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銀との別れ

最近コガネは夜にサッカーの練習をしに公園に行ってる、私はその間に夕食の準備をしたりして時間を潰す、そういう毎日を送ってた。


今日もコガネは7時に練習を終えて帰って来た、そしてその時にはテーブルの上は夕食で埋まってる。

コガネはいつものように笑顔で食卓に着く、ココまでは私が望んだいつもの光景、楽しくて幸せな毎日の一郭だった。

でも今日は違う、家のインターホンが鳴る、私は箸を置いて小走りで玄関に向かい、玄関のドアを開けた。

そこにはスーツをしっかりと着こなした30代後半と思われる男性がいる。


「コガネ様はどちらに?」


コガネ?しかもコガネに様を付けてる、誰この人?

私は恐る恐るだけどコガネを呼んだ、コガネはゆっくりと近付いて来ると、スーツを着た人を睨んだ。


「コガネ様、先生がお呼びです」

「先生?誰だそれ」


コガネは明らかに不機嫌を振り撒いてる、私の前に出て私をかばうように話す、でも男の人は微動だにせずコガネをその冷たい目で見る。


「五百蔵先生がお待ちです」

「お前、アイツの秘書か?」

「すみません、申し遅れました、私は五百蔵先生の秘書の進藤と申します」


わざわざ名刺まで出す進藤さん、コガネの持ってる名刺を覗いて見たけど、嘘は何一つ吐いていないらしい。

でも今更コガネのお父さんがコガネを呼ぶなんて何の用?あれだけ毛嫌してたのに、それに五百蔵には白金君がいるはず。


「それで、俺に何の用だ?」

「本家の方に戻って来てほしいのです」


本家に戻る?コガネをココまで追い込んだ張本人が、今更戻って来いって、絶対におかしいよ。


「コガネ――」

「行かねぇよ、戻って来てほしかったらテメェが来て、泣いて頼めって言っておけ」


コガネはドアを閉めて戻ろうとした。


「先生は手段を選ばないと言っております、そちらのお嬢様の身の安全も保証しないと」


コガネの顔がいつになく怖くなる、この顔は私がいじめられた時に見せた顔。


「何が望みなんだ?」

「詳しくは聞いておりません」


コガネは舌打ちをしてドアを開けた、そこには相変わらず冷たい目をした進藤さんがいる、この人は本当に血の通った人間かと疑うくらい冷たい目。

私はコガネの腕をしっかりと掴むと、コガネはそれに応えてくれる。


「分かったよ、行くだけだからな」

「それでは車を用意していますので」

「ヒノ、ちょっと待っててくれ」

「嫌だ、私も行く」


コガネは困ってるけど今コガネ一人に行かしたら何かが変わってしまいそう、それが怖くて今コガネの手を放せない。


「そちらのお嬢様もご一緒に来られたらよろしいんではないですか?」

「ヒノに何かしてみろ、親父だろうがぶっ殺すぞ」

「それはコガネ様次第です」


コガネは優しい顔で私の手を引っ張ってくれた、それは来ても良いという許可らしい。


下に降りると黒塗りの高級外車が停まってる、こんな夜には趣味の悪い車にしか見えないけど。

コガネのお父さんは大臣をやってるからこれくらい簡単に買えるんだろうな、しかも黒い噂が耐えない少し危険な香り漂うお父さん、コガネ曰く裏でかなり揉み消してるらしい。







着いたのは何回か行った事のある豪邸、コガネは家の敷地に入ると顔がこわばった、握る手が強くなった事から良く分かる。


大きな家の扉の前にはコガネのお母さんがいる、コガネが実家で唯一許せる人らしい。

コガネのお母さんはアメリカの有名政治家の娘で、親同士の政略結婚に近かったらしい。

自由にできなかったお母さんだから、コガネを自由に育ててくれた唯一の人、コガネが家を追い出された時も、最後まで反対したのはこのお母さんだけだったらしい。


「…………お袋」

「おかえりなさい、コガネ、それにヒノリさん」


私は軽くお辞儀をした、凄く綺麗な人、綺麗な鼻筋はコガネそっくり、優しい目をしてる時もコガネに似てる。




私とコガネはコガネのお父さんの書斎に通された、大きな椅子にはテレビで見たまんまの嫌な目をした人がいる、それがコガネのお父さんだ。

コガネは私の手を握るとお父さんを睨む、コガネを捨てた人が目の前にいる。


「春日の所の娘も一緒か」


コガネのお父さんは私の実家の着物をよく買いに来る、お父さんとは昔馴染みだし、家にはそれなりの歴史があるかららしい。


「お前の記事呼んだぞ」


机の上に雑に投げられたのはコガネの全国大会の事を書いた雑誌だ。


「それがどうした?」

「お前でも社会に順応出来たらしいな」

「だから何が言いたい?用が無いなら帰るぞ」

「まぁ待て、人の話を聞かない奴に五百蔵家は継がせられない」


その瞬間コガネの顔が完全に怒ってモノとなった、コガネは私の手を放すとお父さんに近寄る、そして書類等を押し退けて机の上にスリッパのまま上がると、お父さんの胸ぐらを掴んで顔を近付けた。


「俺を捨てたくせに何言ってやがる!今この家を継ぐくらいならこの場でテメェと縁を切った方がましだ!」


努声を聞き付けたのか扉の外は騒がしい、コガネの努声にも全く怯まないコガネのお父さん。

暫くの沈黙は扉を開ける音で破られた、扉を開けたのはコガネの弟の白金君、茶色い髪の毛にメガネ、嫌なところばかりお父さんに似ている。


「何やってるんだい兄さん?」

「シロか、丁度良い、五百蔵は任したぞ、今日から五百蔵黄金はテメェらとは全く関係ない奴だ」


コガネは机から降りると私の手を掴み、白金君の肩を叩いて書斎を出ようとした。


「待て、お前を呼んだ理由を話していないだろ」

「縁を切る、それじゃあ不満か?」

「お前には家に戻って来てもらう、これから一浪して一流大学に入り、政治家になってもらう―――」

「拒否する!俺は俺が決めた生き方をする、生憎俺にはサッカーで生きるあてがあるんだよ」


コガネは嘲笑うような笑みでお父さんを見た、その自信に満ち溢れた顔、それは家を追い出された時の荒んだ顔じゃない、生きるかてを見つけた顔だ。


「そうか、残念だ、強行手段を取らなければいけなくなるとは」

「監禁でもするか?それとも俺の行く先々で邪魔でもするのか?

そんな事してみろ、テメェの名前汚すだけの材料は嫌という程あるんだよ、この俺自信を含めてな」

「は、はは、ハハハハ………」


コガネのお父さんは高笑いする、その隣でつられるように白金君も含み笑いをしてる、本当にいつ見ても気分の悪い親子。


「お前には手を出さない、しかし春日の娘はどうなるか分からないがな」

「ふざけるな!ヒノに手を出して見ろ、ぶっ殺すぞ」

「それならお前が家に戻りお前の人生をリセットする、簡単な事だろ」


コガネは唇を噛んで私を見てる、コガネが自由を選べば私は何をされるか分からない、でも私を助けるタメにコガネは自分を犠牲にしなきゃいけない。


「兄さんも頭が悪いね、こんな一時の感情で将来を捨てるなんて、父さんの言う通りにしてれば一生楽出来るんだよ、こんな女なんて捨てちゃいなよ」


コガネは何も言わずに白金君を蹴り飛ばした、白金君は軽々と倒され、コガネを見上げる形となった。


「シロ、親父の人形のテメェに何が分かる」

「決められた線路にで走るのが怖いんだ、兄さんみたいな頭の悪い人は自由なんて先の見えない事言って、自分の人生をダメにする、兄さんの方が分かってない」

「だから井の中の蛙は困るんだよ、線路には終わりってもんがあるんだよ、テメェは自分で線路引っ張ってゴールを決めて満足してる、その間に俺は色んなもんを見て来た、テメェは頭は良くても人間が小さいんだよ」


今までのコガネはいつも白金君の理屈に言いくるめられてた、でもカイ達に会って変わったのかもしれない、相変わらず頭は良く無いけど、今を楽しむ大切さ、先の見えない楽しさを。


「俺はヒノを死んでも守る、テメェらには分からないだろうな」

「春日の娘がどうなっても良いのか?」

「良くねぇよ、だから、俺はテメェの言う通りになってやろうじゃねぇか」


コガネは振り向いて私を見た、いつになく優しい笑顔で、私の一番好きなコガネが私を見てる。


「ヒノ、お別れだ、多分もう学校にも行けないと思う、違う男でも見つけて幸せになれよ」


コガネは私の頭に手を置いて微笑む、凄く優しくて、凄く温かい。


「嫌だよ、何馬鹿言ってるの?」

「ヒノを家まで送って行って」


コガネは近くにいた秘書の進藤さんに頼んだ、進藤さんは体に似合わない力で私の腕を引っ張る、振り向いてコガネを見ようとするけど、コガネは私に背を向けてる。

私が書斎から出た瞬間、白金君が扉を閉めてしまった、最後に少しだけ振り向いたコガネの顔は、凄く悲しそうだった。















コガネの家に帰された私は、並べられたままの夕食を眺めたままベッドに腰掛けてた、もうコガネは戻って来ないかもしれない、私は泣く事も出来ず、考える事も出来ず、コガネがいた事を示す残骸を眺めた続けた。


ピンポーン


今の気分にはそぐわない程明るい音のインターホン、私はゆっくりと立ち上がり、壁に手を付きながら玄関に向かった。

玄関をゆっくり開くとそこにはカイが立ってる、私が帰って来て最初に呼んだのは女のチカでもツバサでもない、男のカイだった。

私は迷わずにカイに抱きつくと、流れなかった涙が溢れ出して来た。


「ちょ、ちょっとヒノリ」

「このままにして!………お願いだから、このままにして」


カイは私を退けようとした手を垂らし、抱き締める事もなく、私が自分の胸で泣いてるのをただ傍観した。


泣き止んでカイから離れると、やっぱり凄い困った顔をしてた、カイにはチカがいるし、私にはまだコガネがいる、でも私はカイを頼った、親友としてではなく、一人の男の人として。


「それで、コガネの状況は電話で聞いた通りで良いんだな?」

「うん」

「そうか、じゃあ俺にもコガネを取り戻すあてがある、それまでヒノリは実家に帰ってろ」

「私、家には帰れない」


カイが固まった、そう、これを言ったのは蘭さんだけ、カイやチカ、コガネですら知らない秘密。


「高校生の同棲を許す親がどこにいるの?私コガネと一緒に住む代償として、親に勘当されてきたの」

「……………そうか、分かった、俺はコレから学校に行かないから、頼る時はツバサやチカを頼れ」


そのままカイは帰って行った、でもコガネを取り戻すのは土下座とかそんな簡単な事じゃ出来ない、カイに任せて本当に安心なのかな?






私の前からコガネが消えた、それでも私はカイを頼ってしまった、私の中のカイはそれほど大きくなってたらしい。

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