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12話 白い悪魔

 ワタシの可愛いハルピュイア達が害虫共の下劣な罠に掛かり床に落ちて行く。

 無惨に叩き付けられたあの子達に、害虫共は五月蝿い声を発しながら群がり、剣であの子達を嬲り殺しにして行く…

 遠目でその光景を見ていたワタシの頭は、真っ白になった。


(止めて…止めなさいよ…あの子達が一体何をしたっていうの!?

 ただ、帰って来ない仲間を助けに来ただけなのに…なんで、あの子達がこんな目に遭わなくちゃいけないの!!!

 …餌の分際で思い上がってるわ…

 やっぱりあの害虫共は駆逐しないと…)


 身体を吹雪と同化させ一気に飛ぶ。

 元々、雪の化身である彼女にとって吹雪と同化するなど雑作も無い事だ。

 目指すのはワタシのハルピュイアに剣を振り上げる害虫の一匹。

 怒号を発しながら振り下ろされた剣を、ワタシは吹雪で腕ごと凍らせた。

 

 害虫は何が起こったのか、何故、自分の腕が凍っているのか理解出来ていない顔だ。

 害虫の前で吹雪から元の姿に戻す。徐々に形作られて行くワタシの姿を見て、周りの害虫共は驚きの表情を見せていた。

 完全に顕現したワタシに、害虫共は恐怖で顔を染め上げる。

 目の前の害虫を見る。その顔を見ると、顔の半分が薄皮に包まれた醜い顔だった。

 しかし、そんな顔も次の瞬間には氷像に変わる。


 氷像に変えれば少しは見える様になるかと思ったが、そんなことは無かった。

 恐怖の表情のまま、氷像となった害虫は。氷像になっても醜いままだったのだ…

 目障りだったので魔力を強め粉々に破壊する。

 その光景を見て、今まで恐怖に顔を染めながらも動けずに居た害虫共に動きがあった。


 ある、虫は一目散に逃げ出した。

 ある、虫は怒号を発しながら切り掛かって来た。

 ある、虫は這い蹲り泣きわめきだした。


 …目につく者は全て氷像に変えてやる。

 しかし、その氷像全てに目を通すが、ワタシのハルピュイアを殺した主軸となった虫が居ない…

 何処だ…何処に行った?…殺してやる、殺してやる、殺してやる…


 まさか…逃げた虫共の中に居たのか?…

 追いかけて駆逐しないと…

 

 虫が逃げた方向に足を踏み出すと、背後から炎の矢が放たれ、ワタシの背中に突き刺さった。

 痛くは無い、熱くも無い、ただ突き刺さっただけ…

 振り向くと、薄汚いローブに身を包んだ害虫が立っていた。

 その虫はニヤリと笑うと…


「バースト!!!」


 背中の矢が爆発する…

 爆散するワタシの身体…

 熱によって蒸発する付近の雪…

 嗚呼、思いだした…ワタシのハルピュイアもこんな風に殺されたんだっけ?

 そうだった、コイツも殺さなきゃ…


「やったか!?…」


 害虫は、ニヤニヤ笑いながら呟く。

 自身の勝利を疑っていない表情だ。

 嗚呼…なんと何とも愚かしい…吹雪の化身たるワタシを、この程度で殺した気になるとは…


 水蒸気の中で顕現しなおし、魔力で氷の刃を3本造り、害虫に向けて放つ。

 害虫にしては察しのいい方らしく、放たれた3本のう2本は避けてみせた。しかし、三本目は彼奴の右脚を貫き転倒する。

 何が起こったのか解っていない害虫は、転んだ状態のまま、悲鳴を上げながら一心不乱に炎の矢を放って来た。

 下らない、実に下らない…ワタシに向けて炎の矢など、下策にも程がある。

 虫でも払う様に右手を振ると、凍てつく吹雪によって炎の矢は掻き消えた。そして、吹雪は害虫を吹き飛ばす。

 害虫は、壁に激突し転げた。まるで、本当に虫のようだな…


 魔力で氷の槍を造り出し、矛先を害虫に向けながら少しずつ近付いて行く。

 このような者、殺そうと思えば直にでも殺せる。

 そうしないのは、この恐怖におののきながら、生きようともがく姿が面白いからだ。

 どうせ、害虫を駆除するにしても、ただ殺すだけでは芸が無い。

 

 最近、ワタシが思いついた、ハルピュイアの餌と氷像にすること以外の害虫の利用法だ。

 様々な方法で殺し、それを楽しむ…シンプルで良い愉しみ方だ。


 …さて、とうとう目の前まで来てしまった。

 眼下の害虫は、みっともなく涙と鼻水を垂れ流し、必死に炎の矢を創る為の魔力を練っているようだ。しかし、いくら練ろうと精神が集中していないため創れずにいる。

 実に滑稽だな…


 ワタシが冷笑を浮かべると、害虫の練っていた魔力が掻き消えた。

 自分の運命を理解したかのような、諦めの混じった虚ろな笑み…


「…ま、まって…殺さないでくれ、俺は…俺は、まだ死にたくない。死にたく無い。死にたく無い…」


 そんな言葉を呟きだす害虫に槍を振り下ろした。



「死なせません、わたくしが守ります!!」


 そんな言葉を聞きながら、声の主に守られて、俺はジョンの肩を掴み立ち上がらせる。

 まぁ、なんというか、こんなヤツを助けたかった訳では無い。

 俺は遅れて来たアイツに連れられ、『わたくしが時間を稼いでいる間に、ジョンをお助けください』と、頼まれたのである。

 

 氷の槍を防ぐのは、教会騎士団に所属していた女騎士、ルナ・メリーアイズ・サリエルその人だった。

 彼女は教会の紋章が刻まれた鎧を身に纏い、同じく紋章の刻まれた《盾》で氷の槍の一撃を防いでいる。

 否、防いでいるのは《盾》では無いだろう。《盾》に刻まれた術式から、聖なる加護が発動し、小規模な結界が盾と持ち主の周りを包んでいるのだ。あの結界は、魔力を弾く部類のものだろう。故に、魔力で創られた槍の攻撃は無意味となる。

《盾》にも名前がついている、《魔除けの聖盾》だったか? まんま、だな。

 まぁ、流石は名前付きの盾だ、強力な特殊能力だこと…ちなみにルナは、コレを取りに行っていたから遅れたとか巫山戯た事を言っていた。

 

 そんな盾で守ってくれる美女に隠れて、俺はせっせとジョンを物陰に引き摺る(結局、放心状態のまま治らず。しかも、腰が抜けているようで立てなかったのだ)。


 白い悪魔が、冷たい微笑みを浮かべ口を開く。

 コイツが魔王の言っていた、白い悪魔…《グラキエス・ウェブスター》か…本当に面倒だな。

 

「ほほう…ワタシの邪魔をするのか、害虫…

 ほんとうに身の程知らずの虫共よな!!」


 声と共に槍をもう1本造り出したグラキエスは、ルナの頭に向けて突き出す。

 しかし、結界の有効範囲は持ち主の周りの含むため弾かれる。

 グラキエスは3本目の槍を造り出そうとした瞬間、ルナの前から飛び退いた。

 先程までグラキエスの居た場所に降り注ぐ、衝撃波と化した斬撃の雨…

 それを放った魔剣士…アンジェリカは宙を走りながら、飛び退いたグラキエスを追撃。


 振り下ろされた剣は、氷の槍を切り裂きグラキエスの左腕を宙に飛ばす。


 アンジェリカが次の斬撃を加えようとした所で、グラキエスは吹雪を呼び出しアンジェリカを吹き飛ばす。

 アンジェリカは吹き飛ばされたものの、斬撃の衝撃波《斬波》を放ちグラキエスを牽制する。


 グラキエスは切られた左腕を再生させ。幾つもの氷の刃を魔力で創り、アンジェリカとルナに放つ。

 アンジェリカは剣で弾き、ルナは結界で攻撃を防ぐ…俺の方に飛んで来た流れ弾は、メイスで弾いて対処した。こっちに飛ばすな。


 しかし、まぁ、ぬるい戦闘だな。俺の率直な感想である。

 グラキエスに対して、なんら対策を考えずに攻撃を放っているのだ。阿呆としか言えない。

 未だ放心状態のジョンを見る。一人で突っ込んだ馬鹿だが、こいつのおかげで何も考えず攻撃しても駄目なのは解っているだろうに…


 不死性のある魔族…と、考えればいいのだろう。すこぶる面倒だ。

 そんなヤツ等に通常の攻撃は通用しない。

 相応の攻撃を放たなければいけないのだ。


 たとえば、俺が嫌いな聖属性の魔法や攻撃。

 コレは確実に不死性を持つ相手にダメージを入れれる。


 次に、勇者の持つ武器や能力なんかが有効的だ。

 あれは無意味に強いからな。

 まぁ、ソウマパーティーでは、不死性を持つ相手が的の場合は、俺が聖属性の魔法で殺すのが通常だった(ソウマは躊躇するからな)。しかし、もしかしたら《最強のパーティー》ではリュウジが、不死性を相手にしていたのかもしれない…だとしたら、俺が出なければならんのか? 面倒だ。


 しかし、まぁ、遅れて来るのが勇者らしい。

 そいつは不遜な態度で吹雪の中から現れた。


「…おい。俺の知らない所で面白そうなことしてんじゃねーよ、バーカ」


 血塗れの拳を構えた《聖拳》の勇者と、身長2mの大男がそこに居た。



 

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