新世界
このたびはご覧頂き誠にありがとうございます。
習作で拙い部分もありますが、精一杯頑張っていきたいと思っています。
サブタイトルは大阪とは関係ありません。
僕、石打シンはある日家の納屋で奇妙な石を見つける。それは他方形の形をした紫色に輝く石であり、当時の僕の目には宝物のように映った。非常に多くの、かつ均等な辺からなるその石は、到底自然に出来たものとは思えない。
何故僕が普段立ち入る事の無い納屋なんかにいたのかと言うと。学期末に行われた試験の成績の不振を親から咎められ、納屋の掃除を命じられた為だった。成績が悪かったのなら、掃除なんかしている場合ではないはずだが。もっとも勉強を命じられて、素直にそれを実行するぐらいなら初めから悪い成績なんてとらないはずだから、親の判断は間違っていないのかもしれない。
罰を与えて改善を図る、僕のような不真面目な人間には有効かもしれない。でも、折角の高校生活、勉強などしてなんになるというのか?異性交遊こそが学生生活の最大の感心事ではないのか?かの石を見つけたのはそんな事を考えている矢先のことだった。
更にその石には中に土や緑色の苔が中に入っているように見える。僕は、その石はなにか人ならざる存在によって作り出された宝物では無いかという答えに至り、その石をポケットへと入れ納屋を後にした。高校生にもなって随分と夢見がちな感じはするが、このような経験は誰しもあるはずだ。僕としては、とりあえず異性の気を惹ける可能性のある物、もしくは金銭的な価値のある物であればどうでもよいのだった。
夕刻、入浴と食事を済ませた僕は珍しくも机に向かっていた。勿論その理由は、宿題や勉強ではなく、今日納屋で見つけた石の研究の為だ。研究といっても普通科高校の一年生である僕に詳しい事等、何一つわかるはずもなくただ虫眼鏡で石の表面を眺めるだけであった。非常に多くの面を持つこの石であるが、それぞれの面の面積はすべて等しく、更に磨き上げられたと思われるその表面は傷一つ存在しなかった。
一通り宝石類についてネットで調べたが、今日僕が見つけた石と類似するものは無かった。この事から僕は極めて貴重な宝石を手に入れたものだと思い込む。そしてこの石にスフィアという名前を付けるのだった。これは見た目が良く、彼女に贈るのにも適しているかもしれない。
僕はスフィアを手の上で転がしつつ、その価値について思いを馳せていた。金額がどうなるかを考えていた時、視線をスフィアへと落とすとある変化に気がつくのだった。その変化とは、スフィアの内部に確認されていた土や苔がいつのまにやら青い色の物体に変わっていたのだった。
僕は驚きのあまり寸前のところでスフィアを落とすところであった。落とさないように両手で包むように保持して事なきを得て、安堵したのもつかのま。再び驚愕することになるのだった。
今度はスフィア内部に青い色の物体とともに再び緑色の苔が現れているのだった。短期間で急激に内部を変化させていくスフィアに僕は興奮し、内部をより詳しく観察しようと覗き込んだその瞬間、一瞬で目の前が真っ暗になった僕はスフィアに吸い込まれるような、またスフィアの内部へと落ちていくような感覚にとらわれるのだった。全身を重い、まるで粘度の高い水に包まれたような感覚が包み込む。暗く、息苦しい中で必死にもがこうとするが、僕の手足は言うことを聞いてくれない。
遠くから風の音と潮の香りが訪れ、僕の耳と鼻を刺激する。だんだんと覚醒に近づくにつれて、背中に温かみを感じ、腹部に圧迫感を感じる。ゆっくりと目を開けると同時に容赦なく飛び込んでくる強い日差し。思わず目を閉じた僕は、自らの前に壁が存在しているかのような感覚を覚えた。そして再び目を開けると、そこには青々とした草が広がっており、自分の前方に感じる壁は、地面であったと理解するのだった。僕は地面へとうつ伏せに倒れていたのだった。
傾斜のきつい地面を覆い尽くすように生えた草、それらは僕のひざ下程の高さがあり、絶えず吹きつけている強い風に大きくその身をたなびかせていた。そして各地に点在する人の背丈程の高さの岩、全体的に白っぽい色をしたそれは遠くから見ると牛か何かと見間違えそうだ。見たところ高原のようでもあるこの場所に、何故このような岩が点在しているのかは、僕には分からなかった。
ふと僕は両手に何か握られていることに気がつく。まず右手に虫眼鏡、これはつい先ほどまで机でスフィアの表面を見る為に使っていたものだ。僕の手のひら程の大きさをもつ分厚い黒ぶちの虫眼鏡だ。たしか、小学生の頃に買ってもらったような。
そして左手に握られていたものはスフィアではなく、まったく見覚えの無い鼠色の石板だった。石板なのか粘土板なのか僕には見分けがつかないが、それは僕が毎朝食べる食パンに似た形をしている。大きさ、形、厚み、どれをとっても食パンと相違ない石板、ただ重さだけは食パンとは違っていて、僕の左手の中でその存在感を示しているのだった。
飾り気の無い石板には、片側だけ何やら記号のような字が書いてある。裏側はすべすべしていて、傷ひとつ付いていなかった。表側の記号は明らかに見たことのない字のはずだが、何故か僕には書いてある事が理解できるのだった。同時にそれが文字であることもなぜか理解出来た。
信仰100ポイント
功績 0ポイント
何だ、これ。意味がわからないし不親切過ぎでしょ。もっと詳しく説明してほしいよ。
信仰100ポイントって何だろう。僕は特に宗教を信じてないけど100もポイントがあっていいのだろうか?それともあれかな、枢機卿とかの偉い人になるとここは数百万ポイントとか書かれているのかな?
急に見知らぬ土地で目を覚ました僕は、途方にくれ空を仰ぐ。日差しが強く暑いけど、吹きつける風が気持ちがいい。空気がやたら乾燥している為か、日本のようにジトっとした感じが無いのがいい。数年前いたアメリカもこんな感じの気候だったかな。
空気もおいしいし、この解放感から駆け出したい気分に駆られるが、僕は思いとどまる。さっきまで部屋にいた僕は当然今、裸足であり、なおかつ地面にはごつごつとした石が大量に落ちていたからだ。
これは困った。落ちている石はガラス質のように見える。黒曜石とかそういった類のもののようだ。これでは裸足で歩きまわるわけにはいかない。まいったな、靴とかあればいいのに。出来れば底のしっかりした、登山靴とかの。
突然七色の光を放つ石板。僕は驚きのあまり石板を落としそうになるが、寸前のところで両手で石板を抱き締めるようにして事なきを得るのだった。危ない所だった。石版の真下には僕の足がある。屋外であるにも関わらず、素足の僕の足が。
やがて光を放つのを止める石板。眩い光が石板に吸い込まれるように消えていったかと思うと同時に、僕の目の前に現れる靴。くるぶしまですっぽりと覆う登山用メーカーが販売している紐靴だ。サイズは24.5、ぴったり僕の足のサイズだった。
靴を履きながら石板の持つ効果に驚く僕。いつの間にか石板の上部に書かれていた100ポイントは消えており、90ポイントに変わっていたのだった。最初の頃から10ポイント失った事になる。
そうか、靴を創造したからポイントが減ったのか。……草履とかだったら1ポイントぐらいしか減らなかったのかな。たとえただで貰った100ポイントでも、減るのは勿体無く感じる貧乏性の僕だった。
とはいえ、これで石板の持つ効果がわかった。これは大きな発見だ。とりあえずこれでポイントがなくなるまでは、何でも手に入るだろう。多分飢え死にすることもないだろう。靴が出せるのだから水や食料が出せないとは思えない。
あとはどうやったらポイントがたまるのかさえ分かれば、生きていけるんじゃないだろうか。まてよ、一体
何の目的で僕はここに連れてこられたのだろうか。それに靴や食料なんかじゃなく、もっとすごいものを創造することも出来るんじゃないだろうか。……すごいもの……、急には思いつかないが。
そんな事を考えながら石板と虫眼鏡を手に歩き始めた僕は、数百メートル程歩いたところで突然激しい頭痛に襲われるのだった。思わずその場で蹲る僕。なんだろう、この倦怠感や胸の苦しみは。いまだかつて味わったことの無い苦しみに襲われた僕は、その場から一歩も動く事が出来ず、体力を振り絞ってすぐそばの岩陰まで這い、絶えず吹きつける風から身を隠すのがやっとだった。
蹲ってからどのくらいの時間が経っただろう、辺りはすっかり暗くなっており更に日中の暑さが嘘だったかのように気温が下がっていた。昼間は暑さから夏だと思っていたが、暗くなると体感温度はとても低く秋の終わりの夜を感じさせる程の寒さだ。今は寝巻姿の為、相当に身体に堪える。体調不良も相まってかひどく疎外感を感じる。このまま死んでしまうのではないかという気分になる。風邪で寝込んでいる時なんか、とても寂しさを感じる事があるが、今そんな感じだ。
防寒着、いやストーブが欲しい。違う、風を遮る為の家か。家だとポイントが勿体無いし持ち運べない、ここはテントとか。こんな状況でポイントなんて考えている場合か。頭痛の為、目が回る。なにか薬とか、駄目だどんな薬が必要かわからない。ああ、もうなんでこんなことになったんだろう。
寒い、つらい、寂しい。ああ暖かい布団に包まれたい、人と喋りたい、一人だと心細い。だんだんと意識の混濁していく僕。そういえば、うちで飼ってたウサギにまだ餌をやってなかったな。ああ、あの柔らかい毛皮に触れたい。やがて僕は深い眠りへと落ちていくのだった。
この小説が生まれる数十年前、作者も生まれました