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紅翠はパートナー

学校も終りに近付き生徒のみならず教師も慌ただしくなってきた、最近はミドリと飲みに行く機会も多くなったし、仕事面でも大切なパートナーとなってる、俺もミドリに会ってから変われたのか?


そんな慌ただしい毎日におわれてたある日、俺とミドリは校長に呼び出された、こんな忙しい時に、こっちは一分一秒も無駄にはしたくない。

ミドリは相変わらずの元気で俺の憂鬱を払拭する、まぁコイツといればストレスが溜らなくて済むからありがたい。


「何だと思う?結婚しなさい!とかかな?」

「それは良い、あのヅラ校長のヅラを叩き落としてやる」


俺達は笑いながら校長室のドアを叩いた、入れと一言言われると俺達は公務員の顔になり入る。

ミドリまで唯一無機質になる瞬間が校長室にいる時だ、俺らのクビがかかってるからな。


「君たち二人にある有名私立高校から来てほしいと言われている」

「テニス部の一件でですか?」

「そうだ、その高校はテニスの強豪校として全国大会で優勝した事もある高校なんだが、昨年顧問の先生が亡くなり低迷していたところに君達の実績」


テニス部は俺が顧問になった事により、ミドリが女子のみに集中でき男女共に団体で全国大会出場、男子はシングルスでベスト4まで押し上げた、東京にいる限り無理だと言われ続けた公立の快挙だからな。


「給料も今よりも出すらしい、返事は今週中に貰いたい」


俺達は封筒を貰って校長室から出た、まぁチカもあれだし、俺は行っても良いか。


「うわ!給料凄いぞ!」

「私立ならそれくらいだろ、まぁ悪い話じゃない、東京から離れなきゃいけないのは難点だがな」

「私はコウと一緒なら何でも大丈夫だ」

「ありがたきお言葉、まぁ俺が行けばの話だがな」

「行かないのかよ!?」

「まだココに1年だしな」

「そうか………」


悲しい顔をするミドリ、さすがにこれ以上は可哀想だから軽く頭に手を置いてやった。


「嘘だ、こんな美味しい話を俺が蹴るわけないだろ」


ミドリの顔が明るくなる、でも俺はミドリにデコピンをして歩き出す。


「何するんだよ!?」

「授業だ、行くぞ」


嬉しいのミドリだけじゃないんだぞ、仕事でミドリがいなかったらと俺はココまでできなかった、お前は最高のパートナーだ。

でもこの歯がゆさはなんだ?俺の中で何かが引っかかる、俺は何か間違えたような気がする。






俺は空き時間にパソコンを立ち上げるとメールが来てる、その送り主には“裕美”とある。

俺はメールの内容を見て驚いた、それは全て日本語で書かれている、英語の訂正とかで日本語を使う事はあっても、全てというわけではない。

その内容は…………


《潤間君へ


いきなり日本語でビックリしてるよね?日本にいるのにわざわざ英語でメール送らなくても良いかなと思って。

今回潤間君にメールを送ったのは潤間君に頼み事、本当に一生のお願いをお願いするためにメールをしました、私には貴方が必要なの―――――》













俺は車を走らせていた、メールを見せたら校長もOKしてくれたし、とりあえず今は仕事なんてしてる場合じゃない。

話を聞かなきゃ詳しい事は分からないが、今俺には人生の選択肢が3つも用意されやがった、いや実質2つだ。



下北沢にあるオープンカフェに裕美は座ってる、柄にもなく取り乱した俺は裕美の目の前に座った。

相変わらず落ち着いてやがる、留学したからって変わるもんじゃないんだな。


「呼び出しといて遅刻とは―――」

「知らん、それより何だあのメールは?」

「本気よ、各界の専門家を集めて新設する大学の外国語英語学科の助教授に貴方を迎えたい」


相変わらずめまいがする響きだな、助教授ってのは、しかもメールで送られて来た資料は更にめまいがするものだった、馬鹿みたいに著名な専門家を集めた大学、恐らく1年もすればトップクラスの学力を誇る大学になるだろう。


「何で俺がそんな大役に?」

「私が認めるからよ、潤間君はネイティブなアメリカ英語、イギリス英語、両国スラング、方言、ニュアンスに至るまで完璧にマスターしてる、恐らく研究次第じゃ私なんて簡単に追い抜かれちゃうかもね」

「だからってこんな大学の助教授に一公立高校教師を抜擢するなんて馬鹿げてる」

「そうかしら?この中には職が無かった人や犯罪まがいの事をしてる人もいる、全てが才能を買われた人間たちよ、身分なんて関係ない、才能を欲してるの」


コイツはマジで俺をそんな別世界に連れ込もうとしてるのか?まぁ確かに大学の温い英語教師よりは出来る自信がある、でもこんな専門家の中に俺なんかが飛込めるわけがない。


「お金が足りないなら出すわよ、大学だから貴方のペースで出来る、他に何か不満な事はある?」


ない、ないけど何だこの何かを忘れてるような感覚は、地位や金と引き換えに何かを失いそうな気がする。


「実は、私立高校の方からもそういう話が来てるんだ」

「貴方何を考えてるの!?私立高校と大学助教授を天秤にかけるなんておかしいわよ、今の潤間君はらしくない、多分思わぬ話に気が動転してるのよ、冷静になってから後日答えを聞かして」


裕美は伝票を持って俺の前から去って行った、何かが引っかかる、こんな良い話は2度とないだろう、なのにYESと言えないのは何故だ?リスクじゃない何かが俺を邪魔する。













悩んだ時はミドリを無理矢理飲みに誘う、俺はいつの間にか一人で悩みを解決出来ない程弱くなっていた、でも、ミドリといれば少しは楽になる、そういう甘えがミドリを呼んでいる。

それが今までだった、今日は気付いたらミドリの家に行っていた、インターホンを押し、ミドリの足音を聞いて若干ホッとする、扉が開くとラフな姿をしたミドリがいた。


「コウ、何か酷い顔をしてるぞ、どうした?」

「知らん」


俺はそれだけ言って中に入った、ミドリは若干拒否したけどすんなり入れてくれた。

俺は床に座ってベッドに背を預けるとドッと疲れが襲ってきた、そんな俺を見てコーヒーを入れ、俺の隣に座るミドリ。


「どうしたんだ?いつものコウらしくないぞ」

「いつもの俺らしくないか、裕美も言ってたな」

「あのメル友の人に会ったのか?何か酷いことでも言われたのか?」

「違う、新設大学の助教授になれだとよ」


俺は自傷気味におどけて見せたが何故か空回りする、それどころかミドリの不安を増幅させるばかりだ。


「そっか、じゃあそっちに行くんだな」

「それを悩んでる」

「やっぱりコウらしくない、コウなら喜んで行きそうだけどな」

「俺もそう思う」

「なら何で?」

「知らん」


違う、何かが引っかかる、その何かが頭を覗かせてる、でも、それを見せないように何かが邪魔をする。


「もしかして私のタメに行かないとか!?」


その一言で俺の中で何かが弾けた、胸が熱い、感情の波が俺を飲み込むように襲ってくる、何だこの感覚は?

俺はその場にいづらくなって立ち上がった、ミドリが俺の腕を掴んだが俺はそれを振りほどいてしまった。


「コウ?」

「帰る」

「何だよいきなり来たと思ったら帰りやがって!もうコウなんて助教授になってどっか行け!」



















コウは凄く悲しい顔で私を見て出ていった、コウのあんな表情を見るのは初めてだ、私はいつものようにコウを追い出しちゃったけど、本当にそれで良かったのかな?










次の日からコウは出会った頃、それ以上に公務員的に仕事や他人と関わっていった。

本当に今のコウは冷たい、私が話しかけてもいつものように接してくれない、コウの中で何が起きてるのか分からない以上私にはどうしようもない。
















クソ、悩みの原因が分かったら更にややこしくなりやがった、本当に俺はどうにかしてる、何で、何でこんな事になったんだ?何で俺は……………







悩んでる間に両方の返事の期限が来てしまった、何で俺はこんな選択をしてるんだ………






地位か?

ミドリか?







こんなにミドリが俺の心を侵食してるとは思わなかった、助教授になればアイツには会えない、それが恐ろしくらいに怖くなった、でも助教授という座も俺は欲しい、虻蜂取らずとはこの事だな。

クソ、悩んでも仕方がない、俺らしくはないが、直感を信じるしかないのか。

俺は車の鍵を持ってチカを家に残して目的地に向かった、俺の人生が掛った選択地、裕美が待ってる下北沢に。
















コウは校長室には来ない、既に時間は迫ってるっていうのに、やっぱりコウは助教授を選んだんだ、当たり前だよな、最後にコウに告白して惨めに散るのもありかもな。

校長が軽くため息を吐いた時、扉をノックする音が聞こえた、私は期待の目で振り向くが、扉を開けたのはコウじゃなかった。


「校長先生、お電話が来てます」


はぁ、やっぱりコウは来ないのか、まぁ分かってたんだけど、やっぱり悲しいな、泣きそうになるのを必死に堪えるだけで精一杯だった。

コウ、私はコウと一緒に仕事がしたかった、もっとコウと一緒にいたかった、もっとコウの事を知りたかった。

確かに助教授になってもコウには会えるけど、そんな沢山は会えないしコウはもう私を見てくれないはず。



校長が出ていってから暫くすると校長が戻って来た音がした、ソファーに座ってた私は立ち上がり校長を見るけど、そこに校長はいない、いるのは息を切らしたコウだけ。


「おい、もう、終わった、のか?」

「お、終わってないけど、どうした?」

「どうしたって―――」


コウは一回息を飲んで乱れたスーツを直した、その時の表情は笑顔、滅多に笑顔を見せないコウが何故か笑ってる。


「お前と顧問をする未来を選んだだけだ」






















下北沢のオープンカフェには笑顔の裕美がいる、俺は席に座ると裕美の目を見据えた、俺のOKを確信した裕美の笑み、しかし俺の答えは…………


「今回の話は断る」


裕美の顔が一瞬で曇る。


「どうして!?こんな良い話なんて2度と無いのよ?貴方の才能は高校教師で終わって良いようなものじゃないの。

何が理由なの?」

「俺が教師になったのは英語の楽しさを教えるためだ、つまり、英語が嫌いな奴こそ俺が求めた相手なんだ、だから英語好きが集まるような所じゃ意欲が湧かない、それだけだ」


裕美は疑いの目で俺を見る、昔からコイツの勘の鋭さにやられてきた、落としそうになった単位を教授に良いキャバクラを紹介して単位を貰った時も、コイツに貰ったプレゼントをいらないからハヤにあげた時も、飲み会を毎回ただで行ってた時も、全てコイツにだけはバレた。


「何を隠してるの?」

「裕美に言う事はない」

「あるわよ、助教授を蹴るならそれなりの理由を頂戴」


ほら来た、本当に厄介な女だ。


「俺が女のためだって言ったらどうする?」

「ふざけないで」

「大マジだ」

「もしかして、馬鹿な先輩教師?」


はは、確かにそう言ってたな俺、まぁ良くも悪くも話が早い。


「そうだ」

「貴方、たかが女のタメに人生を棒に振るうの?」

「たかがじゃない、アイツは今の俺にとって必要不可欠な存在だ、裕美から言わせたら“たかが”かもしれないが、俺にとっては何よりもかけがえのない存在なんだ」

「潤間君、変わったわね」

「変わったのか?」


俺は立ち上がり伝票に金を挟んだ、そして裕美の前に差し出す。


「そこまでする彼女は何なの?」


かなりアバウトな質問だ、だが、今の俺には適切な質問なのかもしれない。


「a bolt from the blue」


俺はそのまま裕美に背を向けた。


「“青天の霹靂”か、潤間君にしては簡単な表現ね、……………でも、羨ましい」






















「それでは潤間先生、三芝先生、コレでよろしいですね?」

「「はい」」

「では来年度から新しい職場で頑張って下さい」


私とコウは軽く頭を下げて校長室を出た、コウは何も言わずに私の手を掴んで歩きだす。


「な、何だよコウ!?」

「……………………………」


無言で歩き続けるコウ、いつもより大きく感じるコウの背中、なんか強引だけどいつものコウと違って優しく感じる。

コウは車の鍵を開けると車に乗り込んだ、私も乗り込むと相変わらず太いエンジン音が響く。


「どこに行くんだよ?」

「……………………………」

「何か言えよ!?」

「黙ってろ」


やっぱり優しくない!コウが優しいのなんて私の錯覚だ!私と顧問する未来とか思わせ振りな態度とりやがって。

私は怒って車を出ようとしたけど、腕を掴んでシートに押し付けられた、そのまま凄い音をたてて急発進する車。


「おいコウ!停めろ!」

「俺に付き合え」


コウは無理な運転で国道を走らせる、こんな荒々しい運転をするコウは初めてだ、何かあったのかな?



暫く運転するとコンビニの駐車場の奥に停めた、市街地を外れただけに人は少ない、なのに無駄に大きい駐車場のコンビニ。

コウは黙ったままタバコを吸ってる、街灯に照らされた眼鏡が反射してる、それがまた様になるからかっこいい。


「何か言――――」

「一度しか言わないからしっかり聞いてろ」


コウはうつ向き気味になる、タバコを持った手で綺麗でサラサラした髪の毛をクシャクシャにする、軽く私の方を見ると若干顔が赤くなってる。


「………………好きだ」


















「はぃ?」


コウはそのまま車を走らせた、今コウが言った言葉に私は冷静さを失ってる。


「こ、コウ、今なんて言ったんだ!?」

「一度しか言わない」

「なぁ、もう一回だけ聞かしてくれ!」


コウが好きって言ってくれた、嘘だ、信じられない、夢じゃないかと腕をつねるけど痛い、嘘じゃないかとコウの顔を見るけど赤い、本当にコウかと全身を見回すけどかっこいい。

どう考えてもあのコウが私に好きって言った、もう青天の霹靂なんて生易しいものじゃない、地球が割れたくらいの一大事だ、明日は拳サイズのみぞれ決定だ。















クソ、何だこの異様な鼓動の高鳴りは、顔が沸騰したように熱い、俺が俺じゃないみたいな感覚だ。

でもコレで本当に伝わったのか?気持ちを一方的に伝えただけだ、ミドリの気持ちは何一つ聞いてない。


「コウ!」

「何だ?言わない―――」


ミドリの気配が近付き俺の頬に柔らかい何かが当たった、それが唇と理解した時には俺のハンドルは有らぬ方向にきっていた。


「コウの馬鹿!」

「うるせぇ!」


俺は何とか立て直すと丁度信号が赤に変わる。















赤信号で停まった、コウの同様っぷりには私もビックリだよ。

コウは睨むように私を見た、でもそこに以前の刺々しさはない、私の大好きなコウがいる。


「何だよ?」


コウはにやりと笑うと素早い動きで私の後頭部を掴んだ、そして引き寄せるのと同時にコウの顔が近づく。

コウの性格に似合わない柔らかい唇が私の唇に触れた、これが私達の2度目のキス。


プップゥゥゥゥゥ!


けたたましいクラクションと共にコウは信号が青になってるのに気付き車を走らせる、私の胸の鼓動は精一杯動いてる。


「ミドリ」

「な、何?」

「好きだからな」

「私も好きだ」






ミドリ、やっと自分に素直になれた、俺はお前じゃなきゃダメらしい、だから俺はミドリのためなら全てを捨てられる。

これが愛なら、俺は愛に身を滅ぼすんだろうな。

でもミドリのタメなら何も怖くない、俺はお前のお陰でお前のために変わる事が出来たよ、ありがとう。






コウ、まさかコウが好きになってくれるとは思わなかった、だから凄く嬉しい、今の私にはコウだけで満足です、だから私は貴方の最初で最後の女性になりたい。

コウとミドリのエンディングです。書きたかった内の一つなんで楽しく書けました。

やっぱりコウはいつまで経っても自己チューを抜いちゃいけませんよね、最後の最後まで自己チューってのがやっぱり彼かもしれないと思い、こんな感じに仕上げてみました。


次は最後、カイとチカのエンディングです。

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