名乗られたが、全然、興味が無かったから忘れてたわ。

 しかし、面白そうな男だと言う事が発覚した今…名前だけは覚えとくか。


「…まず、被害報告から。

 今回の戦闘での我々の部隊の損害は、死者13名、負傷者22名、行方不明者14名。

 ホテルの宿泊客の被害は、支配人の話しによると、死者6名、負傷者44名、行方不明者3名。

 ホテル側が雇っていた衛士30名と、一般のホテル従業員への被害は、死者11名、負傷者22名、行方不明者32名…

 対して、確認出来るだけで我々が討伐した敵ハルピュイアの数は22体…これが今回の戦闘の被害報告です」


 敵はハルピュイア…行方不明と言うのは、即ち、上空に連れ去られたということを意味している。そうなった者がどういう末路を辿るのか…想像に難しく無いな。つまり、死んだと考えて良い。

 その報告に対するパーティーメンバーの反応は様々だ。


 アンジェリカとルナ、辺りは多過ぎる被害に心を痛めている様だ。本当、俺なんかよりこの二人の方が聖人とか言われるのに相応しいのでは無かろうか?

 次にジョン。コイツの反応は少し変わっている。まず、ハルピュイアの討伐数22体と聞いた所で少し眉を寄せたのだ。確かに討伐数に対して被害数が多いが…俺は、コイツがそんなことを思っているのでは無いと直感している。おそらく、『自分はもっと敵を倒せた筈だ』とか思っているのでは無かろうか? ジョン・カリスト・ハントとはそういう男だ。

 そして最後にディアナ。コイツの反応は勿論、無反応。特筆に値しない。

 俺はどう反応したのかって? そんなの決まっている…


「おお、なんという事でしょうか…

 大事な友を失って魔王を倒したとしても、まだ、世界は闇に包まれようとしている…なんと、嘆かわしいことなのでしょうか。自分の無力さが情けない…

 私にもっと力があれば…罪無き民が犠牲となる事は無かったのに」


 大仰なジェスチャーで、くそったれな台詞を吐く…聖人と謳われる聖職者を演じるだけだ。

 今頃、どこかで魔王は笑っているに違いない。そう思うと腹が立つが、コレが俺なのだから仕方ないよな。

 

 見渡すと、俺の台詞に感激する奴と、興味無さそうに聞いている奴、そして無関心の奴…さまざまな反応を見る事が出来たが、どうやら隊長殿、レオナルド殿は興味の無い奴らしい。聖職者の台詞に興味が無いのか、俺に対する不信感か、それとも人死に自体に興味が無いのか…判断に困るな。

 ちなみに、ジョンは『聖職者の台詞に興味が無い』奴だ。

 レオナルドは、集まった面々の顔を見渡した後、口を開いた。


「次に、状況についてです。

 猛吹雪による視界不良で、敵がどの方角から飛来してきたのかは不明。ハルピュイアのみで構成された集団で、実際に戦闘をされた方ならお解りになると思いますが、非常に統率のとれた行動をしていました。なお、ハルピュイアの群れは通常4〜7体なのにも関わらず、確認されただけで50数体の集団行動。さらにこの吹雪の中で通常飛べない筈のハルピュイアが、飛行しているという状況。明らかに異常です。

これらのことから、おそらく、帝国首都をターゲットにした魔族による大規模な攻撃だと判断出来ます。

 現在、部下を帝国軍の基地に連絡に行かせていますが、応答は無し。帝国軍からの接触も無い為、敵の攻撃を受けているものと推察出来ます。また、同じ理由からか街からの救援も見込めません。

 支配人の話によると、このホテルの食料は…」


 レオナルド殿の状況説明を端的に纏めるとこうなる…


『外は猛吹雪で視界ゼロ。

 外部からの救援は期待出来ず、敵は吹雪の中を自由に飛び回れる。

 こちらは怪我人も多い。

 篭城するにも、こちらの食料は3日が限度。にも関わらず吹雪の次期は後1週間は続く見込み。

 頼りの勇者様は外出中…』


 つまり、なにが言いたいのかというと…


「このまま、対策を講じなければ、負けるのは我々です」


 餓鬼でも解ることだった。


 それぞれの持ち場を決めて、その場所の守りを勤めるということで一旦解散する事となった。

 俺は唯一の回復職ということもあり、怪我人が多く集められた会議室での治療及び守りを任される事となった。まぁ、無難な対応だわな。

 僧侶である俺一人では危険と言うことで、ディアナも同じ場所の守りだ。


 この無口女も心はあるらしく、顔に大きな怪我を負った怪我人の男を見て、目を逸らしたりしていた。

 怪我人の男は顔の皮を半分剥がされており、呻き声を上げながら剥がされた箇所を両手で押さえている。その姿は見るからにグロテスクだ。こんな状況になったとしても死ねないのだから、人生とは世知辛いものである。

 ディアナもその後に俺を見るのだから、コイツも人間なんだなと思う。なんだ、その目は? 俺に救えってか?

 まぁ、俺ならその怪我も余裕で治せそうではある。治さないけどね。魔力が勿体無いし。

…くそ、そんなに見つめられたら仕方ない。ヒール掛けて誤摩化す程度はしてやろう…


 魔法を唱えると鬱陶しい光が男の顔を包み、光が包む、肉が露になった男の顔に薄皮が張られて行く。

 男も突然痛みが消え、驚いた表情でこちらを見て来た。そして俺に気付くと、まるで神でもあがめる様に頭を下げる…


 ああー、なんだこれ?

 また、ヒールの回復量上がってね?

 俺は別に、薄皮が出来るまで回復させてやるつもりなんて無かったのだが…


 何の嫌がらせか、俺は聖属性や光属性なんて呼ばれるタイプの魔法に対する適性が《無駄》にある。こういう《無駄》にある人間を、神の加護を受けた人間とか言うのだが…

 本当になんの嫌がらせなのだろうか?

 神なんざ、死んじまえと思っている男が、聖職者をして、さらに加護まで貰っているとか…笑えねーよ。


 自嘲の笑みを浮かべていると、心の奥底から響く様な囁き越えが聞こえて来た。


『ああー、魔王だ。ちょっと話したい事がある、人気の無い所に移動するが良い』


 

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