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碧とバイト

僕は別れてから何かを見つけようとひたすらバイトをしてる、受験生なんだけど進路も全く決まらないし、やりたい事もないからお姉ちゃんが薦めてくれたんだ。

日雇いだけど色んな事が出来て楽しいよ、勉強の方は最強の家庭教師が2人もいるからそこまで心配はない、やっぱり持つべきものは頭の良いお兄ちゃんとお姉ちゃんだね。


今日のお仕事はスタジオの清掃、アフレコとかのレコーディングスタジオなんだって、軽いミーハー気分でお金が貰えるんだから良いよね。


ビルの2階と3階にあるスタジオ、入るとまず受付があった、その前には男の人がいっぱいいる。


「あのぉ、清掃のアルバイトに来たんですけど……」


何故か驚く皆さん、僕なんかがお掃除しちゃいけないのかな?それとも出来ないように見えたとか!?それは侵害だよ。


「えーと、君のお名前は?」

「鷲鷹翼です!」


中年のおじさんはペラペラと紙を捲ってる、多分あれはプロフィールとか書いてあるやつだ、でもそれを見て何故か頭を抱えてる。


「どうしたんですか?」

「いやぁね、俺名前だけ見て君を男の子だと思って採っちゃったんだ、今回の仕事は力仕事が多いから男限定だったんだけどねぇ」


それは大変だ!コレでも僕は力だけは無いと豪語出来るからね、第一こんな小さな体に力があるようには思えないよ。


「バイト代減らして良いんで何かやらせて下さい、せめて交通費だけでも良いんで……」

「分かった、バイト代半分になっちゃうけど良いかな?」

「はい!」


ココまで来たんだからせめて交通費くらいは貰っていかなきゃ、ただの損で終っちゃう、それにあわよくばアニメのアフレコとかも見れちゃったりとか………。



僕のお仕事は受付のお掃除、自慢じゃないけどお掃除だけは得意だよ、家じゃ掃除洗濯くらいしかやる事ないからね。

お掃除もお兄ちゃんの部屋にエッチな本が無いか探すための名目なんだけどね、まぁお兄ちゃんの部屋にはそんな物の影はないんだけど、それをネタに脅してあんな事やこんな事しようとしたのに、本当に抜け目の無いお兄ちゃんだよ。


ある程度やって僕が掃除機をかけてる時、一人の女の子が中にいる人を気にしながら入って来た、どうしたんだろう?明らかに挙動不信だよ。

女の子は僕を確認するとゆっくり近寄って来た、帽子を被って顔を見せないようにゆっくりと。


「コレ、Bスタに届けて下さい」


本を渡してそのまま帰って行っちゃった、何だろうこの本……………、ってアニメのセリフが書いてある!?しかもこれ僕が見てるアニメだ、もしかして今の女の子って声優さん!?

黄色いラインマーカーが同じ人なのを見るとこの人の役なんだ、なになに、丁度この回で登場の新キャラクターなんだ、主人公とヒロインの間に割って入るお邪魔虫の役か、主人公もヒロインもお互いの事を好きなんだけど、キモチを伝えられないところにこの女の子が入って、掻き乱す定番の三角関係だね。

でもあの女の子はどうしたんだろ?間違ってたところでもあったのかな?まぁいいや、Bスタに届けに行こうっと。


Bスタは2階の一番端っこにある、外には男の人がうろうろしてるからあの人に渡せば大丈夫かな?


「あのぉ!すみません、これ―――」

「遅いよツバメちゃん!待ってたんだよ」


男の人は血色の悪い顔で僕に近寄って来た。


「僕ツバサですよ」

「えっ、嘘?またアイツ間違えたのかよ、まぁいいや、早く中に入って」


男の人は重そうな扉を開けて僕を無理矢理中に入れた、中は更に区切られててガラス越しにお互いを見れるようになってる。

奥ではオタクの僕も知ってるような声優がいて、恐らくアフレコと思われる事をやってる。


「篠山凛役のツバサさん入ります!」

「あれ?ツバメちゃんじゃないの?」

「またミスですよ」

「そうなんだ、じゃあツバサちゃん、早く入って」


僕を更に押して中に入れようとしてる、この人達多分僕の事をさっきの女の子と勘違いしてるんだ、どうしよう、早く言わないと大変な事になっちゃうよ。


「あの!僕は――」

バタン!


入れられちゃった、どうしよう、皆の目が早くしろと訴えてる、確かにたまに遊んで声を出して漫画を読んでた事はあるけど、所詮素人の遊び程度だよ。


「じゃあツバサちゃん、マイクの前に立って」

「えっ?でも僕は――」

「じゃあ始めるよ!3、2、1―――」


聞いてないよぉ、もうこうなったらやけくそだ!どうせへたくそでバレて謝れば終わるはず、事情を説明すれば終わるんだから、良い思い出だと思って楽しもう!


「じゃあ転校生を紹介します―――」


テレビで見たことあるような声優さんの中に素人の僕、でもみんな真面目にやってるんだから、試しにやってみよう。


「篠山凜さん、入って来て」

「はーい!」

「うげっ!凜!?」

「純ちゃん!純ちゃ〜ん」

「な、何で凜がココにいるんだよ!?」

「純ちゃん!会いたかったよ!」

「純之助、この女の子は誰?」

「千景!これは誤解だ、凜はただの幼馴染みで―――」

「初めてのチューの相手だよね?」

「……………はい、OK!」


終わったぁ、コレで後は怒られれば帰れる、楽しかったなぁ、やっぱり本物の声優さんは凄いや。


「ツバサちゃん、良かったよ」


えっ?嘘だ、僕が良いわけないよ、素人の中の素人、ド素人なんだから。


「みんなはどうだった?」

「良かったですよ、間もぴったりでしたし」

「私も良いと思いますよ、声も可愛いから凜にぴったりだと思います」

「でも僕は―――」

「じゃあこの勢いで次に行っちゃおう!」


どうしよう!言い出すタイミングを逃しちゃった、全部撮っちゃったら皆に迷惑かけちゃうよ、でも今更僕は素人ですなんて言えないし、どうしよぉ!




「それじゃあ今日は終わり」

「「「ありがとうございました」」」

「………………した」


終わっちゃった、もう第5話の半分も撮っちゃった、どうしよう、言わないと迷惑かかっちゃうよ。

レコーディングルームを通り、僕が監督とかがいる部屋に入ったのと同時に部屋に人が入って来た。


「監督大変申し訳ありませんでした!」


女の人は入ると同時に思いっきり頭を下げた、全員がキョトンとした顔をしてる。


「うちのツバメがご迷惑をおかけしまして、明日代役を持って来ますので、それでどうにかお願いします」

「あれ?ツバサちゃんはちゃんとやってくれたよ」

「ツバサ?うちのツバメは今日事務所に辞表を送り付けて失踪したんですけど」


その瞬間僕に全員の視線が集まった、ヤバい、最悪のバレかたしちゃったよ、でももう後戻りは出来ないし、嘘も吐き通せない。


「すみませんでした!僕はただの素人です、この台本はツバメちゃんが僕にココに届けるようにって頼まれたものなんです、言おうと思ったんですけどとても言えるような状況じゃなくて、本当にすみませんでした!」


僕は出来る限り頭を下げた、もう誰の顔も見れない、迷惑かけた上に嘘まで吐いて、怒られるだけじゃ済まないんだろうな。


「そう、じゃあ次回の台本持ってないでしょ?コレ、次回のだから読んでおいてね」


第6話と書かれた台本、コレって?


「ツバサちゃんの声良かったよ、ツバメちゃんの代わりは君ね、皆もそれで良いでしょ」


皆口々に了承してる、ちょっと待ってよ、僕はココにお掃除しに来てたのに、いつの間にか声優まで?


「うちのツバメがご迷惑かけました、それでツバメの代わりと言わず、うちのプロダクションで声優をやってみませんか、こちらの監督のお墨付きとなれば信頼出来ます、お返事はすぐにとは言いませんが良いお返事を期待してます」


名刺を渡されたって事はコレはスカウト!?もしかして僕はこれから声優さん!?テレビの中の世界だと思ってたのに、今目の前にその世界があるなんて、凄く不思議な気分。







「お兄ちゃんお姉ちゃん!進路決まったよぉ」


僕は家に帰るのと同時に報告した、お兄ちゃんとお姉ちゃんは不思議な顔をしてるけど、貰った台本と名刺を机の上に出した。


「僕声優さんにスカウトされちゃった」

「声優って、ツバサ、今日バイトに行ってたんじゃないの?」


お兄ちゃんとお姉ちゃんの今日の出来事を説明した、本当に驚いてるよ、これは俗に言うシンデレラストーリーだよね。


「ツバサ、それって実話か?」

「そうだよ、明日また来てだって」

「良かったじゃない」

「ツバサはそれで良いのか?」

「うん、楽しかったからまたやりたいなぁ」

「じゃあ頑張れよ、俺とアオミは応援してるから」


なんかトントン拍子で決まっちゃったな、でもあんな楽しい事してお金が稼げるなら良いよね、本当に夢みたいだよ。






棚ボタも立派な運命だよ、僕はこうなる運命だったとしか思えない、お兄ちゃんとお姉ちゃんに恥じないように頑張るよ。

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