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2話 僧侶は驚き、魔王は笑う

 さて、俺は魔王に何時でも攻撃出来る用意をする。


 ここで魔王に裏切られては笑えない。

 俺は、勇者殺しのレッテルを貼られて生きて行くのも、ココでコイツに殺されるのもご免だ。


 魔王はゆっくりと俺の方を向いた、

 つま先から頭の天辺まで舐め回される様な視線を感じる。



『ククク、改めて見ると平凡そうな男よな。

 内に秘める化け物じみた悪意以外は…』


 魔王は心底可笑しそうに笑った。


「うるせぇ、さっさと俺に世界の半分とやらを寄越せよ」


『まぁ、焦るな。

 …最終確認だが、本当に我の作り出す世界に興味はないか?』


「くどい、俺は貴様が作る世界にミジンコ程の興味も無い」


 本心からの言葉だった。

 魔王は『そうか』と呟くと俺に向けて何か、黒い瘴気の様な物を発しやがった。

 反射的に魔法を発動するが、瘴気にかき消されて魔王の元に届かない。


 俺は馬鹿だ…

 魔王の言葉に唆され本当に馬鹿だ。


 自嘲の笑みを浮かべた瞬間、俺の身体は黒い瘴気に覆われた…


 黒い瘴気の中で俺の意識は驚く程にしっかりしている。

 苦しく無い…いや、逆に心地が良い…なんだ、コレは?


 少しずつ、俺の身体に瘴気が入って来る…

 悪しき物だということは解る、だが…


 瘴気が全て俺の中に入り終わると、俺の前に可笑しそうに笑う魔王がいた。


『ククク、僧侶でありながら、我の力に適合するとは…貴様、本当に聖職者か?』


 魔王を睨む。

 なんだ?

 不思議にあれ程強大だった魔王が、今は身近な存在に思える。

 負ける気がしない・・・なんだコレは?


『・・・ククク、安心しろ。

 我の力の半分をくれてやった、貴様は我の分身となったのだ。

 存分にその力を使うがよい』


「あ? テメェなんざの力なんて要らないんだよ」


『そうカリカリするな、考えてみろ?

 我は天から追放された主神の一柱だぞ?

 神の力の一端だぞ?

 その力を上手に使えば、世界はそう遠く無い未来、貴様の物だ』


 魔王の宣った台詞は、この世界の神話に関係する物だ。

 無論、僧侶である俺はその神話を熟知している。

 確かに魔王は神だったのだ。


『世界の始まりの刻』…

 7柱の神々によってこの世界は創られた。


・炎と火山を司る『火龍神』。

・水と海を司る『水麗神』。

・風と嵐を司る『風雷神』。

・土と大地を司る『地母神』。

・光と太陽を司る『太陽神』。

・闇と月を司る『月女神』。


 そして…


・魔と空間を司る『魔王神』。


 この7柱の神々によって世界は創られたのだという。

 そしてその後、『魔王神』は他の神々と敵対し、神の座を追放され『魔王』となった…というのが、神話の内容である。魔王が他の神々と敵対した理由については、神話には書かれていなかったし興味も無い。


 魔王の口ぶりから察するに、この神話は本当のことなのだろう。

 自分は元神だ…とか、偉そうに言っている訳だな。


 その『神様』…元神様が俺へ自身の『力』の半分をプレゼントするだと?

 馬鹿げてる。実に馬鹿げた話だ。

 神様云々はどうでも良いが、魔王の力は強大だ。

 確かに『力』をくれるとは言っていたが、その半分もの力とは…


 到底、信じられねぇーな。


「…騙してんじゃないよな?」


 魔王に問いつめる。

 俺はここで騙される訳には行かない、もう既に勇者殺しの片棒を担いでいるのだ、その報酬がしょうも無いモノでは割に合わない。まぁ、厳密には死んでないかもだが…

 魔王の力の半分を手に入れると言うのは確かに規格外に大きい報酬だろう。だが、ここで騙されては本末転倒だからな。俺は簡単に人を信じない、魔王ならなおさらだ。


『ククク、疑り深いのは悪いことでは無いよな。

 ただし本当に事実を確かめるには自分の目で確かめるしかあるまい?

 ほら、丁度好い物が転がっておるではないか?』


 魔王が顎で差したのは、安らかに眠る聖騎士様の死体だった。


「…なんだ? ただの死体だろ?

 まさか、魔王の分際で俺にちゃんと供養しろとか言うんじゃないよな?」


 俺の台詞に魔王は噴き出した。

 仮面を付けた状態でよく爆笑出来るな…

 一頻り高笑いを続けた後で、深呼吸して続ける。


『ああー…ククク、貴様は本当に良いな!!

 ここ200年、貴様程我が寵愛に値する人間は現れておらぬよ…

 再度問おう、貴様、本当に聖職者か?

 我は、貴様が実は魔族であっても驚かんだろうな!!』


 …自分でも残念なことながら、俺は聖職者だ。

 ガキだった頃の俺が『無駄』に頑張ったせいで、『無駄』に神々の加護とやらを受け『無駄』に力を付け、教会内で『無駄』に地位を上げ、王国が魔王討伐に結成した少数精鋭部隊『パーティー』のメンバーに、教会代表として真に『不本意』ながら選ばれてしまった。


 そう、そんな経緯を辿った俺は、少数精鋭部隊の1つ『最善のパーティー』…聖剣を抜いた勇者がソウマが在籍するから通称『ソウマパーティー』…に入れられたのだ。

 他にも少数精鋭部隊『パーティー』は幾つか存在する。


 さて、大事なパーティーメンバーの死体に近付き、魔王に問う。


「…で、この死体をどうすればいい?

 どうすれば、俺はお前の言い分を確かめることが出来る?」


『なに、簡単なことよ。

 その死体をベースに魔族を生成すればよい。

 腹の大穴のせいでアンデッドくらいにしかならんだろうが、元の素材がよいからな…かなり高位の魔族を生成出来る筈だろう。試してみるとよい』


 コイツ…今、何て言った? 魔族の生成だと?

 俺が訝しむ視線を向けると、魔王は不思議そうに首を傾げた後、納得した様に頷いた。


『そうか、人間である貴様は我の能力について全く知らないのだったな。

 貴様が魔族以上に魔族らしいから失念したぞ、ククク…

 『魔族生成』はな…なにかしらの素材を元に、新しい『魔族』を生み出すスキルだ。

 似た様なスキルに『魔物生成』がある。

 まぁ、素材が良くなければ、全く役に立たない雑魚が生まれるだけだがな』


 説明を聞いて、空いた口が塞がらなくなった。


「非常に面倒臭い能力だな。

 使い方によっては、そこら中の人間を全部魔族に変えることも出来たんじゃないか?

 そうすれば、数の暴力で人間なんて簡単に滅亡しただろうに」


『…あのな、貴様は道端に生える雑草に片っ端から水をやる様な酔狂な人間なのか?

 そんな詰まらんこと、我はしたくは無いよ。

 それに…貴様もやってみれば解るだろうが、結構疲れる作業なのだ』


「…魔族にして…生き返らせて、激怒して襲って来たらどうする?」


『意味合いが違うの、別にその死体を生き返らせる訳では無い、その死体をベースに新しい命を生成するだけの話よな。まぁ、多少はベースである死体の記憶を受け継ぐかもしれんが、今回、創れるのは精々アンデッド…自我なんて殆どないよ。

 それに、生成された魔族は貴様に絶対服従だ』


「…やり方を教えろ」


『その前に聞きたいのだが…あそこで気絶したフリをしておるメスは放置しておいてもよいのか?』


 魔王が指差す方向に居たのは、魔王との戦闘で魔法を打つけられ気絶させられた、王国第三王女な魔法使いディアナだった。

 起きているのか…面倒だな…

 俺はディアナに声を掛ける。


「おい、ディアナ。

 起きているのなら立て、さもなくば、お前も魔法で殺す」


 俺の台詞を聞いた後、ディアナはゆっくりした動作で立ち上がりこちらに顔を向けた。

 姫様であるだけはあって整った顔立ちだ、美少女に分類されるだろうな…まぁ、その全てが深い闇を落とした虚ろな瞳のせいで台無しなのだが。

 コイツは出会った時からこういうヤツだった。


「ディアナ…何処まで聞いた?」


 少し間を空けて、答えが返って来る。


「………全部」


『…ほう』


 俺の隣で魔王が驚きの声を上げたが無視する。

 全部聞かれたか、今ここで始末するべきか?

 しかし、コイツを殺せば俺はただでは王国に帰れないだろうな…

 俺がコイツの処遇を思案していると、ディアナは虚ろな目のまま呟いた。


「…貴方、自分が何をしているのか解っているの?」


 ディアナは起伏の無い口調でそう呟く。

 自分が何をしているのかって? そんなこと見りゃ解るだろう…どうするべきか、始末するか?

 俺が軽くディアナを睨むと、魔王は可笑しそうに笑い出した。


『…クッカカカ、貴様、本当に聖職者か?

 いや…それより、本当に人間か?貴様には罪悪感と言うものが欠如しているようだな。

 よい…今回は我が手を貸してやる。貴様は我が寵愛に値するからな!!』


 そう言うと魔王は直に動き出した。

 警戒し魔法を放とうとしたディアナとの間合いを一気に詰め、右手でディアナの手首を掴み、もう片方の手で頭を掴む、そして…


「!?…」


『安心しろ、殺しはせぬ』


 魔王の手から発せられる膨大な魔力…その一部が掴まれた場所を通じディアナの身体に流れ込むのが感じられた。魔力を流し込まれたディアナは、数分感もがいていたが、直に意識を失ったようで地面に崩れ落ちた。

 そんなディアナを一瞥してから、魔王はこちらを振り返る。何故だろう? 仮面を付けているのに笑っているのが解った。


『軽い記憶操作と、洗脳術を施しておいた…まぁ、呪いの類いよな。

 我が半身である貴様の言う事を聞く様に、弄っておいたから後は好きにするが良い。

 この術の扱い方は…感覚的に解るな?』


 自然と、俺は頷いていた。

 何故だろうか? 魔王の使った術がどのようなものなのか手に取るように解る…

 成る程、確かに俺は魔王の力を半分貰っているようだ。


『…さて、我は少し寝る。後は好きにするがよい…』


 そう言い残し、魔王は姿を消したのだった。

 



 


 



 

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