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青赤の絶望、そして…………

アタシは荷物をまとめて玄関まで行った、多分何年もこの家には戻って来ない、もしかしたらこの家に戻って来る事もないかもしれない。

昨日目が腫れるまで泣いた、だからもう泣かなくて済む、もう何も悲しくはない、カイに会えなくなる悲しみに比べれば悲しい事なんてなくなる。




兄貴の車で空港まで向かう、アメリカに行く不安もアメリカで暮らす不安も何もない、本当に色んな意味でカイの存在は大きい、悔しいけどやっぱりアタシにはカイしかいない事を実感した。


いつもの兄貴のくわえ煙草の運転、これも暫くは見れなくなる、兄貴のこの独特なタバコの匂いもなくなるんだ。


「たまにはメールをよこせ」

「今度はアタシが英語を教えてやるよ」

「馬鹿、お前に教わるような事は何一つない」

「じゃあアメリカの女の子を紹介してやるよ」

「……………女も間に合ってる」


兄貴は今までは見せなかった表情をする、これはミドリちゃんと出会ってから見せるようになった。

そう一人になるのはアタシだけ、カイにはアオミさんやツバサがいる、兄貴にもミドリちゃんがいる。

でも、それがアタシの選んだ道だから後悔はしない、後悔したらカイに失礼だから。


















クソ、何で、何で俺は何も出来ない、何よりも大切なモノ一つですら繋ぎ止めておけない、俺のこの両腕がこんなちっぽけなものだとは思ってなかった。


何もかもを無くした俺の周りは痛いくらいに明るくしてる、気を遣われてるのが分かる、でも、今の俺には何もかもが煩わしい、もう何もいらない、チカがいない世界全てが憎い。


俺は食事が終り自分の部屋に帰ろうとしたその時だった、家のインターホンが鳴る、アオミが出たのを横目で確認して目を部屋に移した。


「カイ君!ちょっと待って!」


俺は睨むように声の主を見た、玄関の所には乗り出すように俺を見るハヤさんがいる。

ハヤさんは必死な表情で俺を見る、でも俺は無視して部屋に入ろうとした。


「チカ嬢とこのまま終わっても良いの!?」


今度は本気で睨む、そんなのもう俺の手に負えるような事じゃない、もうどうにもならないんだ、変な希望を持たせるな。


「おい!何とか言えよ!?いつものカイ君なら死にもの狂でチカ嬢を取り戻そうとしただろ!」

「勝手にやれよ」


俺は部屋に入り扉を閉めた、しかしハヤさんの手が挟まって閉まらない、そしてあり得ないような力で無理矢理開かれ、ハヤさんの見たこともないような怒りの表情で俺の胸ぐらを掴む。


「どうした!?一回フラレたらそれで終りか!?何でチカ嬢を取り戻そうとしない!」


俺は胸ぐらを掴み返して見上げるように睨む、何でコイツにそんな事を言われなきゃいけない?俺の事だろ、ムカつくんだよ。


「あんたに何が分かる」

「何も分からねぇよ!でもカイ君がただビビってるようにしか見えないんだよね、取り戻したくないのかよ!?」

「………………取り戻してぇよ」


当たり前だろ、チカがいなくなって良いわけがない、俺にはチカしかいないんだ。


「じゃあなんで取り戻そうとしないの?」

「怖いんだよ、本当に、チカがいなくなりそうで…………」


ハヤさんはいつもの笑顔で俺の手を掴んで振り返った、歩き出そうとする、俺は意味も分からず立ち止まってしまった。


「何をするんですか?」

「最後のチャンスだよ、チカ嬢は今空港に向かってる」

「連れ戻せと?」

「どうする?」


ハヤさんは笑顔で俺の手を離した、自分で決めろらしい。

俺は一瞬戸惑ったけど選択肢は一つしかない、ハヤさんの隣を通り過ぎて靴をはく。


「お願いします」

「ほら来た」

「私も行かして」

「それはダメだよ、今は急いでる、だから大事なアオミを乗せるには危なすぎるから」


そんな危ないのかよ、まぁ今は一秒でも無駄にしたくない、それくらいじゃなきゃ困る。


「じゃあ行くよ、カイ君」

「はい」






















とうとう空港に着いた、誰にも知らせてないから誰も来てない…………、って思ったけどツバサが一人でいた。


「何でツバサが?」

「僕の情報力をナメちゃいけないよ!」


胸を張ってVサインを出すツバサ、誰か来ると泣いちゃうから誰も呼ばなかったのに。

アタシはツバサがいるからカイもいると思って見回した、でもやっぱりツバサだけしかいない、そして、ほんの少し期待したアタシに嫌気が射した。


「お兄ちゃんは知らないよ」


やっぱり分かっちゃったんだ、まぁツバサはアタシの一番近くにいた友達だからな、色々分かっちゃうんだ。


「お兄ちゃんは呼んでない、うぅん、呼べなかったんだ」

「呼べなかった?」

「うん、お兄ちゃん僕ともお姉ちゃんとも話てくれないんだ、それに、なんか凄い怖いから話しかけたら怒られちゃいそう、だから言えなかった」


やっぱりカイは荒れてるんだ、アタシのせいでカイをめちゃくちゃにしちゃったんだ、ゴメンねカイ、アタシの身勝手で。


「ツバサありがとうね、……………やっぱり寂しい」


アタシはツバサに抱きついて泣いてた、ツバサは優しい声でアタシを慰めてくれる、自分の兄に別れを告げた女ですら優しく接してくれるツバサ、ありがとう。


「チカ、もう時間だ」

「うん」

「チカチカ、頑張ってきてね、僕も頑張るから」

「ありがとう」


アタシはもう一度だけ振り返って遠くを見た、カイが、もしかしたらカイがいると思って。






















あり得ないくらい飛ばすハヤさん、初めて人の車に乗って怖いと思った、ってか生命の危険すら感じる。

初めて見るハヤさんの真面目な顔、何で俺何かにココまでしてくれるんだろ、アオミのタメか?でもハヤさんがそんな回りくどい事をするとは思えない、ハヤさんが俺のタメにそこまでするとは到底思えない。


「何で俺なんかのタメに?」

「別にカイ君のタメにやってるわけじゃないんだけどね」

「じゃあアオミのタメに?」

「そっかぁ!カイ君が元気になればアオミも喜んでくれるね、一石二鳥だよ」


俺の事なんてこれっぽっちも考えてないのか、まぁハヤさんが野郎の事を考えてるとは思えないけどね。




そしてやっと空港が見えた、今になって緊張しだした、でも緊張とは裏腹に俺の手はドアに手をかけている、早くチカに会いたくてうずうずしてる。

飛行機を見る度に怖くなり、不安になる、もしその飛行機にチカが乗っていたら、と。


俺はタイヤが悲鳴を上げ、車が止まる前に車から飛び下りた、転びそうになりながらも開くのが遅い自動ドアを無理矢理開けて空港に入る。

人を掻き分けてゲートの方まで走る、必死に、今は何も考えられない、チカを引き止め、一秒でも長くチカに会いたい、チカだけは絶対に失いたくない、だから今は走るしか無かった。

こんな時に色んな思い出が走馬灯のように蘇る、初めて会った時、初めてキスした時、チカが溺れた時、ストーカーに付けられたこの頬の傷、チカを助けて入院した事、その後の初体験。

チカの泣いた顔、笑った顔、怒った顔、悲しい顔、喜んだ顔、全てが俺にとって宝物で今の俺を作ってる素、チカは俺の全てだ、だから離れるなんて考えられない。































カイ、さようなら、アタシ達はもう会えないのかな?アタシはカイなしでコレから大丈夫なのかな?

怖い、やっぱり怖い、また泣き出すアタシをもう誰も慰めようとはしない、兄貴は辛そうにうつ向いたまま、ツバサも笑ったままアタシを見てる。


「チカぁ!」































俺は目的のゲートを見付けて出来る限り走った、まず見えたのはコウさんだった、コウさんは見たことないくらい寂しそうな顔をしてる、そして次にいたのはツバサ、俺に黙って来てたんだな。


「お兄ちゃん!?」


皆が俺を見る。


「何しに来た?もうチカは行った」


そう、もうそこにチカはいない、いるのはコウさんとツバサ、そしてユキとマミ姉だけだった。

























そこにいたのはユキとマミ姉だった、二人とも息を切らしてアタシに笑顔を振り撒く、でもアタシは泣いてるだけで何も出来ない。


「チカぁ、カイと別れちゃったったんだろぉ?」

「うん」

「大丈夫なの、チカちゃんは?」

「うん」


アタシは皆に背を向けた、これ以上は悲しみが増える一方だから。

























俺は何も聞かずにせめても、と思って見送り所に向かって走った、もう何も変わらない、俺には何も変えられないって分かってても体が勝手に動いていた。

後ろから俺を呼ぶ声が聞こえたような気がした、でも俺はもう苦しくて、悲しくて、いつの間に泣いていて、俺が俺じゃ無くなるようだった。



見送り所には沢山の人がいる、俺は構わず涙を拭いて金網にしがみついた、周りの人は俺を変なモノを見るような目で見ている、でも俺は構わずチカが乗った飛行機を見つめた。

























飛行機に乗っても全く泣き止まない、周りの人はアタシの事に構う事なく自分達の世界に入っている。

アタシの事に気付いてくれたのは隣の人だけ、うっとうしそうに本を読んでいる。



飛行機が動き出す頃には涙が流れなくなってた、方向を大きく変えて空港、そして見送り所が見えた時アタシは自分の視力の良さを後悔した。

そこには金網にしがみついてるカイがいる、表情は分からないけど凄い悲しそうに見える。


「ごめんね、カイ」



























クソ、何で、何でチカと別れなきゃいけない。

俺が膝をついて泣いているとまた誰かが入って来た、そいつは俺の近くに来ると俺の頭に手を乗せる、違う、そのまま髪を掴んで上に向けた、そこにはコウさんがいる。


「貴様、最後に、チカからの置き土産だ」


コウさんは俺の前に手紙を差し出した、コレが最後にチカが残した物、俺はゆっくり、丁寧に開き、チカの字が詰まった紙を取り出した。








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