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創造神はじめました  作者: とくたまひなむや
第一章 【石器編】
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神話と創造

 今、僕は木を組んで作られた椅子に座って大勢の獣人達に拝まれている。そう、再び彼ら獣人達の住むこの地へと舞い戻る事が出来たのだった。僕が彼らの為に用意した品々は、残念ながら持って来る事はかなわなかったが、それはこの際目を瞑ろう。


 獣人達は、若い者や年老いた者、更に子供まで様々な年齢が揃っていた。数は30人程、種族に偏りも無く兎とライオンとジャガー、それぞれ同じくらいの数がいるようだ。


 微妙に硬く、イマイチ座り心地の悪い椅子の為、事あるごとにお尻の位置を変えなければならない。頻繁に位置を変えてもお尻が痛い。これは、背もたれは勿論、肘掛まで付けられており、木の枠組みを隠す様に毛皮で覆われた豪華な椅子ではあるが、やはり現代の物とは座り心地は比べるまでもなかった。


 「神様が我らの元へとお戻りになった。今こそ、武器を取りあの憎き「神喰らい」を葬ろうではないか」


 他の生物の毛皮で作ったポンチョを着て、頭蓋骨や木の枝を組み合わせて作られた杖を手にした兎が獣人達に呼びかけた。兎の呼びかけに呼応するかのように、雄たけびを上げる獣人達。彼女らは一体何を言っているのだろうか?


 「ちょっといい?えっと、今から何をするの?神喰らいって?」


 目の前の骸骨の杖を持った兎、ラビ12世に尋ねると彼女は辛そうな、そして強い決意の入り混じった表情を浮かべ、僕のいなくなったこの世界での出来事を、昔話風に語ってくれるのであった。


 かつて神がこの地に降臨され、まず最初にラビ種(とても強調した口調で)をお創りになられた。それからレオ種、ジャー種を創り、それぞれに道具や火をお与えになった。神は博識で、偉大なお方であられ、我らも神を敬い共に過ごしていたという。


 だが、ある日のこと、偉大な我らの神を妬んだ邪悪なトカゲが現れたのだった。獣人は必死にトカゲと戦ったが、一瞬の隙をつかれて神を食べられてしまうのだった。これ以来邪悪なトカゲは神喰らいとして呼ばれるようになっていった。更に神を喰らったトカゲはその偉大な力を我が物とし、数を増やしていったという。


 我々、残された獣人達は集落を守る為、木の柵を作り、住人の数を増やしつつ必死にこの「神の地」を守るのだった。数を増やした神喰らいは幾度となく神の地を襲った、そのつど我ら獣人は戦い、集落を守り抜いてきた。獣人の数が十分に増えた時には、神喰らいを倒す為の遠征隊が組まれることもあったという。


 獣人達の伝承では、神喰らいを倒す事で神はその力を取り戻すと信じられていた。神喰らいを多く倒せば、それだけ早く神が復活される為に、獣人は必死に戦ってきたのだった。次第に神喰らいはその数を減らしていったという。今ではもう殆ど見かけなくなってきた、神喰らい。いよいよ、神の再臨は近い。


 そして、遂に我々の前に神が再び降臨された。神がお戻りになられた今、総力を結集して神喰らいを殲滅し、神の裁きを与えるのだ!


 語り終えたラビ12世は、涙を拭っている。自前の毛皮の上に他の動物の毛皮を着込んだ姿には違和感を感じる。これはおそらく僕が服を着ていたから、それを真似したのだろう。


 ふと、ラビの胸元に汚れた虫眼鏡を見つける。植物の蔓で縛られ、首飾りにしているようだ。なんでも、神から授かった火を操る為の神器だそうだ。


 「さあ、神様。共に向かいましょう。偉大な力を取り戻すために」


 どうやら、彼らには変に誤解された伝承が伝わってきたようだ。物語の途中まではいいとしても、僕は別に食べられてはいないし、何か力を奪われたような事も無い。おそらく事の真相はこうではないだろうか?


 僕と共に現れた恐竜は崖下へと落ちて行った。途方に暮れるラビ達。狩りを続け、繁殖を行い次第に数を増やしていった。たまに、崖を降りて僕を探してくれたかもしれない。そこで恐らく元々、崖下の密林に生息していたであろう恐竜達をみつける。


 僕を食べて数を増やしたと勘違いしたのだろう。じつは最初に見た恐竜は、たまたまここに訪れた一匹に過ぎなかったのではないだろうか。それから、恐竜と戦う事を考えた、もしくは恐竜が度々襲ってきて、戦っていた。


 「ありがとう。良くやってくれた。皆のおかげで僕はこの地に戻ってこれたし、この力は健在だ」


 彼らの伝承を否定するのは簡単だ。だが、僕はそれをしなかった。きっと、ラビの一族は長として獣人をまとめる為にそのような伝承を作ったのではないだろうか。人の上に立ち、皆を導く事は大変な事だ。僕はラビ達に相当な苦労をかけてしまったに違いない。


 あえて僕はこの伝承にのっとる事にする。そうする事で、ラビ達の苦労は報われ、また長としての地位も守る事が出来るだろう。彼らの宗教を壊し混乱を与えるような事は僕もしたくはないのだった。


 「神様」


 「もう十分だ。僕は力も取り戻している。危険を冒して戦う必要はもう無いんだ」


 目に涙を浮かべるラビ12世を抱きしめながら言うのだった。12世まで続いているにも関わらず、今の人口は30人ぽっちだ。よほど激しい戦いを強いられて来たに違いない。もう彼らに血を流させる訳にはいかない。


 「そうだ、三種族だけというのもあれだし更に仲間をふやしてはどうだろうか?僕の力が健在である事を皆に示して、安心させてあげたい」



 こうして集落の広場にて新たな種族を創る事になった僕。全獣人がこの広場に集まっている。衆目に晒されて何かを行うというのは、少し恥ずかしい気がする。


 実は、地球に戻っていろいろ調べた時に、新種族の目星はつけていたのである。候補は今の所、5種族だ。だけど、一気に数を増やすつもりは無い。現種族との親和性や食料の自給率を見ながら少しづつ増やしていきたい。突然現れた種族との摩擦や軋轢で、人口を減らしてしまっては意味が無くなる。


 そして、ここに戻ってきて一番驚いた事は、信仰ポイントと貢献ポイントが増えていたことだった。信仰ポイントは2420、貢献ポイントが110となっている。恐らく、僕を敬いそして戦士が恐竜や動物の命を奪ってきたからだろう。僕はこれを有意義に使いたいと思うのだった。無駄使いは出来ないが、今後の事を考えたら検証目的にも使っていきたいと思う。


 とりあえず今回創ろうと思っているのは、空を飛ぶ種族だ。先ほどのラビの話で、危険が残っている事が分かった。空を飛ぶ種族なら、危険を察知しやすいと僕は考えたのだった。他にも狩りに役に立つだろうし急な斜面の多いこの地では何かと重宝すると考えたのだ。


 有翼人を思い浮かべる僕。一般的な人間を想像しつつ、背中には羽毛で覆われた大きな翼。滑空では無く、大地からそのまま飛び立てる飛行能力。視力が悪かったら飛行を行うのに困るだろうから、高い視力。上空は寒いから全身を羽毛で覆ったほうが良いか。ここで、僕は厄介な事に気がつくのだった。


 彼らを創る為に必要な信仰ポイントが、130ポイントとなっている。レオ達は20ポイントだ、有用であれば少々のポイントは目を瞑ろうとは考えていたが、これは流石に多すぎではないだろうか。


 そこで、要求した能力を削ろうと考える僕。駄目だ、なにが不要なのか全く思いつかない。


 ちなみに、石板を吸収した僕はこれらの作業はすべて頭の中でやっている。考えれば脳裏に必要なポイント等が浮かぶのだ。なかなか便利だと思う。周りで見ている獣人達には、瞑想しているようにしか見えないかもしれない。


 「やはり、まだお力が……」


 ラビ12世が心配そうに呟く。問題無い、これは大変な事なので慎重に作業する必要があると言い聞かせた。


 それから、毛皮の服を着させればいいだろうと思い翼以外の羽毛を取り除くと115ポイントになった。デメリットがあればポイントを減らせるみたいだ。当然といえば当然か。空が飛べて硬い鱗に爪と牙、頭が良くて環境の変化にも強くて……、といった生物と兎の獣人が同じポイントだと不公平だ。もしそうなら、その小学生が考えたような「さいきょうのせいぶつ」とやらで世界は埋め尽くされてしまう。


 それから、視力をもっと悪くしてみる僕。これだと飛行に制限が出てきそうだ。鳥のように目は良いが、夜は見えないとかだとどうだろうか?それなら更に10ポイント減らす事が出来た。逆に夜は見えるが、日中は見えないとかでも、ポイントは変わらないようだ。昼か夜、どちらかが見えないのだと10ポイント減らせる。流石にどっちも見えないという選択は、無しだな。なんの為に創るのか分からない。


 視力の事は置いておこう。飛行に関わる事だ、適者生存と聞いた事がある。飛行能力に関連する能力に制限を得た為に絶滅してしまったら困る。


 次に、困ったな、もう何処をいじればいいのか分からない。いっそ小型化するか、それとも滑空限定の飛行能力にするか。幸いここは高地だし、上昇気流に恵まれているはずだし。


 悩んでも答えが出てこない。なんか少し疲れた、肩が凝った気がする。大袈裟に肩を動かす僕。そこで重大な事に気がついたのだった。肩だ。


 手がある上に翼まであるのが可笑しいのではないだろうか?骨格を考えてみたらすごく不自然ではないだろうか?肩と翼、隣接しているにも関わらず、それぞれ干渉しないように動かさなければ成らない。更に、筋肉をもっと落とすべきではないだろうか。今のところ身体は通常の人間で考えてある。走ったりする為の脚部に強い筋肉は不要ではないだろうか?


 こんな話を聞いたことがあった。空を飛ぶ生物の大きさには限界があるそうだ。羽ばたくには筋肉が必要だ。しかし、筋肉はとても重い。鳥類は鱗と被膜の翼から羽毛へと進化し、軽量化と強さと保温性を兼ね備えた身体を得た。更に骨格をより軽いものへと進化させたらしい。更には食べたものは長く体内に留まらずにすぐに排出される。おそらくこれ以上の軽量化は不可能なくらいだ。


 身体が大きくなるとそれだけ強い羽ばたく力が必要だろう、その為には筋肉の量を増やさないといけない。筋肉の量が増えると、更に重量が増す。昔いたらしい翼竜は滑空飛行限定だったとか聞いたことがあるし。こうして僕は身体の小型化、腕の排除、翼付近以外の筋力を低下させることにするのだった。


 でも手が無くなる事に悩む僕。不便な気がする、手が無いと守るにも戦うにも大変なのではないだろうか?そこである結論に出た、結局のところは鳥だって足と翼しか無いのだ。それでも彼らは不便そうには見えない。大体、腕と別に翼がある生物はいないのではないだろうか?虫を除けば。


 思い切ってそれらを無くしたら大きくポイントを削る事が出来たのだった。60ポイント削る事が出来た。全身の羽毛と腕を無くし、比較的小さくする事で55ポイントで空を飛ぶ種族を創ることが出来る。まだ少し

改良が必要だ。


 全身の筋肉や骨格について調整をおこなう事にする。走り回る事は無いだろうから脚部に過度の筋力は不要だ。骨格も人間と同様のものでなくてもいいだろう。こうして重量を減らせばどうだろうか?


 勿論ポイントに結果は反映されることとなる。でもまだ必要ポイントが多い。やはり飛行種族は難しいか。寿命とかにまで手を出すのは、止めておきたい。種が滅んでしまってはどうしようもない。やはり、視力か。猛禽類のような視力を望んでいるのがいけないのだろうか?でも飛ぶ事の出来ない僕には、視力がどのように飛行に影響するのか分からない。下手にいじれない。


 次に僕は蝙蝠を思い出すのだった。彼らはどうやっていたのだったか?たしか超音波を放ち、反射してくる音波をキャッチしているのだったか。レーダーのような機能で、暗い所でも狭い所でも飛行を可能にしていたはずだ。


 現在の昼夜問わず高い視力を発揮できる状態から、蝙蝠のように超音波に頼った飛行に変え、一般的な猛禽並みの目の性能に変化させる僕。当然、夜間は見えない。こうした調整を繰り返す事で、とうとう30ポイントで飛行種族を創れるようになったのだった。これは生産者の区分でのものであり、戦士や技術者であれば40ポイント必要だ。レオ達よりも基本の状態で10ポイント高いが、ここらで折り合いをつけよう。


 人に似ているが、腕の代わりに羽毛で覆われた翼を持ち、翼部分以外は人間の素肌のようだ。脚部は鳥の足に酷似していて、物を掴んだりは出来るが、素早く走る事は出来ない。簡単に言うと仕上がりは、よくファンタジー物に出てくるハーピーって感じだ。創作物の特徴を流用させて貰い、女しか存在しないという特徴も付けた。これは大きくポイントに反映された。女系の種族で他の種族の男の手を借りないといけないというのは、やはりデメリットのようだ。それと、ファンタジー系の物語に出てきそうだと言っても、勿論魔法なんて使えないし、足には鋭い爪はあるものの、毒とかは持ち合わせていない。


 ここで再び悩みの種が出てきて、僕を苦しめる。幾らなんでもこういった手を加えるような真似をして、良いのだろうか?創りだされた彼女らが苦しんだら、僕は責任がとれるのだろうか?ラビ達のように正当な進化を遂げた生物を参考にしたわけではない、今回の種族。


 もし彼女らが環境に適応出来なかったら、それは完全に僕のせいだ。僕は神だ何だと持て囃されて、いい気になっていたのではないだろうか?挙句、このような実験じみた真似をして新たに生命を誕生させようとしているなんて。


 人口も少なく、ろくな技術を持っていない獣人達にとっては、常に野生動物の脅威に晒されている。肉食の生物もそうだが、小型の雑食動物等もだ。鼠とかでも、作物や備蓄している穀類を食い荒らす事で大きな被害を出すだろう。


 それらに対抗するためには、様々な手段で危険を回避する必要があると僕は考える。兎の耳、他の獣人の目、更に今回の空からの目、新種族はきっと僕らにとって必要な存在だ。


 自分に言い聞かせるようにして、言い訳を考える。自分の行いを正当化しようとしていた。自分は間違っていない、そう思い込もうとしていた。


 でも、やはりどうにも気が進まないのだ。やがて僕は、もうどうすればいいのか分からなくなり、その場に立ち尽くしてしまうのだった。

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