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『僕が死んでも誰も気付かないんだろうな

 僕が死んでも誰も泣いてくれないんだろうな


 寂しい

 けれど人が怖い


 寂しい

 けれどこの世界で生きるのは怖い


 死にたい

 なのに死ぬことも怖い

 

 僕は弱虫だ』




「どこだ!? どこでこれを読んだ!?」


 尊の叫び声に、司書が顔をあげた。


「すみません。静かにしますから」


 そう言ったのは、如月だった。司書は納得したのか、無言のまま、本にバーコードを貼る作業に戻った。

 如月はため息をつくと、ノートに目を落とした。


「……たしか、ブログだったと思います」

「ブログ?」

「わたしと同い年の子が、ブログに自作の小説や詩をアップしてて、――――」


 如月は思い出したように、目を見開いた。


「そうです。確かあれは二年くらい前でした。その時わたしは中三で、受験生で……。その子のブログをいつも見てたんです。その子は日記も書いていて。学校でいじめられてるんだって、書いてました」

「――そのブログ、今は?」


 尊の質問に、如月は俯いた。


「……ある日突然、閉鎖されました。――もう死ぬから、ブログもやめるって」


 如月は絶句した。尊はノートに目をやったまま、腕を組む。


「――今の話をまとめると。俺のクラスでいじめにあってたやつが、自分のブログに小説や詩をアップしていた。このノートに書いてある文章は、それの一部だってことか?」

「……多分」

「そしてそのブログは閉鎖された。……そいつは自殺した?」

「――恐らく、としか」

「そのブログが閉鎖された時期は?」


 尊が尋ねると、如月は首を振った。


「詳しい時期までは覚えてません。けど、」

「けど?」

「秋、だったような……」


『そいつ』が死んだのが、秋。

 尊は黒板に書かれていた日付を思い出す。今日は二年前の、


「十月十五日……」


 同じことを考えていたのだろう。如月の顔から血の気が引いていた。


「――まさか今日が、そいつの命日……?」

「…………」


 如月は何も言わない。しかし、もしも如月が読んでいたというブログと今回の事件が関係しているのだとすれば、如月がこの世界に『呼ばれた』理由が、はっきりとした。

 如月は、そのブログで『奴』と繋がっていたのだ。

 尊は腕を組んで考える。このあと、どうするべきかを。


「――如月。そのブログの名前とか覚えてるか?」

「……自信はないですけど、多分アクセスできると思います」


 尊は携帯を開いた。電池の残量は、あまりない。携帯からブログをさがすのは、やめておいた方が良さそうだ。

 尊は携帯を閉じると、ため息をついた。


「パソコンルームに行こう。多分、この時間は授業をやってないはずだから。で、そのブログにアクセスしてみよう。もしかしたら手掛かりがあるかもしれない」

「……ブログを読んで、どうする気なんですか?」

「そいつの自殺を止める」


 尊はノートを手に取り、如月の方を見た。自分よりも数倍頭の良さそうな如月だが、この時ばかりは首をかしげていた。


「多分、としか言いようがないんだけど」


 尊はノートをぱらぱらとめくりながら、呟く。


「この世界の『そいつ』は、まだ死んでないんだと思う。死んでたら、もうちょっと騒ぎになってるはずだからな。……だから、そいつの自殺を止めれば」

「元の世界に、戻れる――?」

「そういうこと」


 尊は如月に向かって薄くほほ笑み、――彼女の後ろにあったアルバムに気がついた。そこには卒業アルバムがずらりと並んでおり、


「――あれ?」


 自分たちの卒業アルバムも、その中に混ざっていた。


「如月、どけ!」


 おかしい。二年前のこの世界ではまだ、自分たちの卒業アルバムは出来上がっていないはずだ。なのに。

 いきなり肩を押された如月は、後方にたたらを踏んだ。尊は「すまん」と謝りつつ、自分たちの卒業アルバムを手に取る。――もしかしたら。


「そいつの写真も、このなかにあるかもしれない――!」


 分厚い紙を急いでめくり、三年一組のページに辿り着いた尊の手が止まった。


「……?」


 如月は尊の後ろからアルバムを覗きこみ、気味悪そうに後ずさった。


「――……こいつが」


 尊はアルバムに目を落としたまま、吐き捨てる。


「こいつが、俺達をこの世界に連れてきたんだ」


 三年一組の集合写真、個人写真。それらの一部だけが、マジックで真っ黒に塗りつぶされていた。顔も名前も分からないよう、ぐちゃぐちゃに。





「――ようやく、少し思い出してくれたみたいだね」


 少年は笑う。誰にも聞こえないよう、小さな声で。


「さあ、急いでよ」


 少年は笑う。誰にも聞こえない、楽しそうな声で。




「早くしなきゃ、みーんな、いなくなっちゃうよ?」




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