説明
突然、知らない人間に押しかけられたことがあるだろうか。そうなった場合、人はどんな行動を取るのか。その答えは『扉を施錠する』が正解であろう。そんなの分かりきっていることだ。今がその状況なんだから!
「開けてくださーい。私も荒っぽいことはしたくありませんので」
そんなことを言われたら、ますます開けるはずがないだろうが! そのことを分かってるんだろうか、この男は。
俺はというと、扉に背を向けて、尻餅をついている。扉の前からはどうしても動けなかった。そんなとき、カチッと鍵が外れる音が聞こえた。慌てて振り返ると確かに扉の鍵は外されていることが確認できた。
次の瞬間には扉のチェーンまで外れていた。どういう原理で外したのかは分からない。ピッキングでもしたのだろうか。それではチェーンが外された原理が説明できない。「これは超常現象?」と首を傾げている間に、再び玄関の扉が開かれる。
「こんばんわ」
その一言で我に返った俺は目の前に立っている男を初めてまともに見る。男は紳士服に身を包み、もう夜だというのに、帽子をかぶっている。その男は頭にかぶっている帽子を取り、優雅に一礼した。そして、帽子を再びかぶり直すと、俺の部屋に入ろうとする。
「ちょっ! お前、何してんだよ。勝手に入ってくんじゃねー」
俺は両手を相手に押しつけるようにして、男の進行を防ぐ。俺が気づいた時には自分自身が部屋から出ていた。そのタイミングを見計らっていたかのように、両手から人の感触が消える。驚きの声をあげる暇もなく、男は俺に話しかけていた。
「これからのことについて説明しますので、早く部屋に入ってください」
ここって、俺の部屋だよな。それよりどうやって目の前から消えたんだ?普段の俺ならこんな不可思議なできごとが起こったときには正気ではいられないだろう。今日の俺はどこかがおかしい。そのことに気づくはずもなく、男の言う通りにする。
「説明の前に靴を脱げ」
「おっと、これは失礼しました」
男はそそくさと靴を脱ぎ始めた。俺は割と几帳面なところがあるらしい。その間に俺はソファーに腰掛ける。
「先程も言いましたが、私は神峰様をお迎えにあがりました。神峰様はこれから金命世界に向かっていただきます」
こいつ、どうして俺の名前を?金命世界って?
そんな疑問が頭の中をぐるぐる回っている間にも男は説明を続ける。
「金命世界とは簡単に説明しますと、命とお金を引き換えることのできる世界です。そこで手に入れたお金はこちらの世界で使うことも可能です。自己紹介が遅れました。私は金命世界でディーラーを務めております櫻井といいます。それでは早速ですが、あちらの世界に行ってもらいます。実際に見た方が速いので」
そういうと男──もとい櫻井は玄関の方を指さす。扉を開けろということなのであろうか。そして俺はドアノブに手をかけ、扉を押す。




