青への秘めた想い
学校行事も粗方終わり、学校生活も落ち着いてきた今日この頃、3年は受験モードに入っていて落ち着きがないが、俺には全くもって関係ない。
専門学校への進学が決まった俺はかなり自由な毎日を送ってる、割りと有名な調理師学校だけど、俺にかかれば受験なんてそんな難しい事じゃない。
暇な俺は部活に来てた、相変わらず元気だけが取り柄のサッカー部、俺が来ても真面目にやる気配は無い、それを隣で呆れて見てるクリコ。
クリコはチビに告白して当然の如く玉砕したらしい、まぁチビが女だと知ってから更にベタベタしてるんだけど。
「四色先輩は知ってたんですよね?チビちゃんが女だって」
「そうだよ」
「何で言ってくれなかったんですか?」
「クリコは他人にチビの事を言えるか?」
クリコは明後日の方向を向いたまま黙ってしまった、未だ知ってるのは俺とクリコだけ、コガネにも言えたもんじゃない。
「でもチビちゃんって女の子なのにカッコイイですよね」
「そうかな?やっぱり女でしょ」
「全然違いますよ!あの目付きとか男の子です」
それはクリコの色眼鏡だろ、でもクリコもクリコだ、女の子って知っても熱が下がらない君は凄いよ、まぁ問題ありには変わりないんだけどね。
「テメェなにリコを口説いてるんだよ!」
後ろから来たチビ子ことハルキに殴られた、あんまり強く殴らないから慣れたんだけどね、コイツももうそろそろチビ子じゃ可哀想だと思って、最近はハルキって呼んでるけど、ハルキはそれが歯がゆいらしい。
「なんだ、ハルキはもう部活終わったんだ」
「そうだよ、あんたがリコを口説いて間にほら、もうサッカー部も終わるぞ」
本当だ、みんな片付け始めてる、本当に見に来ただけになっちゃった、まぁ良い暇つぶしになったから良いか。
部活が終わっていつも通りジャージに着替え終えたチビが来た。
チビももうレギュラーなんだし、女って明かしても誰も文句言わないと思うんだけどな。
「ほらユウ、早く帰るぞ」
「ちょっと待ってよ、まだ携帯が無い」
チビは歩きながらバッグの中を探してる、そりゃバッグの中をいくら探しても見つからないだろ、ポケットに挟まってるんだから。
俺はチビに近寄ってポケットを挟んでる携帯を取り、チビの前に出した。
「うわっ、そんな所にあったんだ、ありがとうございます、四色先輩」
チビは携帯を持って深くお辞儀した、どうやらそんな所に挟まるんだよ、そしてその間もハルキのイライラは積もるばかり、コイツのせっかちも重症だな。
「早く行くぞユウ!いつまでもそこの馬鹿とイチャついてるな!」
「何だよハルキ、ヤキモチ?そんなに俺とイチャイチャしたいのかよ?」
「違ぇよ!この馬鹿!私は先に帰る!」
ハルキは俺らに背を向けて歩いて行った、その後ろを追うようにクリコとチビで追う。
ハルキは終始ご機嫌斜めで歩き続けた、クリコが別れ道で帰る時だけ言葉を発し、後はまただんまり。
今まで怒ってもすぐに元に戻る喜怒哀楽の波が激しい奴だったのに、今日ばっかりはおかしい、こんなに怒りっぱなしの事も無かった。
その異変は当然チビも気付いていて、俺とチビはハルキのご機嫌を伺いながら歩いてた。
「ハルキ、そんなに怒る事か?ただの冗談だろ」
「そうだよハル、そんな怒ってたら四色先輩に悪いよ」
「うるせぇな!四色先輩四色先輩って、そんなにコイツが好きなら告っちまえよ!」
ハルキの奴最大の禁句を言いやがった、こっちもカマトトぶって接して来たのに、何の躊躇もなく怒りをぶちまけてるよ。
チビも目を潤ませて泣くのを堪えてるし、本当に馬鹿姉妹だ。
「ハルキ、さすがにそれじゃあチビが可哀想だろ」
「あんたもそんなにユウが好きなら潤間先輩捨ててユウと付き合えよ」
「ハルどうしちゃったの?何かおかしいよ」
「うるさいうるさい!……………仲が良すぎるんだよ」
ハルキはうつ向いて肩を震わせ始めた、多分泣いてるんだと思う、でもその理由が全く分からない、ハルキが泣くその意味が。
「私だって、私だって…………」
「どうしたんだよ?何かあるなら言ってみろ」
「私だってあんたの事が好きなんだよ!」
怒鳴るように叫んだハルキ、涙を浮かべてるハルキは初めて見た、その顔はやっぱり女の子そのもの、そしてチビと双子という事を実感する。
でも問題はそこじゃない、ハルキも俺の事が好き、そんな事があるのかよ?
「あんたを好きなのはユウだけじゃないんだよ、私だって好きなのに、あんたはいつもユウばっかり見てる。
私の事も見てくれよ!私だってあんた、………四色さんの事が好きなんだよ」
「ハル…………」
チビがハルキに近寄って涙を拭うと、ハルキはチビに抱きついてチビの肩で泣き始めた、そこまでハルキが想っててくれたのに気付けなかった俺が情無い、確かにハルキが隠してたってのもある。
でもチビを女だと知った時、ハルキはチビと同じ顔をする奴を知ってると言った、それに気付けなかった俺が情無い。
「チビもハルキも、俺にはチカがいるんだから、いくら二人に好きだって言われてもどうしようもないんだよ」
俺は二人の頭に手を置いた、さすが双子だな、不安そうな顔も俺を見上げる顔も、好きになる人まで同じなんて、良い姉妹じゃん。
「俺は二人の気持ちには応えられないけど、好きにでいるのは自由だ」
「………このナルシストが」
ハルキはいつものような力強い目で睨むけど、涙を浮かべてるから女らしさが残ってる。
「私諦めないからな、潤間先輩から絶対に奪ってやる」
「無理だよ」
「無理じゃない!私だって女だ、ユウも女だ、女の限りは私達にだって可能性はあるんだから、ユウも何か言ってやれ」
やっぱりハルキはこの立ち直りの早さがなきゃな、でもココでチビを出すのは可哀想だろ、まだ自分の気持ちを全く言ってないのに、何か告白してないのにフラレた気分なんだろうな。
「私は待ってますよ、潤間先輩から無理矢理奪う事はしませんから」
「ユウは温いんだよ、私は諦めないからな、ユウも潤間先輩もライバルだ!」
本当にハルキは元気だけが取り柄だな、でも今になって分かったけど、ハルキって本当にモテるんだろうな、ココまでうるさくてもサバサバしてるから親しみやすい、それに顔は悪くないし。
「絶対に潤間先輩を捨てるなよ!」
「うわぁ!ハルぅ」
ハルキはチビの手を引っ張って走って行った、チカはライバルじゃなかったのかよ?敵に塩を送ってどうする。
ハルキが俺の事を好きだってのは意外だった、でもハルキに好かれて純粋に嬉しかった、上手くは言えないけど、アイツは人として好きなタイプだからそいつに好かれたのは嬉しかった。
健気な姉のチビと、強気な妹のハルキ、正反対だけど双子と言われると納得出来る、中和せずにきっぱり2分する、無いものをお互いで補う良い双子だよ。
告白されるのってこんなに嬉しいモノだとは思わなかった、チビとハルキ、お前らに会ってて本当に良かった。