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10話 魔法使いは僧侶を見ていた

 感想・評価ありがとうございます!

 コレからも精進致します。主に主人公を外道に書く方面で…

 窓の外は相変わらず吹雪だが、時刻は既に夜の9時…

 夜になって寒さが増したようで、ハルピュイアの襲撃によって荒らされたホテルは、冷たい風や雪が入り込む様になっていた。

 夜は非常に面倒だ。何故なら、夜は魔物の方が人間より遥かに優位に動く事が出来る。そして相手は吹雪の影響を受けないのだ…寒さが増した夜、吹雪の影響を受けながら人間はどれほど戦えるだろうか?

 まぁ、勇者やそのパーティーメンバーならある程度戦えるだろうが…


 怪我人の多くが運び込まれたこの部屋は、怪我人の為に出来るだけ損害が少ない部屋が選ばれている。確かに、人道的・倫理的・道徳的にはそれで正解だ。しかし、戦術的にはどうだろうか?

 動ける戦力のほとんどは、この部屋より遥かに寒い部屋で待機している…もし、敵が攻めて来たとして寒さに震えていた戦力で何処まで戦えるだろうか?

 俺は柄にも無く抱く疑念…それは、真夜中の襲撃だ。

 確実に来るだろうな…俺ならそうする。


 俺は今、ディアナと一緒に守備をさせられている。

 俺達の他にも、レオナルドの部下が守っているので居る意味があるのか微妙な所だ。

 居る意味は…無いだろうな。もう、だいたい怪我人は治療している。回復職としての俺の仕事は終わっているのだ。

 コイツ等は皆俺に感謝していたが。しかし、それがどれほどの価値があったのか?

 俺は人を助けたいとは思っていない。逆に俺の施した《芸》で助かった筈の人間も死ぬだろうな。…コイツ等はイメージだけで人を信用するから駄目なのだ。本当に下らない…


 全体的な状況は面倒な方向に突き進んでいると言っていい。

 リュウジもブレイズも戻って来てないしな。まぁ、アイツ等が死んでようが生きてようがどうでも良いか。

 しかし、個人的には…俺的には状況は思い通りに進んでいると言って良い。


 現在、この部屋に収容されている怪我人は88名。内、俺のヒールでも全快が難しい重傷者は31名くらいか…どうでもいいな。

 ディアナは俺の横で壁にもたれ掛かりながら、部屋全体を眺めている。

 俺はコイツが解らない…何となく俺を信用はして無いだろうと察しが付く。コイツは常に、俺と一緒に後衛に居た奴だ、もしかしたら俺の素に気付いているのかもしれない…考え過ぎか?

 結構長い事一緒に居るが、本当にコイツだけは何を考えているのか解らない…解る必要も無いか…


「……………ねぇ?」


 だから、まぁ、コイツから声をかけて来たのは驚いた。

 本当に一言だけだが、珍しい事だ。初めてでは無いだろうか?


「何でしょうかディアナ様、私になにか用でしょうか?」


 コイツからの接触はこれまでに一度も無い。

 警戒しなくてはならない。


「…なんで、本気で治してあげないの?

 貴方なら、簡単に治せるんじゃないの?」


「なんの…事ですか?」


 とりあえずとぼけておいたが…

 ああ…なんだよ、凄く面倒なことを聞いてきやがるな本当…

 ただの世間知らずのお姫様なら簡単に受け流せるが…コイツは、勇者パーティーの魔法使いだ、下手なことは喋れない。

 専門知識でも交えて喋れば誤摩化せるか?

 回復魔法はコイツも専門外の筈だ、一応の専門家である俺がソレっぽいことを言っておけば大丈夫か?…駄目だ、相手は魔法や魔力の専門家、しかもコイツは少々特殊だ。回復魔法に関する知識も、ある程度以上に持っている筈だ、下手な嘘は墓穴を掘る事となる…

 なら、俺自身の体調不良でも理由にすれば納得するか?

 そうだ、幾ら知識があっても人の体調なんて解る筈も無いだろう。ソレに俺みたいな回復職の僧侶なんて、理屈でどうこう出来ない特殊な部類だろう。その特殊さを盾に逃げ切るか?

 駄目だ、コイツは俺と同じパーティーですっと後衛として戦って来た。なら、俺がどのような能力を持つ人間なのか判別出来ているだろう。逃げ切れないことも無いが、後々、不信感が残る可能性がある…出来ればソレは避けたい。


 …つーか、俺はなんでそんなことで悩んでいるんだ?

 コイツには、既に洗脳術を施している…それに俺は記憶操作で対象の記憶を弄る事も可能だ。

 悩まずとも、さっさと記憶を弄ってしまえば解決するではないか?

 そうだ、そうしよう…


 記憶操作は、対象に接触し自身の魔力を流し込み、流し込まれた魔力によって対象の記憶を弄る術だ。理屈は簡単だが、実際にやるのは不可能に近い。何故なら、それほどまでに繊細な魔力制御は困難を極め、人間の魔力の質では、ほぼ不可能と言われているからだ。第一、記憶操作は邪悪な魔法として表向きには禁忌とされている。

 しかし、魔王の力を得た俺になら出来る。人間ならぬ元神である魔王の力を半分貰っているからだ…故に俺の魔力は常人の質とは若干異なる。知識を持っていなかった筈の記憶操作を扱う事が出来るのは、力を流し込まれる際に、使い方も感覚的に流し込まれたからか…どちらにせよ、もう自分が人間では無いと実感してしまうことだ。

 本当に糞みたいな力だが、まぁ、上手く利用させてもらおう。


 しかし、この術を発動させる為には、対象への接触…出来る事なら頭部への接触…が必要不可欠。

 右手にそっと、ディアナに気付かれない様に魔力を溜める。

 いや、別に気付かれても、マインドコントロールすれば問題は無いだろうが。

 一瞬で終わるならそれがいい。

 しかし俺は、ディアナの発した言葉に、その動きを封じられてしまった。

 

「…まぁ、それでいい。

 これは忠告…出来るだけ、ボロは出さないで、お願い…」


 真摯な瞳をこちらに向けるディアナ…

 俺は空いた口が塞がらなかった。なんともアホな顔だったに違いない。

 なんなんだよコイツ…俺の素がバレてるのか?

 まさか、あの時の記憶が残ってるのか? いや、でも、記憶は操作して消した筈…なんで?

 残ってたとしても、こんな俺を案ずるような台詞を言う筈なんて…

 頭が混乱する。どういう状況だコレ?

 いつの間にか、右手の魔力は霧散していた。あーあ、ものなりふり構わず記憶消しときゃ良かった…

 顔に右手を当てたとき…僧侶の仮面が剥がれた、素の表情を自分がしているのに気がついた…

 動揺し過ぎだろバーカ…


 どうする? コイツ、もういっそ殺してしまおうか?

 顔を上げるとソコには、自嘲の笑みを浮かべる俺をずっと見つめているディアナの瞳があった。

 相変わらず感情の籠らない瞳…何考えてんのか解らねぇえ…

 

 何が怖いって、自分が動揺してるのが怖い…怖じ気づいているのが怖い…この女が怖い…

 もう、殺してしまおう…

 そっと両手をディアナの首に押し当てる、しかしディアナは抵抗しない。ずっと、俺を見るだけ…

 魔法とか、メイスでは無く、絞殺を選んだのは、他より自分が犯人として特定されないだろうという打算が働いたが…無意味だろう。俺はここで全て台無しにすることとなる。本当に馬鹿みたいだ。

 ディアナは薄い唇を動かす。


「…ずっと、貴方を見て来た…可哀想…」


 なんなんだ…なんなんだよ、本当!!!!

 お前に俺の何が解るんだよ!!

 俺が手に力を込めようとした瞬間、遠くの方で魔法による爆発音が聞こえた。

 つい、手を離してしまったが、直に意識を戻す。ディアナは床に倒れ込み、咳き込んでいる。


 なんで俺は殺そうとしたんだ? 緊張が解けたからか、冷静になった頭で考える…迷う暇はない。

 咄嗟に右手に魔力を溜め、ディアナの頭部を鷲掴みにした、記憶操作の術を施す為だ。

 ディアナは一瞬驚いた顔をしたが直にいつもの表情に戻り口を閉ざした。

 結局、術が終わるまで動か無いまま意識だけ落ちた…いけ好かない…


 誰かの走って来る音が聞こえる。

 怪我人共も起きたようだ、幸い先程のことを見ている者は居ないようだった。

 走って来たのは、隊長殿…レオナルドだ。

 レオナルドは、倒れたディアナに一瞬驚いた表情を見せたが、俺が『寝ている様です、直に起こしましょう』と言うと納得してくれた。

 そして、報告を開始する。


「クリス殿、敵が攻めて来ました。

 敵はハルピュイア…帝国軍の基地のある南の方角から飛来して来ました。吹雪による視界不良で数は確認出来ませんでしたが…上級と思わしき魔族の姿が確認されています、如何なさいますか?」


 さて、柄では無いが戦わなければならなくなった。

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