「――……?」
如月少年は、恐る恐る目を開いた。東郷尊の赤黒い血痕が目立つ、駅のホーム。
特に変化のない、自分の身体。
「なんで……」
自分なんか死んでしまえと、確かに言ったはずなのに。
如月は、丁の言葉を思い出す。
『悪魔と契約すれば、命と引き換えになんでもできるらしい』
「命と、引き換え……」
契約は完了している。おれの命はもう、悪魔に持っていかれているということなのだろうか。
如月は自分の身体を見つめた。生きているようにしか見えないが、もしかしたら自分はもう、『死んでいる』のかもしれない。
死んでいるのに、生きている。――つまり、死ねない。
「――ははっ」
如月は嗤った。――もう二度と、彼女と会うことすら叶わないのだと。
「おれには、彼女に謝る権利すらないんだね」
その時だった。
「人身事故だってよ、うっぜえー!!」
如月の背後から、若い男性の声が聞こえてきた。振り返ると、大学生らしき男性達が、電車の遅延について文句を言っているのが見えた。
「人身『事故』っていってもあれだろ? 自殺だろ? どうせなら、人に迷惑をかけない方法で【死ね】っつうの!」
「高校生くらいの男の子が轢かれたらしいぜ。そいつ、死んだのかな?」
「そりゃお前、これは助からねえだろ。ミンチだぜ? ていうかむしろ【死んでくれ】って感じ。他人にこれだけ迷惑かけてんだからよ」
「――ははっ」
如月は嗤う。自分の愚かさに。
「この世界から【その言葉】がなくなることは、ないんだろうね」
死ぬことも、謝ることもできない。
ならば、自分ができることは、ただ一つ。
「知ってる? 人間はさ、言葉で死ぬんだよ? 安易に口にしてはいけない言葉が、この世界には、確かにある」
如月は小声で呟くと、大学生たちをそっと指差し、
「ゲームをしようよ」
悪魔のような笑顔で、笑った。
「次のプレイヤーは、あんたかな?」




