青と結婚式
チカの奴なんで俺に会わない?何で俺をそんなに避ける?
避けるって言っても感覚的な問題で、コガネとかは全く気付いてないけど、俺にはチカが俺を避けてるのが分かる。
会っても勉強があると言って長い間会えない、勉強を教えるって言ってもコウさんがいるからいらない。
でも普通なら受験はもう終わってるはず、この時期までっての珍しくないけど、やっぱり何かが引っ掛かる。
今はツバサと買い物に来てる、ツバサやアオミはチカが会ってくれない事を知ってる、だからツバサは暇な時に俺の暇つぶしに付き合ってくれる、アオミはハヤさんと付き合い始めてから人が変わったように俺達から離れて行った、それは俺とツバサにとって喜ばしい事だから良いんだけど、孤独を知った俺には辛い。
「…………お兄ちゃん聞いてる?」
「ん?あぁ、悪い、聞いてなかった」
「やっぱり、またチカチカの事考えてたんでしょ?」
ツバサはおどけて顔を膨らます、俺はツバサの頭に軽く手を乗せて先に行く、ツバサはその手を掴んで着いてきた。
「だからぁ、お仕事の人達にお兄ちゃん見せたいからプリクラ撮ろうよ」
「まぁ良いか」
「やったぁ!」
ツバサは俺の手を引っ張って走り出した、俺は自分でも分かるくらい心ココにあらず、全く今の状況を楽しめない、何をしててもチカの事を考えてる。
アタシの選択は本当に正解だったのかな?もうすぐ卒業でカイとも別々の道を歩む、だからこそ選んだ道だけど、ただ自分のプライドを守るタメの道かもしれない。
兄貴は最近家にいない、アタシも驚いたけど兄貴がミドリちゃんに告白したらしい、そんな素振り見せなかったのに、むしろミドリちゃんの事を嫌ってると思ったのに、凄い以外だった。
「チカ、今日も夕飯は勝手作って食ってくれ」
「またミドリちゃん?」
「あぁ、だから四色に作ってもらうのもありだな」
カイにか………、前までならカイを頼ってたかもしれないけど、今はカイに頼ってちゃいけない、アタシはもうカイに迷惑はかけられないんだ。
「いいよ、試験の日が近いもん」
「そうだったな、英語なら教えるけど、どうする?」
「もう発音とかは大丈夫、あとは勉強だけだから」
「そうか、でも本当にそれで良いのか?お前はそれに耐えられるのか?」
「頑張るよ、もっと強くならなきゃ」
カイに会いたい、今すぐ抱き締めてほしい、でも、今カイに甘えたらアタシの決意が揺らいじゃう、やっと、やっと決心出来たのに。
家でツバサと撮ったプリクラを見てため息が出る、何で俺はここまで無愛想なんだろう?まるでチカに会う前の俺みたいだ。
料理本を見ながら時間を潰してた時、アオミが帰って来た音がした。
アオミはリビングに来ると、手に持った郵便物の山を必要なのと不必要なのに別けた。
「珍しい、カイに手紙が来てるわよ」
「俺に?」
アオミに手渡された手紙、見慣れないような封筒に入った手紙、俺がそれを開こうとした時。
「あら、もう一通ある、同じのかな?」
「本当だ、同じだな、複数口って事は同窓会かなんかか?」
俺はとりあえず開けてみた、そこに書いてあるのに俺は驚愕した
《結婚披露宴の招待状》
「はぁ!?」
俺の叫び声にアオミは手紙を覗き込み、ツバサは部屋から出てきた。
「結婚式!?カイ、誰の結婚式?」
誰だ?コウさんか?でもまだ早すぎる、ユキか?あいつらはあるとしたら海外だろうな、じゃあ誰だ?誰が結婚なんか。
《この度、井上譲と村島紗英は結婚する事になりましたので―――》
「井上とサエが!?」
俺は更に大きな声で叫んでた、井上は俺の幼馴染み、そして、サエは俺が島にいた時の友達。
俺は気付いたら走って玄関に向かってた、外に出ようと靴を履いた時、俺の意思とは関係なくドアが開いた。
「カイ!」
そこにいたのはチカ、俺が今から会いに行こうとしてた奴だ、チカの手には俺と同じ手紙が握られてる。
「俺も今チカの所に行こうと思ってた」
「なぁ、サエが結婚なんて冗談だよな?」
「いや、新郎が俺の幼馴染みってところから見るとマジだろう」
「新郎がカイの幼馴染み!?世界って狭いなぁ」
頭の整理が出来ない、確かに二人に付き合ってる相手がいるのは知ってた、今気付いたのは二人が同じ高校という事。
意外すぎだ、まさかあの二人が繋がっていたなんて、そして、チカとこうやって何事もなかったかのように話てる事が。
サエの結婚式、それはアタシが想像してるよりも結婚式らしかった、高校生だから雰囲気で終わると思ったのに、ちゃんとした教会での結婚式。
サエの高校の友達は本当に少ないのに対して、島の友達は全員来てる。
そしてカイは新郎側に座るか新婦側に座るか悩んでた、招待状が両方から来たせいでカイが選ばなきゃいけない。
カイは式は新郎側で披露宴は新婦側に座るというカイらしい、なんともせこいやり方でそれを解消した。
他人の結婚式って案外つまんないんだな、でもこれからはビッグイベントだ。
「デハ、誓いのキスヲ」
外国人神父さんがその言葉を発した途端に会場がざわめいた、高校生だからなんとなく大人のとは違うんだろうな。
新郎がサエのベールを取ると、サエは顔を真っ赤にしてる、そしてゆっくりとキスをした。
高校生ばかりの式場は異様な活気に包まれる、サエ達も顔を真っ赤にして周りをみないようにしてる。
式が終わって披露宴、みんな2人の周りに集まって騒いでる、アタシ達は中学校時代のメンツでサエの思い出話に花を咲かせてた。
「まさかあのサエが結婚するとは思わなかったよ」
「ねぇ、私はカイ君達の方が出来ちゃった婚とかで結婚すると思った」
隣には歳の離れた彼女、いや、アタシ達の先生でもあるフウちゃんがいるダイチ、相変わらず二人を見ると成せば成るんだって思う、そしてフウちゃんの不謹慎極まりないその場不相応なセリフ。
「しかし相手の方も爽やかなイケメンタイプですね、まぁ、カイさんには負けますけど」
「ミッチー、誤解を海ますよ?」
ちょっと痛い、確かに隣にいるのが女の子じゃなかったらあっち系の人だと思うようなミッチー、そして隣にいるのはミッチーの大豪邸のメイドさん。
「そういえばユメちゃんとゲンは」
「ゲンちゃんって消息不明なんじゃないの?」
「そうですよカイさん、彼はユメちゃんを捨てて消えたんですよ?」
「あぁそっか、お前ら何も知らないのか、ゲンは―――」
ガタン!
カイが何かを言おうとした時、披露宴会場の重い扉があり得ないスピードで開いた。
「待たせたなサエ!」
そこから黒髪のワイルドな女性が、凄く綺麗でスタイルもグラビアアイドルばりに抜群、なのにそれとは全く正反対な体から滲出る豪快さ、まるでカイとユキのお父さん、ジョニーを見てるみたい。
「随分とまぁでかい所でやってるんだなぁ、もしかして玉の残りとか?」
「アキラ、玉の残りじゃない、玉の輿」
「そ、それだよ、それ」
金髪の男はタバコをくわえながら馬鹿丸出しで入って来た、その後ろからはどことなくユメちゃんに似た、かなり不思議ちゃんオーラ丸出しの女の子が出てきた。
「あぁもう、ランさんもアキラ君もニーナさんも、披露宴の邪魔しちゃダメじゃないですか、ほら、皆見てますよ」
「サエ……………」
髪の毛が動かないくらいにヘアピンで留めた見たことあるような気がする少年、そして、その後ろからはヨタヨタと人形を抱いたユメちゃんがサエの方に歩いて行った。
「ねぇ、あれゲンちゃんに似てない?」
「まさか、ゲンさんはあのような―――」
「あっ!みんないるよ!」
少年は笑顔で手を振りながら走って来た、その笑顔、紛れもなくゲンちゃんのものだ。
そして後ろからは金髪の男がタバコをくわえながら歩いて来る、何故かカイが立ち上がると、タバコを奪って靴の裏で火を消して、男のポケットに突っ込んだ。
「ココは禁煙だ、分煙くらい心がけろ」
「俺は禁煙してねぇよ!それにブンエンなんて意味分かんねぇ横文字使ってかっこつけるな」
「アキラ君、ココはタバコを吸っちゃいけないから吸うなら喫煙所に行ってよ、ってカイさんは言いたかったんだよ」
日本語で通訳が必要なんだ、ってかゲンちゃんはどうしちゃったんだろう?何でこんな人達と一緒に?
「カイ、誰だコイツら?」
「チカは知らないのか?アオミが大好きなODD GALEのメンバーだよ、色々あってサエとか俺は知り合いなんだよな。
それで、ゲンはそのバンドのベーシストってわけ」
アタシは空いた口が塞がらない、そのバンドの曲ならアオミさんに聴かされて知ってる、アタシも少しハマってるくらいだ。
「貴方達、私の大事な思い出を乱さないで」
「サエお怒りか?」
スタイル抜群の女性、ランがサエの所に歩いて行った。
「よくもまぁ、ココまで乱してくれたわね」
「プレゼントを渡す前の前座だ」
「プレゼント?そんな洒落た物なんて用意出来るの?」
「出来る、コレなら」
不思議ちゃん、ニーナは会場の端にあるカーテンを引いた、そこはライブステージみたいになっていて、ドラムから何まで用意されてる。
すぐにそこに全員が走って行く、全員楽曲を触った瞬間に別人のような顔付きになった。
「うちらの友達、サエに送ります」
その瞬間演奏は始まった、高校生ばかりの会場、大半の人は彼らの事を知ってる、だから会場はこの日最高潮の盛り上がりを見せた。
全てが終わってチカとの帰り道、幸せをいっぱいお裾分けってこういう事なのかもな。
少し前を歩く俺、冬の寒い中、空には東京にしては珍しいくらいの星空、島にいた頃は押し潰されそうな感じだったけど、東京の空は何故か寂しい。
「本当に二人は幸せそうだったな」
「そうだな」
「俺らもいつかああなるのかな?」
俺は前を歩いて空を見たまま言った、しかし、チカからの返事はない、すぐに立ち止まってゆっくりと振り返る。
街頭の下で照らされたチカはうつ向き、何故か寂しそうに見える、何か悪い事を言ったようには思えない、でもこんなチカは久しぶりに見る。
「どうした?」
俺は近寄り、チカの顔を下から覗き込んだ、そこには涙を必死に我慢してるけど、抑えきれない涙が頬を伝い、必死に感情を押し殺そうとするチカがいた。
「おい、大丈夫かよ?」
俺はそっとチカの涙を拭おうとした、でも、チカはその手をはね退け、俺を拒絶した。
初めて、チカがいたなかで初めて俺は拒絶された、それが苦しくて、悲しくて、初めてチカが怖くなった。
「どういう事だよ」
「………………れよ」
「何?」
俺はチカに耳を近付けた。
「別れよ」
その時、俺の目からは涙が溢れ落ちた。




