青と親友
目の前で満面の笑みを浮かべてる俺の妹、ツバサは一昨日彼氏である俺の親友、コテツにフラレた。
一昨日帰って来た時の顔は酷かった、目を真っ赤に泣き腫らして大声で泣きながら帰って来た。
理由を聞いた俺はコテツの所に行こうとしたけど、コテツは悪くないからコテツを責めるなと懇願されて辞めたけど、怒りは収まらなかった。
昨日になっても落ち込んでるツバサを俺もアオミ学校を休んでツバサの側にいた、まだ憔悴しててとてもいつもの笑顔を見れる状態じゃない。
そして今日、いつも通り早く起きて飯を作ってた、ツバサは起きて来ると満面の笑みでおはようと言う、いつも通り朝のニュースを見ながら寝癖を直してる。
その後すぐに起きて来たアオミも目を丸くしてツバサを見てる、いつもとなんら変わらない風景、それが今は不自然すぎる。
「ツバサ、もう大丈夫なのか?」
「そうよ、無理しなくても良いよ」
「大丈夫だよ!それとお兄ちゃん、今日学校行く前にメグちゃんのお見舞いに行こう」
俺とアオミは開いた口が塞がらない、仮にも彼氏を奪った相手、その相手の見舞いに行くんだ、誰でも何かがあると思うだろ?
「ツバサ、何考えてるんだ?」
「何も、お友達が入院してるんだからお見舞い行くのは当たり前でしょ?」
「でもコテツは………」
「烏丸君とメグちゃんは関係無いよ」
烏丸君か、一線引いてるどころじゃないな、完璧他人だ、でもツバサの事だから本当に見舞いだけなんだろうな、サバサバしてるところだけは見習いたいよ。
朝一の面会で俺とツバサは見舞いに来た、ツバサが喜びながら入った瞬間、コテツは居辛くなりすぐに出てきた。
外の長椅子に座ってる俺を見ると目を背けて素通りしようとする、やっぱりココまで来たらコテツにも罪悪感があるんだな。
「コテツ、話があるから屋上行こう」
コテツは悲しそうな顔で俺を見るとエレベーターに向う、コイツこんなに痩せてたか?人ってこんな短期間でやつれるもんなんだな、それともコテツの苦しみが尋常じゃなかったのか?
屋上には誰もいない、夏も終わり若干涼しい風が流れる。
俺はベンチに腰を下ろしたがコテツは俺の後ろに立ったまま、うつ向いて俺の顔を見ようとしない。
「座れよ」
「ホンマにゴメン」
「何で謝る?良いから座れよ、話があるんだから」
コテツはベンチを跨いで俺の隣に座った、目の下の隈といい、小さくなった背中といい、痩けた頬といい、今殴りかかったら避けられないんじゃないのか?
「殴るんか?」
「バーカ、ツバサにコテツを責めるなって何度言われた事か」
「せやけどカイはんなら………」
「あぁ、正直ココに来るまではコテツをぶっ殺したい気持ちでいっぱいだった、でもツバサよりも重症なコテツを見たら、殴るどころか責める気持ちすら萎えた」
コテツは小さくなったまま動かない、これのお陰で客観的に今回の事を見れるようになった。
「本当に大丈夫かよ?」
「コレくらい、ツバサの痛みに比べたらましや」
「お前本当に馬鹿だな、ツバサは強いよ、強くなかったらコテツの彼女の見舞いに行きたいって言うか?」
俺でもビックリするくらいツバサは強かった、俺がチカと別れた時にコレだけ早く立ち直れるとは思えない。
「わい、皆に逢わせる顔がない」
「コテツがいつも通りにしなきゃツバサが可哀想だろ、彼女がいるコテツが苦しんで、彼氏にフラレたツバサが笑っててどうする。
別に俺はコテツが笑ってても薄情だとは思わない、むしろ親友としてそうであってほしい、それに彼女もコテツが笑顔の方が良いんじゃない?」
コテツは若干微笑んで俺の顔を見た、これから長い間ツバサとコテツはギクシャクした関係だと思うけど、元通り二人とも笑っててくれればそれで良い。
でも今のコテツは何もかも自分で背負いこんでる、コテツは解決策も無いまま全てを抱え込む、全てを一人でどうにかしようとするからこんなになるんだよ。
「少しは俺やコガネを頼れよ、一人でどうにかなるとでも思ってるのかよ?」
「わい一人でどうにかせなアカン、それがせめてもの償いや」
「ツバサがコテツが苦しむ事を望んでるとでも思ってるのか?ツバサは誰よりもコテツが幸せになる事を望んでる、それならコテツがいつもの調子でいろよ、それに関して誰も責めないから」
コテツは立ち上がり出口に向かって歩き始める、コテツが扉を開けようとした時だった、それよりも早く扉が開く、そこにはツバサが立ってた。
ツバサはコテツに対して軽く笑うと顔を出して俺を見付ける。
「お兄ちゃん!もう学校に行こう」
「もう良いのか?」
「うん!」
ツバサはそのまま扉の奥に引っ込み消えた、コテツは立ったまんま動かない。
俺はゆっくりと歩き扉の前に立ってるコテツを追い越し、その前で立ち止まった。
「ツバサはシカトしたわけじゃないんだ、気持ちが揺らぐ事を恐れて、コテツのタメにあえて何も言わなかったんだよ、分かってやれ」
「……………ああぁぁ!もう分からへん!カイはん、明日から学校行くで、もう悩むの疲れた!」
コテツは笑顔で俺の背中を押してくれた、その顔はいつもの笑みで、大きな口を更に上げてる、それでこそコテツだよ。
俺は軽くコテツに手を振ってツバサを追った、この二人はまだまだ悩んでる、でも立ち止まってるわけじゃない、前が見えない中で走ってるだけだ。
俺らが学校に着いた時は休み時間だった、相変わらず俺とツバサが一緒に登校すると変な目で見られるけど、慣れればなんて事無いんだよな。
ツバサと俺が席に着くとコガネ達はツバサには集まらず、俺の周りに集まって来た。
俺は無言で廊下に出ると3人は着いてくる、やっぱりまだツバサには聞きづらいよな、あれだけ笑っててもフラレてるんだし。
「カイ、ツバサはどうなの?」
「なんか笑顔だよ?本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ、むしろコテツの方が重症だ」
「カイが殴り過ぎたのか?」
コガネは半分笑いながら言った、確かに今のコテツなら避けなかったと思うけど、そこまで俺も殴らないだろ。
「最初は殴るつもりだったけど、コテツの顔見たら殴る気も失せたよ」
「何生温い事言ってんだよ、アイツはツバサ君を捨てて他の女を選んだんだぞ?そんな奴に情けをかけてどうする」
「コガネが熱くなってどうするの?」
「アイツ本当に苦しんでるんだぞ、どっちがフラレたか分かんないくらいにやつれて、あのコテツが本気で悩んでた。
俺はアイツが別れる理由は正当だと思うよ、確かにフラレたのはツバサだけど、これ以上引きずってたら苦しむのもツバサになってた、アイツは好きだから別れたんだよ」
皆黙ってる、そりゃあのコテツが筋を通した事、妹がフラレた彼氏をかばった事、いつもの俺ならあり得ないかもな、でもコテツは俺の親友でもある、一番苦しんでるのはコテツだった、だからかばうのは当たり前だろ。
「でも俺は許せねぇ」
「コガネ、私はコテツは間違ってないと思う」
「アイツはツバサ君を捨てて他の女のところに行ったんだぞ?ツバサ君はそれで納得してるのかよ?」
「じゃあ嘘を吐き続けてるコテツと付き合ってるツバサは幸せなのか?」
「それは…………、でも俺には納得出来ない」
コガネはそのまま教室に入って行った、なんで全て丸く収まると思ったのにココで歪みが生じるんだよ、二人共大馬鹿だろ。
一日明けてコテツが登校してきた、まだやつれてるけど笑顔はいつも通り、それがコガネの怒りに触れたらしい。
コガネはコテツが登校して来るのと同時にコテツの胸ぐらを掴んで引っ張って行った、俺は頭を抱えながら女の子達を制止して二人の後を追った。
コガネは屋上まで上がり、胸ぐらを掴んだまま思いっきり投げ飛ばした。
コテツがゆっくりと体を起こすとコガネはそのまま蹴り飛ばした、そして馬乗りになった時点でさすがにヤバいと思って止めに入った。
「カイ!放せよ!コイツが何で笑ってやがる、テメェに笑う権利なんてねぇんだよ!」
「コガネ、コテツが苦しんでるのくらい見れば分かるだろ、許してやれよ」
「別にええで、わいには殴られるだけの理由があるんや」
また笑うコテツ、その瞬間コガネは俺に肘鉄してコテツの胸ぐらを思いっきり引き寄せる、コガネはそのまま拳を振り上げた。
「テメェマジでムカつく、女泣かして笑ってん―――」
「コガネん辞めて!」
はぁ、なんでこういう時にツバサが来るのかな、ココでコテツをかばったら火に油だぞ、どうせコテツなら打たれ慣れてるんだろうし。
「コガネん、僕なんにも悲しくないよ、このまま付き合ってても幸せなのは僕だけ、むしろ誰も幸せになれなかった、でも別れれば二人が幸せになれるじゃん。
最初は悲しかったよ、でも悲しんでるだけじゃ前に進めない、僕は笑顔でいたいしみんなにも笑顔でいてほしいんだ、だから誰も責めないでよ」
ツバサはコテツの名前を出さなかった、でもツバサはくだらない嘘は吐かない、だからそれが本心なのは確かだ。
コガネはコテツを突き飛ばすと扉の方に向かった。
「この事は保留だ、ツバサ君がそう言うんなら俺は何も出来ない」
コガネは扉の所にいるツバサを軽く押し退け、階段を降りて行った、ツバサは俺の顔を軽く見てコガネの後に着いて行く、まだコテツと話すには抵抗があるんだな。
俺はコテツの所に行くと手を差し出した、やっぱり頬には青痣がある。
「何でカイはんが一番冷静なんや?」
「ツバサがそれで良いって言ってくれたからだよ、それにお前が可哀想だろ」
「ホンマ、おおきに」
コテツは俺の手を掴んだ、持ち上げたコテツはやっぱり軽かった。
俺は全員に嘘を吐いていた、俺が怒れなかった理由、コテツの方が重症に見えた、もう一つはコテツなんかにツバサは任せられない、コテツが好きでも遅かれ早かれツバサは傷付いてた、本当はコテツには別れてほしかったんだ。