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翠とクリスマス

もう最悪だ!何で私はこんなクリスマスにまで部活をやらなきゃいけない、仮にもっていうか私は女だぞ、まだ20代の女が何が悲しくてクリスマスに部活をやらなきゃいけない。

まぁコウと会える事が出来たからよしとするか、コウはクリスマスでも公務員的にやってる、やっぱりコウは凄いよ、私は全くもって上の空だっていうのに。


部活は遅くまで続いて終わった、例の如く学校には誰もいない。

私が着替え終わって下駄箱で靴を履き替えてる時、これまた例の如くタバコをくわえたコウが歩いて来た。

スーツをはだけてタバコをくわえてる姿がカッコイイ、本人は狙わずにやってるから憎い。


「ミドリ、これから暇か?」


ちょっと待て!今日は聖夜、そしてその聖夜に暇かと女に聞くということは、これはただならぬ誘いの予感。


「ひ、暇だけど」

「飯食いに行くぞ、チカがいないし腹減った」


うぅ、やっぱりココはコウのような気がする、この全てが利益や打算で動いてるような物言い、多分クリスマスっていうのもコウにはジジイの誕生日でしかないんだ、いや、最初からそう考えるべきだった。




コウはご自慢の外車で目的地に向かう、何でコウは全てが絵になるんだよ、格好付けてるようには見えないのにカッコイイ。


「着いたぞ、降りろ」


電飾が綺麗なお店、外観だけは高級そうだな、まぁコウの事だからオシャレな店なんて山ほど知ってるんだろうし、私と行くような所だから安いんだろうな。

まぁ良い、密かに買っておいたプレゼントを渡す大チャンスだ、さりげなく渡せば鈍感なコウだから意図はバレないはず。


店の中は薄暗くて生のピアノ演奏があるお店、ヤバい、凄いオシャレだ。

コウは入ると同時にタバコを手に持つと、店員が灰皿を差し出してそこで消した、クソ、また絵になってるのがムカつく。

そして通されたのは窓側の席、キャンドルの灯りくらいしか照らすものがない。


「高級そうだな」

「そうでもない、………ミドリもコースで良いだろ?」

「まぁコウに任せるよ」


私にはよく分からないし、コウなら間違う事は無いからな。

コウは何か色々頼んでるけど私にはよく分からない、こんなお店初めて来るし怖くて来れないからな。


最初に来たのはワイン、やっぱりこういうのあるんだ。


「ではテイスティングを」

「いらん」


そこ断るところかな?コウならコレくらいそつなくこなしそうなんだけど、変なところで意地はるからね。


「いや、しかし……」

「味は知ってる」


コウは半ば強引に注がせた、そういえば前に言ってたな、日本人なんだから下手に外国人の真似して気取るのはダサいって、下らないところでワイルドなんだよな。


「ソムリエの顔も立ててやれよ」

「奴らも建前だけでやってるんだ、それに付き合ってるのは馬鹿馬鹿しい」


清々しいくらいのマイペースだ、そして軽くグラスを前に出した、多分それは乾杯しろと言いたいんだろう。


「乾杯」


軽く乾杯してワインを飲んだ、ってか馬鹿みたいに美味しい、こんな美味しいお酒初めて飲んだ、絶対このお店は高い、コウの金銭感覚が怪しくなってきた。


「気取ったワインよりも焼酎の方が良いな」

「なんかジジ臭い」

「人の好みに口出しするな、どうせミドリだって食前酒は梅酒とか思ってるんだろ?」


クッ、さすがコウだ、まぁ私的にはワインよりも梅酒の方がしっくりくるだけで、対比してるわけじゃない。


「まぁ、焼酎や梅酒じゃこういう料理には合わないんだろうがな」


コウが言うと当たり前の事でも説得力を得る、日本人離れしたカッコイイところを見せたと思ったら、案外庶民的な事を言ってみたり、本当に一貫性の無い男だな。




食事はどんどん運ばれて来る、やっぱりコース料理って破壊的な量だよな、こんなもん本当に食わせようと思ってるのかよ?絶対にイジメだ。


そしてあれよあれよとデザートまで辿り着いた、コウはそこまで全部完食してる、本当に恐ろしい人間だよ、コース料理を平気で完食するなんて。


「美味かったな」

「まぁな、俺的にはミドリのハンバーグの方が良いけどな」

「―――――!」


声にならない声、本当に発してるのか分からないくらい、エサを求める金魚のようになる私。

コウがさらっと私の事を誉めた、これはありえない、ビッグバンレベルの事だよ。


「どうした?誉めてるんだから礼の一つでも言え」

「自分で言うな!言葉にならないくらい嬉しかったんだよ」

「なんだ、それくらいで喜んでたのか、簡単な女だな」


やっぱり一言多い、素直に受け取るって行為がコイツには出来ないのかよ、本心垂れ流し男だな。

私も何でコウみたいな男を好きになったんだろう、コウの性格を知ってて好きになる変わり者なんて私くらいだよ。


暫くとめどない話をした後、若干の沈黙が流れた、私は今しかないと思ってバッグから小さい箱を取り出す、コウにはこれしか無いと思ったから。


「コウ、プレゼント」


コウは目を丸くして小さな箱を見てる、コウの驚く顔って新鮮で良いなぁ。


「何のだ?」

「クリスマスだよ、野暮な事聞くな」

「俺にか?」

「他に誰がいる?」

「Thank You」


クソ、無駄に発音が良くてムカつく、でもそれが自然に出てくるところがカッコイイんだよな。

私があげた箱の中にはジッポ、コウはタバコばっかり吸ってるわりにはライターにこだわってないから、いつも使ってもらえたら良いなぁと思ってね。


「でかしたミドリ」

「何が?」

「俺が壊したやつと同じだ、ずっと探してたんだが見付からなくてな」


コウが子供のような無邪気な笑顔でジッポを見てる、いつもこれだけ可愛い顔してたら取っ付きやすいのに。


「じゃあコレはミドリへだ」


コウはポケットから小さな袋を取り出した、コレはもしかしてもしかすると、コウからのプレゼント!?まさに晴天の霹靂!今世紀最大のサプライズだ。


「何だ、いらないのか?」

「いるいる!いります!」

「なら受け取れ、俺からのプレゼントが嫌みたいだろ」

「いや、予想外だったから………」

「わざわざジジイの誕生日に騒ぐのが嫌いでな、でもミドリはそういのが好きそうだから、部活だけでそれが潰れるのは可哀想だと思って用意した」


何でたまに優しくなるんだよ、優しくするなら常に優しくしてほしいタイプなのに、ギャップなんて疲れるだけなのに、それのせいでコウが更に好きになる。

袋の中身はブレスレットだった、流石コウと言うべきかデザインだけはかなりのもの、どこでこんなのを見つけてくるのか教えてほしいよ。


「………ありがとう」


私の目からはいつの間にか涙が溢れてた、コウはため息と共に椅子に背を預ける。


「使え」


コウが投げたのはハンカチ、私は迷わず受け取ってそれで涙を拭いた。


「泣かれたら悪い事したみたいじゃねぇか」

「うぅん、嬉しい、嬉しいから」

「嬉しくて泣くなんて、女って面倒な生き物だな」

「うるさい!コウの方が面倒だろ」

「確かに、そうかもな」


鼻で笑うコウ、最初に会った時はこんな優しい笑い方してなかった、むしろ笑いすらしなかったのに、自分の悪いところも認め無かったし、コウも変わったんだな。


私が泣き止みハンカチを返そうとした時、コウは既に私があげたジッポを使ってた、長い指で手遊びしてる、手先まで器用なんだ。


「そういえば家族以外にプレゼント貰ったの初めてかもな」

「うそ?何か悲しいな」

「いらない物を貰うなら貰わない方がましだ」

「なんか酷いな」

「ミドリのは貰うぞ、泣かれたら面倒だからな」


一言多い!何で丁度良いところで止めるっていうのが出来ないんだよ、それに慣れてる私もかなり重症だけど。






確実に縮まってる私とコウの距離、やっと人間っぽくなってきたコウ、いつか私の事を好きになってくれるまで側にいたい、こんなに人を好きになったのは初めてだから。

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