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蒼の傷

あれはまだ私が人を嫌いになる前の事、友達もたくさんいたし、何でも話せる幼馴染みもいた。

その時のカイはすでに暗い影を背負ってたけど、私にだけは優しかった。



その時の私は人並みの感情ってものを持ってた、当時の中学生にしたら遅いけど初恋も。

毎日学校に行くのが楽しくて、好きな人を見るだけでドキドキして、話すだけで真っ赤になって、笑ってくれると倒れそうになる、本当に中学生らしい恋をしてた。


私が彼に告白するのはあっという間だった、部活終わりの彼を呼び出し、簡単な告白をした。

彼は笑顔でOKと言ってくれた、私は舞い上がって、帰ってからカイに報告したら、カイも私にしか見せない笑顔で喜んでくれたの。




その日から私は彼と付き合い始めた、毎朝一緒に学校に行き、帰りは彼の部活が終わるのを待って一緒に帰る。

本当に些細な事だけど、それが私の人生の中では少ない幸せだったのかも。

あの時は全てが輝いていて私も輝いてた、楽しい、嬉しい、プラスの感情だけが私の中には溢れてた。










付き合いはじめて3ヶ月、私は全身全霊で彼に尽くしていた、料理も覚えて綺麗な女の子になろうと努力した。

その時からかもしれない、カイから離れて行ったのは、でもたまにカイと話すとカイ笑顔で私の話を聞いてくれた。




そんなある日の帰り道、私の家の近くにある公園で話てた、毎日と同じ様な一時だけど私にはその同じ一時が、無限にループする事を強く願ってた。


ベンチに肩が触れるくらいの距離で座る私たち、彼はそっと私の肩に腕をまわして引き寄せる、私も彼の肩に頭を置いてその長くはない時間を楽しむ。

静かな公園、私たちの間に会話はないけどただそこにいられればそれで良かった、彼に何かを求めていたわけじゃない、そこに彼がいてくれれば、彼が私を愛していてくれればそれで満足だった。


彼はベンチに付けていた体をそっと起こし、体をゆっくりと私の前までもってくる、そしてゆっくりと私に顔を近付けた。

野暮じゃないから分かる、私はそっと目を瞑り、彼を受け入れる準備をした。

彼の唇はゆっくりと私に触れ、優しく私を包んでくれた。




その時の私はこの幸せが永遠だと思ってた、彼がココまで愛してくれる、彼は私だけをみていてくれる、そう思ったから、私も彼を愛していた。












暫くしてから私は友達から彼が他の女の子と帰ってる、という噂を聞いた。

私は学校で彼を呼び出すと、彼は何も知らずに笑顔で私に手を振る、その時に確信した、女の子といたのは何かの間違いだと、決して浮気なんかじゃないと。


「友達から聞いたんだけど、女の子と帰ったって本当?」


彼は少し不思議そうな顔で私を見る、違うって言ってほしい、嘘でもそれを信じるから嘘と言ってくれる事を信じていた。


「帰ったよ」

「え?」


彼は戸惑う事なく私を傷付けた、でも泣きそうな私を見て慌てる彼。


「帰ったよ、帰ったけど相手は部活の友達だよ、家が同じ方向だったし遅かったから一人で帰したら悪いと思って。

もちろんアオミにも悪いと思ったよ、でも俺はアオミ以外には考えられない、これが浮気だと思われたならゴメン、でもそんなやましい気持ちがあったら俺は罪悪感で笑顔なんて作れないよ、ね?」


彼はいつもの優しい笑顔で私に笑いかけてくれた、彼は嘘なんか吐いてない、それに私が彼の事を信じられなかったらそれこそ裏切り行為になる。

私の彼に対する不安も疑心も全てが気泡の如く消えていった。


「信じるよ、それならしょうがないよ」

「ありがとう、嬉しいよ」









当時は純粋だった、愛の下だったら何でも信じられる、人を疑うって事を全く知らない私、騙されるとも全く思っていなかった私。

だから落ちる所まで落ちたのかもしれない、築き上げてきたもの全てが崩れた、そんな感覚だったのかもしれない。















その日彼の部活が長引くとの事で私は先に帰された、待たせちゃいけない、そういう彼の優しさだと思って私は素直に受け入れた。

そう、疑う事を知らない私はそれが終わりの合図、いや、むしろ既に未来が無い事を示してるとは知らずに。




友達と別れて一人で歩いてる時、少し遊んだから遅くなってしまった。

私は歩いてると聞き慣れた笑い声を耳にした、私だけの笑い声、彼の笑い声、それにあわせて女の笑い声が聞こえる。

初めてそこで疑った、遅く帰るはずの彼の声がこんな所で聞こえるわけがない。


「本当あの女馬鹿だよ!俺の言った嘘を全部まに受けやがって」

「それよりいつになったら四色さんと別れてくれるの?」

「まだだ、あともう少し、あともう少ししたらあの高飛車な女をズタズタに出来る」

「本当あんたって最低ね」


再び笑い声が聞こえた、既に私の目からは涙が溢れている、焦点は全くあわずに光が揺らぐだけ。


「どうしたアオミ?」


声の主はカイだった、本気で心配そうな顔をしているカイ、私は何も言わずにカイに抱きついた、カイは頭を軽く撫でてくれると彼の笑い声に気付いたらしい。

塀の角から顔を出すとカイは私を離した、そのまま早歩きで歩く、私はカイを追うと既に彼のすぐ後ろにいた。

カイはとっくに鞄を落としている、後ろ姿の彼の肩を引くと彼はカイの方を向く、そのままカイは何も言わずに殴った。


「ちょっとあんた何すんの!?」


隣にいる女が騒ぐけどカイが睨むと一歩退いた、彼は豪快に吹っ飛んで恐怖の目でカイ見てる。

カイは迷わず彼に跨ると拳を何発も彼に降らせた、何も言葉を発しないカイは本当に怖い。


「アオミさんこんな所で…………」

「井上く―――」

「ってあの馬鹿!」


カイの幼なじみの井上くんは走ってカイに近寄ると、後ろから取り押さえようとした、でもカイは肘で井上くんを殴ると殴り続ける。

彼の意識は既に飛んでいて本当に危険なのは誰が見ても一目で分かる。


「あの馬鹿完璧にキレてるよ」


口角から血を流してるにしては明るい井上くん、そして走ってカイに近寄るとそのまま蹴り飛ばした。


「テメェ!何すんだよ!?」

「頭を冷やせ!」


お互いがお互いの胸ぐらを掴んだ時に騒ぎを聞き付けた住民により二人は取り押さえられた、井上くんは冷静だったけど、カイは暴れていたために何人かに怪我をさせてしまった。




彼は病院に運ばれて死にはしなかった、カイと井上くんは警察に行ったけど井上くんはすぐに帰ってきた。

井上くんは頭を冷やしたカイにより私達の家にいる、そう、私は派手に失恋したからだ。


「カイ、大丈夫かな?」

「コレくらいならカイはしょっちゅうですよ、結局親父さんが口止しちゃうんだから。

それよりもアオミさんは大丈夫なんですか?カイが自分の事よりも心配してましたよ」


いつもカイはそう、自分の事を二の次で私の心配ばっかり、でも正直私は辛い、全てだと思ってた彼にあんな裏切られ方をしたから。







その時はまだ実感が無かった、カイも安心してくれるくらい冷静だった。

でもキズはやっぱり深すぎた、近寄る男の人全てが怖くなり、友達すらもいつ裏切られるか怖くなった。

その内男というものを恐怖のみならず軽蔑の目で見始め、裏切られたくない一心で友達を作らなった。

カイ以外の人間は全く受け入れず、私にはカイだけになった、孤立したにも関わらず孤独になれない私はカイに依存して、カイだけになって、姉弟間の関係を恋愛感情と錯誤しはじめたのもこの時期から。



そう、一つの、たった一つの小さな別れが私の全てを変えた、人格も生活も心も環境も、全てが一瞬にして崩壊していった。



















ハヤさんの車に場所を移した私たちの間には沈黙が流れた、薄暗い地下駐車場の中の車にいる私たちの心と車内がシンクロしたみたい。

私は股の間で合わした手に視線を落としてたけど、ハヤさんがあまりに静かだから少しハヤさんの顔を覗いてみた。

サングラスを着けてるけど、頬には涙が伝った痕が淡い光に反射してる、声を押し殺して泣いてるのが分かるくらいだ。


「ハヤさん?」


ハヤさんは私の問いかけにゆっくりと向いた、大きなサングラスをしてても分かる、あのハヤさんが本当に悲しい顔をしてる。

その時に私の中でのハヤさんの何かが変わった、今まで私の事で泣いてくれる人は誰一人としていなかった、カイは泣かない、マミコやカナコには弱みを見せてない、ハヤさんが私の事で泣いてくれた初めての人だ。


「アオミ、俺はアオミが男の人に傷付けられたのも、カイ君がアオミを傷付ける人には容赦しないのも、マミコがアオミの親友ってのも、全てを理解して言うよ。



















俺と付き合って」


私の目からは自然と涙が溢れ落ちた、ハヤさんと私の関係は今でも接点が多すぎる、しかもカイは本当に危険な人物、それを理解してでも私を好きでいてくれるハヤさん。


「でも………」

「アオミを傷付けるような事もあるかもしれない、でもそれ以上にアオミの支えになるから」

「……………ハヤさん」


私をココまで受け入れてくれる人は絶対にいない、私、少しはハヤさんの事受け入れる事出来るかな?

もう傷付く事を恐れて逃げなくても良いよね?

マミコとカナコに会って本当の友情ってものを知った。

ユキ君がいて私の心は恋をする事を少しなりとも思い出した。

ハヤさんがいたから私の心は落ち着いてきた。

ハヤさんがいたから綺麗な笑顔が作れるようになった。

ハヤさんの前では着飾る事なく接しられる。

ハヤさんなら私の全てを愛してくれるはず。


「カイは本当に怖いですよ?」

「カイ君に怒られるような事はしないよ」

「マミコもいるんですよ?」

「マミコはアオミの妹になるんだよ?」


マミコが妹?って事は私とハヤさんが結婚!?


「ちょっとまってハヤさん!それってプロポーズじゃないの!?」

「まぁそうでも良いや、いつかカイ君とツバサちゃんから奪いに行くんだから」

「まだ私は学生よ?」

「じゃあ卒業したら迎えに行くよ、エンゲージリングと婚姻届けのアオミの欄だけ空けてね」


ハヤさんの顔はいつも通り笑ってるけど根は至って真面目、むしろハヤさんは良くも悪くも嘘が吐けないんだ。


「ダメ?」

「いや、ダメというか………」


サングラス越しにでも分かるハヤさんの真剣な眼差し、コレはもう迷ってる場合じゃいわよね、もう私の中で答えは出てるんだから、もう逃げない。


「結婚を考えるのはまだ早いと思います、だから、お付き合いしてもっとハヤさんの事を知りたいです、だからハヤさんを知るために、私ハヤさんと付き合います」


ハヤさんはパァっと明るい顔になった、私も自然と笑みが溢れる、少し私も幸せに近付けたのかな?


「それなら記者会見でもやる?」

「馬鹿でしょ?そんなの一般人の私がするわけないじゃない」

「でもさぁ、もうさっきからパパラッチがいるんだよ?」

「嘘!?」


私はビックリしてハヤさんを見るとハヤさんは指を指した、確かにいる、暗闇で分かりづらいけどいる。


「なら何でこんな所にずっといたの?」

「別に隠すような事してないもん、《イケメンカリスマ美容師の蘭葉夜、美人歯科医大生と熱愛!》ってのもなんか良くない?」

「はぁ、リアリティがいるすぎて怖い」

「それじゃあ呼ぼっか?」


ハヤさんは窓を開けて車から体を乗り出した。


「カメラマンさぁん!スクープ撮らしてあげるから来てよぉ!」




カイ、私はカイやツバサから卒業します、ハヤさんだけのモノになっても良いよね?私ハヤさんといるのが一番の幸せへの近道だと思うから。

これでハヤとアオミのストーリーはめでたく?エンディングを迎えました。

ここからは最終回に向けて怒涛のエンディングラッシュです、ハッピーエンドorバッドエンド、皆さんの好きなキャラクターはどちらのエンディングを迎えるか、楽しみに待っていて下さい。

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