Pause
その言葉で人は死にます
そんな言葉で人は死にます
誰でも口にできる言葉
誰でも口にできる呪文
死ね 死ね 死ね
さあ始めましょう ここは楽しいゲームの世界
あなたの言葉で 誰かが死にます
『――悪魔との契約、って知ってる?』
「なにそれ」
『悪魔と契約すれば、命と引き換えになんでもできるらしい』
「なんだ、ただの都市伝説?」
『分からない。でも僕は、これに賭けたい』
「どういうこと?」
『僕は悪魔と契約して、あいつらに復讐する。止めても無駄だからね。絶対に、絶対に復讐してやる。僕は、【僕を殺した言葉】で、あいつらを殺すんだ。絶対にあいつらを許さない。僕は今から、死ぬ。死んで、あいつらに復讐する』
「待って! 落ち着いてよ」
『――じゃあね。今までありがとう。最後に君と話せて、本当によかった』
「……満足、の意味が理解できない」
少年は携帯電話を閉じると、目を伏せた。
「言葉で人が死ぬ、望み通りの世界。望み通りの展開。……このあともきっと、おれの望み通りに世界は回るだろう。だってここは、おれの作った世界だからね。――悪魔と契約して作った、望み通りの世界だから」
少年はあえて、携帯電話を床に落とした。カシャンと音を立て、薄い機械は床の上を踊る。少年はその様子を、冷めた目で見つめていた。
「――なのにどうして、満足できないんだろう」
本当は、分かっていた。結局これは、自己満足でしかない。
自分と同じ思いをさせても。
『あの子』と同じ思いをさせても。
時間が巻き戻せるわけではない。
その事実が消えるわけではない。
あの時間を取り戻せるわけでもない。
少年は思い出す。自分にとって大切だった、その日々を。
親にさえ見捨てられた自分のことを認めてくれた、唯一の人間を。
「それでも、あなたはあなただよ」
忘れるはずがない。忘れられるはずがない。
そう思っていた、のに。
なのにどうして、笑ってるんだ?
なのにどうして、忘れているんだ?
どうしてあいつは、その存在を忘れているんだ?
どうしてあいつは、その事実を忘れているんだ?
「……世界を創ろう。お前のための、世界を」
悪魔と契約した少年は、そう言って笑った。中身のない、空っぽな笑顔で。
「その世界に、法則を創ろう。簡単な法則だ。――『お前の頭の中と同じ世界』を、作り出してやる」
少年は地に手をかざし、世界を創造し始めた。
法則その一【人間の言葉で、人間が死ぬ】
法則そのニ【その世界の住人は、自分の言葉で他人が死んでも、関心を持たない】
法則その三【その世界の住人は、死そのものに関心がない】
「――……法則その四」
少年は笑う。歪みのない、悪意に満ちた笑顔で。
【お前はその世界で、なにもかもを、失う】
せいぜい足掻け。そして後悔すればいい。
己の無力さを。
己の無能さを。
己の愚かさを。
全てを失い、後悔すればいい。
「――全てを失った時」
少年は、世界を見下ろす。自分の創造した、望み通りの世界で。
「その時、お前はどうするのかな?」
その時、お前がどうするのか。それで、全てを決めてやる。
お前を生かすか、それとも殺すのか。




