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 丁:いつか、絶対に会ってくださいね。好きですって直接言いたいから(23:02)


 たつはる:――おれでいいの?(23:03)


 丁:どういう意味ですか?(23:03)


 たつはる:おれは性同一性障害で、身体は女なんだよ(23:03)


 丁:それで?(23:03)


 たつはる:それでって……(23:04)


 丁:外見は関係ないって言ってくれたのは、たつはるさんの方ですよ(23:04)


 たつはる:それは……(23:05)


 丁:僕は、あなたの外見なんてどうでもいいんです(23:05)


 たつはる:それは、おれもだよ(23:05)


 丁:だったら、それでいいじゃないですか(23:06)





 お互いの連絡先を教え、ブログを読んではメッセージを交換しあう仲になった。丁だけではなく、如月もまた、学校では『浮いた』存在だった。


 互いの境遇に、文章に、同調しただけかもしれない。

 傷をなめ合うだけの存在と言われてもよかった。

 彼女がそこにいてくれるだけで、よかった。


 何度か実際に会って、話をした。

 二人で泣き、二人で笑った。

 それだけで、よかったのに。



 ――だが、その日は訪れた。

 十月十五日。



 丁の最新記事を見て、如月は彼女を失うかもしれないという恐怖におののいた。丁の携帯に電話するものの、繋がった先は留守番電話。如月はそこに簡単なメッセージを残し、ブログのコメント欄にも『連絡をください』と書き残した。


 丁から電話がかかってきたのは、それから数分後だった。


「丁、なにが――」

『……たつはる君、ごめんね』


 ごうごうと唸る風の音が邪魔で、丁の声が聞こえづらい。彼女は外にいるのだと、如月は悟った。

 丁は、今にも泣き出しそうな震える声で、如月に話しかけた。


『たつはる君。――悪魔との契約、って知ってる?』

「なにそれ」

『悪魔と契約すれば、命と引き換えになんでもできるらしい』


 丁の話に、如月は首をかしげた。確か、ブログにもそんなことを書いてあったはずだ。


「なんだ、ただの都市伝説?」

『分からない。でも僕は、これに賭けたい』

「どういうこと?」

『僕は悪魔と契約して、あいつらに復讐する。止めても無駄だからね。絶対に、絶対に復讐してやる。僕は、【僕を殺した言葉】で、あいつらを殺すんだ。絶対にあいつらを許さない。僕は今から、死ぬ。死んで、あいつらに復讐する』

「待って! 落ち着いてよ」



『【お前なんか、死んじまえ】』



 丁の言葉に、如月は絶句した。丁は自嘲気味に笑い、ため息をついた。


『同級生にも、そう言われた。僕には生きる価値がないよ。君の側にいる資格も、ない』

「何言ってんだよ。要らないよ、そんな――」

『――じゃあね。今までありがとう。最後に君と話せて、本当によかった』



 通話終了とともに、彼女は、空を飛んだ。





「……東郷尊。お前が、彼女を殺した。そしておれは、彼女を救えなかった」


 如月は顔をあげ、尊の顔を覗き込んだ。尊も、かれの瞳の中に映っている如月じぶんも、酷く間抜けな顔をしていた。如月は笑う。


「彼女を失い、おれは彼女を殺した人間を探した。……やっと見つけ出した時、おれは自分の目を疑ったよ。――なんで東郷尊あいつは、笑ってるんだろうって」

「…………」

「それだけじゃない。お前には、自分が殺したんだという自覚がなかった。自覚どころか、彼女の存在すら忘れていた。――いじめてたやつが死んでも、なんとも思わなかったんだろうな。そうだよなあ、お前にとっていじめは、ゲームだったんだもんな」

「それは――!」


「悪魔と契約すれば、命と引き換えになんでもできる」


 突拍子のないセリフに、尊はぽかんと口をあけた。如月は笑う。



 ――……彼女は、悪魔と契約なんてできなかったんだろう。


『君の側にいる資格も、ない』


 最後まで優しかった、彼女は。



「――おれはお前に復讐するために、悪魔と契約した。そして、おまえのための世界ゲームを創りあげた。……ルールは簡単だよ。お前がやっていたことをそのまま、その世界に組み込んだだけだ」



 安易な言葉で、人が死ぬ世界。

 自分の言葉で人が死んでも、なんとも思わない世界。

 ――人の死を、なんとも思わない世界。



 如月は、薄暗くなり始めた空に浮かび上がっている月を眺めた。今にも消えて無くなりそうなくらい、細い月を。


「――その世界で、お前が彼女のことを思い出せるかどうか、思い出した時にどうするかを、見守ることにした。そこでの行動次第で、お前の『処分』を決めようと。……そしておれはあの世界で、」


 如月は右手で、口元を押さえた。単なる癖だと思っていた、それは



「あんたにヒントを与えるために、……わざとあんたに近づいたんだ」



 笑っている口元を隠すための行動だったのだと、尊はようやく気付いた。




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