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創造神はじめました  作者: とくたまひなむや
プロローグ 【黎明編】
3/17

狩猟と採集

 攻撃をうけて逃げ出すヤギ達、追いかけようと飛び出す獣人。先ほどの縄が足に絡んだヤギは、最初のうちは他のヤギと同様に軽快に逃げていたが、やがて縄が締まり足の稼働範囲が狭まったのか、動きを制限されてヒョコヒョコと動くようになるのだった。


 足に縄の絡まったヤギに追いついたレオが、右手を振り下ろす。ヤギは頭から地面に倒れこみ、それきり動かなかった。また、首に縄の絡まったヤギは動きが制限されていない為か軽快な動きで逃げていたが、瞬く間にジャーに追いつかれ、組みふされるのだった。あの動きをみる限りジャーには、飛び道具は必要ないかもしれない。流石、豹の獣人だ。


 獣人達の動きについていけず、全力で走っているにも関わらず彼らを見失わないようにするので精一杯の僕。彼らの雄姿を目の当たりにし、安堵すると同時に徐々に視界の端が黒くなっていくのを感じるのだった。


 視界の変化を不審に思い、立ち止まる僕。だが、視界の端から現れた闇は瞬く間に僕の目を覆っていく。僕の事を心配したラビの顔が目の前に見える。しかし、両目を開いているにも関わらず視界の中心にラビの顔の部分しか認識出来なくなっていた僕は、足元の地面を失いバランスを崩すのだった。真っ暗闇の中、僕の身体を柔らかいものが包みこむ。そして僕は眠りに落ちるのだった。


 目の前に、獣人達の顔が浮かんでくる。一様に、不安そうな表情で僕を見ている。当の僕はというと、獲物がどうだったか、また獣人達に置いていかれないように急がなければという考えが浮かび、すぐに立ち上がろうとしていた。


 起き上ろうとする僕の動きを邪魔するようにラビが押さえつけてくる。邪魔しないで、急がないとみんなとはぐれてしまう。……混濁した記憶が次第にハッキリとし、置かれている状況が段々と呑み込めてくる。そうか、また僕は意識を失っていたのか。意識を失った人間は覚醒した時、意識を取り戻す直前の行動を再開するとか聞いた事があるが、本当だった。


 「大丈夫ですか?何か必要なものはありますか?」


 心配そうに声をかけてくれる獣人達。ふとした瞬間に、彼らの背後に青い景色が広がって見えた。遥か彼方に青と蒼の境界線が見える。あれは水平線か、海が近いのかな。


 ジャーの手を借りてゆっくりと起き上ると、目下に霞が見える。更に、霞のある部分は急斜面になっていて、ずっと下まで続いているようだった。遥か遠くに青々とした海が見える。こうして僕は、今いる場所が高所であることを悟るのだった。それも相当な高さのようだ。霞と思っていたものは、雲で間違いないだろう。地に足をつけた状態で雲を見降ろすなんて、すごく貴重な体験だ。


 「お体の具合は」


 「大丈夫。走ったり激しい運動をしなければ、何もないはず」


 僕の一連の身体の不調は、高山病が原因だったのだろう。安静にして、徐々に身体を順応させていけばそのうち動けるようになるだろう。


 「それよりも獲物はどうだった?」


 僕の前に、ヤギ二頭と猪一頭とジャガイモやトウモロコシに似た植物が差し出される。猪は既に息絶えていたが、二頭のヤギは草で編んだ縄で足を縛られた状態で、生きていた。


 「猪が数頭いましたが、捕えられたのは一頭だけでした。そして、猪が食べていた植物を回収しました。おそらく、私達が食べても問題は無いと思います」


 黄色い色合いの強い小ぶりのジャガイモに、太く短いどす黒い赤色をしたトウモロコシ。確証は無いが見た感じそういった植物だった。僕にはどちらも余り美味しそうには見えなかった。折角彼らが手に入れてくれたのに。


 「この地は食物が豊富にあるようです。お体の具合がよろしくないのでしたら、滞在してみてはいかがでしょうか?」


 レオが僕を気遣ってくれる。確かに、身体が慣れるまではそうしたほうが良さそうだ。低地へと降りる事も考えたが、ここは相当に標高の高い場所のようだし、下手に大移動はしないほうが良いだろう。開けた場所で、水の確保が容易な場所が近くにあればそこへの移動を考えたほうが良さそうだ。


 「目の前の斜面を迂回しながら降りられるかな。開けた場所を探そう」


 レオが猪を担ぎ、ジャーがヤギを連れて動き出す。僕はというと、ラビにお姫様だっこされる形で抱きかかえられたのだった。すごく恥ずかしいが、無理をして何度も倒れるわけにはいかないし、我慢しよう。兎の獣人であるラビの毛はとても柔らかく暖かい。まるで毛布のようだ。


 比較的なだらかな斜面を数百メートル程下ったところで、平坦な場所に出た。少し離れた場所に海に面した斜面、反対側には森がある。更にまた100メートル程斜面を下ったところに湖が広がっていた。これは素晴らしい立地条件だ。


 「ここに決めよう。水も豊富にあるし、ここなら雨も降りそうだ」


 「雨が降るのですか?」


 獣人達に理由を説明した。海に面した斜面では雲が出来やすい、実際に下る前に雲を確認出来たし。そして、雲が出来れば雨が降る。雲が出来る理由は断熱膨張とかそんな理由だったはずだ、多分。なんかの授業で習った気がする。うろ覚えだから間違っているかもしれない。


 「海に面した斜面を掘り起こし、乱切りしたジャガイモやトウモロコシを植えよう。ここら一体の食物を食べつくすまでには収穫出来るだろう。雨が期待できるから水やりの手間もいらない」


 即座に僕の指示に従い、行動する獣人達。レオは猪を解体する為に湖へと降りて行くのだった。僕はその間に火を起こそうと考える。ライター等の無い場所で、火を起こすのは容易では無い。でも僕には虫眼鏡があった。幼稚な方法だが、おそらく木をこすり合わせるよりは遥かに楽な方法だろう。幸いまだ日は高く、斜面からは離れている為ここは乾燥している。何としてもやらなければならない。生肉を口にするのは嫌だ。


 手ごろな枯葉や枝をかき集めて細かく砕き、虫眼鏡で集束した光を当てる。小学生の頃を思い出す。あの頃と違い、これは遊びでは無い。強い日差しに耐えつつ必死に光を当て続ける。やがて乾燥した葉から煙が出始め、次に小さな火が顔を覗かせる。ここら一帯が明るい為、小さな火を視認するのは困難だ。小さな火は途中で何度か消えることもあったが、やがて小枝にも飛び火し、次第に勢いを強めていくのだった。


 少々の風では消える心配が無い程の勢いになった火を見て、イモ植えから戻ってきたラビが驚いていた。どうやらジャーはレオを手伝いに行ったらしい。しばらくすると、肉塊を手にしたレオ達が戻ってくる。精肉されたそれは脂肪分がとても多く見えるが、肉屋に並んでいるものと遜色無かった。石器しか無いのに器用なものだ。獣人達が使っている石器について、僕が知っている事を話すことにした。


 これは口で言うよりもやって見せたほうがいいだろう。ラビ達が使っているのは、ただ石と石をぶつけ合わせた簡素な物だった。僕は、石をノミのように使ってより鋭利に仕上げる方法や枝等の上に石を置いて石の端を叩き、剥離させる方法、更には水をつけながらこすり合わせる方法を教える。農耕や磨製石器とこれで彼らは新石器時代相当の知識を得ただろう。心なしか獣人達の僕を見る目が変わった気がする。


 「あとは、土を水と混ぜ合わせた物を火にくべて土器を作ろう。水を運んだり煮沸させたり料理にも使える」


 いつも無駄だと思いながら聞いていた歴史の授業がこんな形で役に立つとは。原始人の暮らしなんかよりも中世の戦争とかに興味を抱いていた僕は、まじめに授業を受けてこなかったことを後悔するのだった。


 どうせならこんな石器時代のような暮らしでは無く、既に高度な文明を持った所だったらよかったのに。


 虫眼鏡を使った火起こしは、日の出ている間しか行うことが出来ない。その為、僕たちはこの火を絶やないように注意を払う必要がある。夜の間に火が消えてしまえば、再び火を起こす為には夜が明けるまで待つしかないからだ。それに、次の日が雨だったり曇っていたら更に長い間待たなくてはいけなくなる。僕は獣人達に枯れ木等の燃えやすそうな物を集めさせ常に薪をくべて火の勢いが弱まることのないように命じた。


 「レオは大きめの石を集めてきてくれ。石を並べて竈を作り風を遮ろう。それから雨をしのげるように工夫しないと」


 ガスコンロが当たり前の時代に生まれた僕にとっては、この先不安しか感じない。これが管理されたキャンプ場なら良かったのに。やってることは同じでも、精神的には大きく異なるものだ。ここで僕は昔読んだサバイバルの本を思い出す。いざやってみると大変だが、住みやすい現代の住居に住んでいたら誰しも一度はキャンプ等に憧れるだろう。当時の僕もそんな理由で本を読んでいたはずだ。


 あれには、たしか住居が大切と書いてあったかな。食料や水が第一だと思っていた当時の僕は、書いてあることに面食らった記憶がある。何でも水は無くても三日程生きられ、食料は無くても一週間は生きられるらしいが、風や雨にさらされ体温が下がると夜すらこせないらしい。もっとも、あの手の本は救助を待つ間生き延びる方法を書いたものであり、いつの間にか移動させられていた未開の地で生存する方法など記されてはいなかった。


 ここで僕はなんとか生き残る為に何か方法は無いかと考えるのだった。幸い僕には忠実な仲間と石板がある。残り10ポイントでなにか創れるかもしれない。そう思った僕は、石板を見て、そこに書かれている事に驚くのだった。


 功績50ポイントと書かれていたのだった。たしか最初はこの項目は0だったはず。どうして増えた?それに、このポイントも何か創ったりする用途に使えるのだろうか?


 『功績ポイントを消費して神通力を発展させます』


 突然僕の頭に響く声。それは女性のようであり、機械で合成された音声のようでもあった。


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