3話 僧侶は吹雪で足止めを喰らったようです
いつも、ご愛読ありがとうございます。
ポニテ中毒者の作者です。
土・日の更新は基本的にお休みさせて頂きます。
まぁ今更ですが、平日のみの投稿になると思いますので、コレからもヨロシク御願いします!!
(ストック貯めにゃ、まずいですし…)
『レーヴェ王国』…
この世界…人間側の世界の最大国家がこの王国だ。
中央大陸と東方大陸、西方大陸の一部にもその版図を広げる王国は、魔王軍に対抗する為に各国の首脳陣により結成された連合軍においても主要な立ち位置にある。
人体に表すなら、連合軍の身体そのものといっても過言では無い。
因みに、現国王は連合軍の総司令をしている。
そして、俺とディアナ様は今…
魔王の影響力の強い大陸、魔大陸から中央大陸にある王国首都に絶賛凱旋中なのである。
現在は、北方大陸にある人間側2番目の大国『ヒルシュ帝国』の首都に滞在している。
滞在せずに、さっさと進みたいのだが『吹雪の時期』に搗ち合った為、この街で足止めを喰らっている。
吹雪の次期…数週間に渡り猛吹雪が続くこの地方独特の気象。一年に一度、12の月に訪れる。
たしか帝国の伝承では、神話の中で語られる『白い悪魔』の封印が弱まるのがこの次期なのだとか。
まぁ、どうでもいいな…
あの魔王から授けられた『力』を持ってしても、この吹雪をどうにかすることは出来ないらしい。全く使えない力だよ…
俺はホテルの自室で瞑想に励んでいる。
…いや、白状しよう、目を瞑ってボーとしているだけだ。
窓を吹雪が叩き付ける音は非常に五月蝿い。まぁ、それよりも五月蝿いのが部屋のドアをノックする音が聞こえた…
溜め息を吐きながら立ち上がり、部屋に来訪者を迎え入れる為ドアを開ける。
「クリス殿、お時間はよろしいでしょうか?
一階の会議室で会議を行いたいのですが…」
現れたのは白金の鎧に身を包んだ男。
神経質そうなこの男は、北方大陸まで帰って来た俺達を仲間の騎士を大勢連れて迎えに来ていたのだ。
連合軍騎士団要人警護特設部隊…だったか?
大層な名前の部隊だが、ようは魔大陸から帰還した俺達を王国首都まで連れて行く為に結成された…俺達の子守りの為に結成された部隊である。
それも、かなり優秀な人間を選別して組まれた部隊らしい…こんな所に人員を割く前にすることがあるだろうに。この男はその部隊の隊長である。
この男、数日共に過ごしたが、とりあえず口煩い。
非常に面倒な男だ。
それにしても、また『会議』か…いや、『取り調べ』と言った方が良いな。
笑顔の仮面を被り、返答する。
「解りました、少し準備がありますので、下でお待ち下さい」
「それでは下の会議室でお待ちしております」
それだけ言うと、隊長は下に続く階段を下りて行った。
部屋に戻り吐き捨てる。
「…たく、彼奴等さえ付いて来なければ、俺とディアナだけで吹雪の中でも進んだモノを…
解ってはいたが、上層部は馬鹿の集まりか?」
『…そりゃあ、貴様等をこの街に足止めするためだろうよ』
不意に掛けられた声に驚きはしない、どうせアイツだ…
声がした方を向くと、窓際に仮面を付けた魔王が佇んでいた。
あの日以来、俺はコイツに取り憑かれている。
「…また、頼んでも居ないのに現れたか…」
『ククク、まぁ、そんなに無下にするなよ半身?
わざわざ、ここまで思念体を飛ばして来ているのだ、茶くらい出しても罰は当たらんぞ?』
「思念体が、茶なんて飲むのかよ」
魔王を睨むが、ヤツは肩を振るわせて笑うだけで返答はしない。
良く見ると魔王の後ろにある壁が空けて見えている。それは、ヤツが思念体である証拠だ。
別名、アストラル体なんて言ったりするな。
この魔王の本体は現在、魔大陸中央部の魔王城の一室にある筈だ。わざわざ、ご苦労なことで。
『まぁ、人間のことだ。なにかしら卑しい計略が働いていると見て間違いなかろう。
おそらく、貴様等が帰還する事で、なにか不都合が起こるのだろうよ』
言われなくても解っているつもりだ。糞下らない話だが、問題はソレがどのようなモノなのかだ。
魔王は俺に珍しい者でも見る様な視線を向けて来る。
『なぁ、半身よ…貴様は我の力を持っていながら、何故そのような回りくどい考え方をしているのだ?理解に苦しむぞ?』
「なんのことだ?」
下に降りる準備を始めながら聞き返す。
まぁ、コイツの言いたい事は解っているのだが…
魔王は鼻で笑ってから、喋りだす。
『痴れたことを…貴様は我が半身、我の力を半分受け継ぐ者だ。だのに、なぜ、このような下らないことをしているのだ? そんなに煩わしいのなら、先程の男とその仲間を皆殺しにすればいいではないか』
やはり…そういうと思ったよ。
下らない…
魔王の方を向き睨む。
「言った筈だ。俺はお前の作る世界に何の興味も無い。
お前と似た様な力を持っているとしても、お前と似た様な使い方はしない…お前の作る世界と似たり寄ったりな世界になるからな。
なら、俺は俺らしい使い方をして世界を変える…」
俺の言葉を聞き、やはり、魔王は笑い出した。
本当に良く笑う魔王様だ…
『なるほどな、確かにそうだ。
しかし、まぁ、貴様らしい使い方となると…面白い見世物が見れそうだな、ククク』
不愉快な笑いを魔王は上げる。
俺はソレを無視し、『会議』とやらに出席する為に部屋を出る…
部屋を出る前に魔王が声をかけて来た。
『ああ、忠告するのを忘れていた。
貴様等のお仲間さんがこの街に来ているそうだ…我の部下を大勢殺してくれた恨みはあるが、面白いものが見れそうだから、貴様に任すとしよう』
魔王は笑いながら姿を消した。
■
このホテルは、どこぞの貴族様方が利用する高級なホテルだ。各種娯楽施設なんかもホテル内に入っており、金持ちが遊ぶ為のホテル…と、いった印象だ。装飾品なんかも贅の限りを尽くされている。
昔の自分を思うと、まったく縁の無さそうな場所であった。
無駄な装飾の多い重厚な扉の前に、二人の騎士が立っていた。
無駄に高そうな鎧に身を包んだ、無駄にプライドの高そうな男達だった。もはや、顔見知りである。
「クリストファー様、お待ちしておりました。
他の方々は既に席に着いておられます、クリストファー様もどうぞご入室ください」
片方がそう言うと、もう片方が扉を開ける。
俺は彼等に礼を言って入室すると、部屋の中央に置かれた円卓を囲む人間達の視線が一斉にこちらを向いた。こちらを見るのは5人…どいつもこいつも見知った顔だった。
「申し訳ありません、少し遅れてしまいました」
社交用の表情を作り、辺りを見回す。
まず目に入ったのはディアナだ、アイツはいつもの様に黙って座っている。魔王との一件から数日経過しているが特に身体に異常は見られない、いつも通りのディアナだ。しかし、記憶は喪失しており、魔王との一戦も、勇者と魔王の相打ちで記憶が書き換えられているようだった。
勇者の死も仲間の死も、特に感情が動かされてはいないようだ。俺が言うのもなんだが、この女、冷徹過ぎはしないだろうか?
因みに洗脳術が施されているようだが試しては居ない、興味は無いからな。
そしてもう一度見渡すと、おそらく自分の為に開けられていたのだろう席を見つけた。…向かいかけて、顔を顰めてしまった。俺の隣の席に座っていたのは、先程、俺の部屋を訊ねて来た隊長様だったからだ。
「いえ、急にお呼びだて申し訳ありません。
何分、《リュウジ様》がぜひとも話を聞きたいと申されましたので…」
彼にしては珍しい疲れた表情を浮かべながら、話に出て来た《勇者》を手で示す。
示された方向を見ると、俺の向かい側に、円卓に脚を乗っけて不遜な態度でこちらを睨む勇者の餓鬼が居た。
コイツの名前は、《勇者リュウジ・サカモト》…ソウマとは違う方法で召喚された勇者である。
リュウジの両脇には、剣を携えた少女と、2mはありそうな筋骨隆々の大男が控えていた。
この二人は、俺とディアナなんかと同じ境遇の『パーティーメンバー』なのだろう。そういえば、リュウジが来ているのならアイツも来ていると思っていたが…居ないようだな…
この世界には、有事の際には異世界から勇者を召喚すると言う、真に面倒くさい風習がある。
困った時には勇者を頼れ…ココまで砕けた文章では無いが、神話にも聖書にも、端は千年前書かれた予言書にも似た様なことが書かれていたりするのだ。
ソウマは、魔王討伐の使命を受けて召喚された勇者だ。そして、この餓鬼も魔王討伐の使命を受けて召喚された勇者なのである。他にも似た様な名目で召喚されたのが三人居た筈だ。
おそらく染めているのだろう。薄汚い金髪を掻き揚げ、リュウジは喚く。
「さっさと座れよオッサン。俺超忙しいんだからさ、面倒かけないでくれる?」
面倒な話の始まりである。