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 全力でパソコン室まで走りたい気持ちとは裏腹に、足が思うように動かない。尊はのろのろと階段を昇ると、歩くとすら言えないようなスピードで、パソコン室に向かった。


 希望は、なかった。彼女はその【言葉】を使ってしまったのだ。秀と同様、きっと彼女ももう……。


 尊は覚悟を決め、パソコン室の扉を開いた。

 しかしそこに、如月の姿はなかった。如月の身体の一部も、落ちてはいなかった。

 如月の座っていた席に、尊は腰かける。一見、いつもと変わらぬ教室。だが、パソコンの画面に血飛沫が少量飛んでいるのを見て、尊は全てを悟った。


『わたしはこの世界で、【死にます】』


 最後に聞いた彼女の声が、頭の中で再生される。


「如月……!」


 尊は唇を噛んだ。如月が丁を救えなかったように、尊もまた如月を救えなかったのだ。


「ちくしょう……」


 下を向き、自身に吐き捨てた言葉は、酷く小さかった。尊は机に突っ伏し、声が枯れるまで彼女の名前を、叫んだ。




 どのくらいの時間が経っただろう。立ち止まってる場合ではないと、尊は拳を握った。

 麻衣を、そしてひのとを探さないと。――そうだ、丁を見つけ出せれば、この狂った世界も終わらせることが出来るかもしれない。尊は涙を拭って顔をあげ、――パソコンの画面に表示されているブログに気がついた。


 それは、如月と別れる前に見ていた丁のブログだった。


 あの時は更新されていなかったはずの十月十五日分の日記が、更新されている。更新時間を見てみると、如月が尊に電話をしてきたちょうど十分ほど前だった。


「如月の奴、これを見て……?」


 尊はガラガラの声で呟き、『十月十五日 終わりの日』と書かれた記事タイトルをクリックした。タイトルの下に、本文とコメントが映し出される。それを黙読した尊は、パソコン室を飛び出した。

 目指す先は、


「――……屋上だ」


 屋上の扉は、いつもなら鍵がかかっているはずだが、恐らく今は開いているだろう。

 きっとそこに、丁がいるから。





「……急げよ?」


 尊の様子を見ていた少年は、頬杖をついて微笑む。


「これが、ラストチャンスだからさ」






 十月十五日 終わりの日



 僕は今日、死のうと思います。

 僕は今日、消えようと思います。

 これで少しは、あいつらの気が晴れるでしょうか。



 けれど僕は、死んでもずっとあいつらのことを怨み続けます。



 僕は、学校でいじめられていました。

 僕をいじめることは、あいつらにとってはただの『ゲーム』のようでした。

 死んだら、負けだということは分かっています。

 リセットボタンがないことも、わかっています。

 だけどもう、耐えられません。


 大人は耐えろというかもしれません。

 中学を卒業したら大丈夫っていうかもしれません。

 でも、僕はそんな風には思えません。

 僕は愚鈍ぐどんな人間です。

 きっとどこに行っても、いじめられると思います。


 だったらもう、今すぐ死にたいんです。

 今が辛くて、先のことなんか分からなくて、だったらもう死んだ方が楽です。



 僕は、小説家を目指していました。

 いろんな話を書きました。

 下手くそだけど、頑張ったつもりです。

 

 言葉というのは、不思議な力を持っています。

 人を励ますことが、できます。

 実際に僕は、このブログを通して、色んな人に励ましてもらいました。



 けれど言葉は、人を殺すことも、できます。



 僕は、言葉に殺されます。

 僕は、言葉に殺されるのです。


 

 僕は、死んでもあいつらのことを許しません。

 悪魔と契約してでも、あいつらに復讐します。

 悪魔に命を売ってでも、絶対に復讐します。

 絶対に、あいつらを許しません。

 僕と同様に、死んで償え。




 今までこのブログを読んでくださり、本当にありがとうございました。

 このブログは、これでおしまいです。

 僕も、ここでおしまいです。



 最後くらい、鳥みたいに飛べないかなあ。

 高いところから飛んだら、少しだけでも飛べないかな。

 両手を広げたら、一瞬でも飛んだような気分になれないかな。


 


 P.S


 愛してくれたのに、先に死んじゃってごめんね。

 僕は、あなただけは、大好きでした。


 さよなら。





 コメント(1件)


 丁さん、心配してます。

 頼むから連絡ください。待ってます。

 肝心な時に力になれなくて本当にごめん。

 だけど、励まされたのは、こっちも一緒なんだよ。

 あなたがいない世界なんて、考えられない。

 何時でもいいから、連絡をください。


 今は、生きていてくれるだけでいいから。

 どうか、死なないでください。



 たつはる




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