碧黄の亀裂
うへへ、ぐへへ、あへへ、って僕はおかしくないよ、ただね、ただこれからコテツとデートってだけだよ、この前映画行けなかった埋め合わせだって、やっぱりコテツは優しいよね。
コテツとの待ち合わせ場所はいつも使う駅の前、嬉し過ぎて予定よりも20分も早く着いちゃった、どうしよう、どこかで時間潰そうかな?でもその間にコテツが来ちゃったら嫌だから待ってよう。
今日は日曜日だからカップルが多い、でも僕もその内の一人だもんね、今日はコテツとずっとラブラブするんだから!
う〜ん、待ってるのって長いな、まだ10分しか経ってない、携帯の時計壊れたのかと思って真上にある時計を見たけど変わらない、長いよぉ、やっぱり早く来すぎちゃった、でもこの寂しさが溜りに溜れば会えた時の嬉しさが倍増、僕って頭良いなぁ。
さぁ待ち合わせ時間!さぁ来いコテツ!って僕大変な事忘れてた、コテツって時間にルーズなんだよね、時間ピッタリに来た試しがない、これも神様が僕にくれた試練だよね?幸せ倍増計画、うん!まさにそうだよ。
でもコテツ早く来ないかなぁ、早くキスしたいなぁ…………、って僕何考えてるの!?それはあの文化祭から時間は経ってるけど、そんな禁断症状が出る程時間は経ってないよ、ダメだ、早くコテツに会いたいよぉ。
待ち合わせ時間から10分が経っちゃった、まぁコテツの遅刻最長時間は1時間だからね、寛大な気持ちで待ってなきゃ嫌われちゃうよ。
でもコテツの事を心配する健気な彼女なら好感度アップだよね?それならすぐに電話しなきゃ!
アカン!ヤバい!あり得へん!なんでやねん!?なんでこないな時に目覚まし時計が壊れるんや?わいって神様に嫌われとるんとちゃう?ツバサを悲しませてまうで。
なんやこの遅刻を約束された切迫感、時間よ止まれ!………で止まったら苦労しいひんのやけどな、って止まっとる!?秒針動いてへんやん!ほんまかいな?
携帯を見てわいはさらなるショックへと、今から走っても遅刻いう計算やったのに、既に約束の時間から10分も過ぎとる、最悪や、やっぱりわいは神様に嫌われとるんや。
せやけど落ち込んでられへん、一秒でも早くツバサと会うために頑張るんやわい!
ブブブ!ブブブ!ブブブ!
わいはビックリして足の小指をタンスの角にぶつけてもうた、音の正体は机の上の万年バイブ携帯。
ディスプレイには…………。
『ツー、ツー、ツー……』
コテツは電話中?もしかしてコテツも僕と一緒に電話して来たとか!?やっぱり僕たち繋がってる、じゃあもう一回かければ繋がるよね?
『ツー、ツー、ツー………』
またもや!愛の力って凄いね、一度のみならず二度まで、もうこれはテレパシーだよ。
じゃあ今度は少し時間を置いてから…………。
『ツー、ツー、ツー………』
ミラクル!何か愛を感じちゃった、もう満足だよコテツ、僕とコテツの心はいつも一つなんだね。
ディスプレイにはメグはんの姉のカナコはんの文字、珍しいな、カナコはんがわいに電話かけてくるなんて。
「はいはいまいどぉ」
『こここここ、こて、こて、こて、こてこてこてこて、こってり、コテツ君!』
こってりコテツ君?やなくて何でこないに焦っとるんやろ、確かにカナコはんはおっちょこちょいやけど、今回は尋常やないな。
「どないしたん?」
「めめめ、メグが!めぐめぐめぐ………」
「カナコはん、とりあえず深呼吸しぃや」
『う、うん!ヒッヒッフー、ヒッヒッフー』
そりゃラマーズ法や、赤ん坊でも産もうとしとるん?
「それでメグはんがどないしたん?」
『メグが倒れて救急車で運ばれちゃったよ!』
「ほんまかいな?」
『うんうん!それで今家族いないし、私は学校でどうしても外せない試験があるの、コテツ君行ってくれる?』
ほんまタイミング最悪やな、今日はどないしても外せへんのに、せやけどメグはんは大事や、ツバサは今度があるけどメグはんは今誰かがいてやらなアカン。
「分かった、わいが行くからカナコはんは試験頑張ってや」
『ありがとうコテツ君!今度紗早屋のクリームチーズゲーキ奢ってあげるからね、プツッ』
それはカナコはんが食いたいだけやろ、それよりも今はメグはんや、倒れたいうんやからかなりヤバいんやろうな、はよ行かな。
病院は近く自転車を飛ばして10分で着いた、既に病室に入ってるらしくわいは走ってメグはんの病室に向かった。
病室に入ると大部屋の奥に医者がいる、わいはゆっくりと歩くと看護師はんがメグはんの知り合いの者かと聞く、わいは軽く頷くと奥まで通してくれた。
そこには点滴を打って寝とるメグはんがいる。
「風邪をこじらせたようです、検査のために2、3日の入院が必要ですが命に別状はありません」
わいはほっとして軽く頭を下げた、ほんま良かった、カナコはんのせいで焦る暇が無かったけど、内心生きた心地がしなかったんやで。
この時わいは大変な事を忘れとった、病院に入る前に携帯の電源を切った事と、ツバサとのデートを。
コテツ遅いなぁ、もう1時間も経ってるのに、もしかして記録更新?なんかさっきから電話も通じなくなっちゃった、携帯壊れて困ってるのかな?大丈夫かなコテツ?事故とかに遭っちゃったのかな?心配になってきた、どうかコテツが無事でいますよぉに。
只今記録更新中、さらに30分が経ちました、もしかしてさらわれちゃったとか?大怪我してとてもデート出来る状態じゃないとか?どうしよう、コテツ大丈夫かな?涙が出てきちゃったよ。
コテツの家に行きたいけどコテツがココに来たら行き違いになっちゃう、コテツは今携帯が使えないんだからね、僕がココで待ってなきゃ。
それにメールいっぱい入れてるから携帯が使えるようになれば分かるはず、それまで待ってなきゃね。
あれからどれくらい経ったんやろ?メグはん起きひんな、風邪をこじらせただけ言うとったけど、ホンマに大丈夫なんか?
わいそっとメグはんの髪を撫でた、そしてその手をメグはんが無意識に掴む、その時わいの中で何かが変わったのかもしれへん、ツバサには無くてメグはんにだけ抱いてた感情を。
「…………コテツぅ」
「大丈夫やで、ずっとココにいるさかい」
初めてや、こないにツバサに対して罪悪感を抱いたのは、さっき思い出したツバサとのデート、もう約束時間から2時間も経っとる、流石のツバサも帰ってるやろ。
3時間も経っちゃったよ、本当にコテツ大丈夫かな?不安で不安でしょうがない、さっき家に電話したけどコテツはもう出たとか言ってたし、どうしちゃったんだろ、連絡が出来ないからよっぽどの事なんだよね?
でもお父さんは何も知らない、コテツって恨みもそれなりに買ってるからもしかしたら…………、でもコテツが負けるわけないし。
コテツ、早くコテツの声が聞きたいよ、早くコテツに会いたいよ。
「………う、うぅん」
メグはんはゆっくりと目を開いた、そしてわいの顔を見ると目を擦って近付く、そしてわいやと確認すると慌てて離れ、手を放そうとするけどわいは放さんかった。
「な、何でコテツが?」
「風邪なんやから大人しくしぃや」
「そうじゃなくて………」
メグはんは顔を真っ赤にしながらそっぽを向いた、せやけど手は繋いだまま、所詮自分の心に蓋をするんは無理なんや。
「コテツ、ツバサさんに悪いよ」
「もうツバサとは終わりや」
「何で?私のせい?」
「半分はそうやな、せやけど半分はわいのせいや、気付いてもうたんや、ツバサよりもメグはんの方が大事っちょう事にな」
わいは確かにツバサの事が好きや、せやけど何よりもメグはんの事が大事やった、好きやから大事っちゅうのと大事やから好き、その重さは全然ちゃう、それとも初恋がまんま続いとるんかもな。
「でも半分はうちなんだよね?」
「そやで、せやさかいわい選んでもらわな困る」
「コテツはいつも強引過ぎるよ、ツバサさんをうちに紹介した時に好きにならないようにって思ったのに、前からコテツの事好きだったのに、何でこうやっていつも自分勝手なの?うちツバサさんから彼氏を盗った嫌な女じゃない」
「嫌われ者は慣れとる、メグはんはわいの胸で幸せになればええんや」
わいはそのままメグはんを抱き締めた、わいは最低な男でええ、メグはん一人だけ守れればそれで満足や。
わいはとりあえず病院から出て携帯の電源を入れた、そしたらぎょうさんメールが入っとる、全部がツバサからのメールや、その一つ一つを読む度に心が痛む、ツバサはまだわいの事を心配しとる、アホやなアイツ。
せやけど今の状態じゃ付き合えへん、ツバサとは生半可な気持ちで付き合ってたわけやない、せやけど、本当の気持ちっちゅうもんに気付いてしまった今、ツバサとはどないな気持ちがあっても付き合えへん、それを言わなアカン。
わいはメグはんに一言断ってからツバサの待つ駅に向かった、最後までツバサに悪いからツバサを選べ言われたけど、もう後戻りは出来ないんや、好きな人より大事な人を見つけてもうた。
コテツ遅いなぁ、大丈夫かなぁ、無傷ならそれだけで良いんだけどなぁ、早くコテツに会いたいよ、コテツに会えるだけで満足だから。
更に待つこと30分、辺りは真っ赤に染まって昼間とは違う眩しさが、多分それは夕日だけのせいじゃない、涙のせいで余計に眩しく見えるんだ、周りから見たら変な光景だけど、僕からしたら大変な事なんだよ。
「ツバサ……」
その声は聞きたくて聞きたくしかたなかった声、僕はゆっくり顔を上げると息を切らしたコテツがいた。
僕は人目を憚らず思いっきり抱きつこうとしたけど、抱きつく前にコテツに肩を抑えられた、何で?もしかして恥ずかしいのかな?
「コテツ、どうしたの?」
「とりあえず謝る、ホンマにゴメン」
「別に良いよ、コテツが無事なんだから!」
「何でやねん、なんでわいの事嫌いにならへんねん?」
「何で?僕はコテツが大好き、何で嫌いにならなきゃいけないの?遅刻なんて大した事ないよ」
「遅刻やない、分かっとった、ココにももっと早く来れたんや、せやけど、わいはツバサを裏切った」
何か今日のコテツおかしいよ、いつもなら許すとか言えば喜んで抱きついてくれるのに、それなのに今日は本当に悲しそうな顔してる、そんなに罪悪感感じる事ないのに。
「気にしてないよ!だから早くデート行こうよ」
「せやから無理や」
「な、何でよ?」
「もう無理なんや、もうツバサとは付き合えへん」
ツキアエナイ?嘘だよ、こんなの嘘だよ、コテツはこんな事言わない、昨日まではあんなに好きって言ってくれたのに、今日はダメって何?
「…………嘘、だよね?」
「ホンマや、確かにツバサの事は好きやで、せやけどツバサよりも大切な人に気付いてもうたんや、せやからもうツバサとは付き合えへん。
恨んでくれても構わん、呪ってくれても構わん、なんなら殺してくれても構わん、せやからわいの大切な人は恨まんといて」
コテツは頭を下げたまま上げようとはしなかった、そしてコテツの大切な人、それはコテツの口から言わなくても分かる、僕もよく知ってるしお友達だと思ってた。
「大切な人ってメグちゃん?」
「……………そうや」
「やだよ、僕コテツと別れたくないよ、僕の事嫌いになっちゃったの?」
「嫌いやない、むしろ好きやで、せやから別れるや、もうツバサを傷付けとう無い」
「傷付いても構わない、2番目でも構わない、だから僕を捨てないで」
僕はすがりつくようにコテツの肩を掴んで顔を覗き込んだけど、コテツは僕の目どころか顔も見てくれようとはしない。
「僕の事好きなんでしょ?なら別れないでよ?」
「好きやから付き合えないんや」
「コテツの馬鹿!嫌いって言えば良いじゃん!嫌いって言ってよ、そうすれば僕は諦められるんだから!」
「嘘は吐きたくない」
僕はそのまま崩れ落ちた、コテツの馬鹿、僕はコテツの言う事なら全部信じるのに、コテツが嫌いだから別れろって言えばまだ踏ん切りがついたのに、何で僕の事を好きって言っちゃうの?
「ツバサ、ホンマにゴメン」
「謝らないでよ、僕は嫌だよ」
「わいは落ち込んどるツバサ、嫌いやで」
僕はその言葉に笑顔でコテツの顔を見た、やっと嫌いって言ってくれた、好きって言われるよりも、どんな形であれ嫌いって言われた方が嬉しいよ。
「コテツ、メグちゃんが待ってるよ、行ってあげな」
「ホンマにゴメン」
僕は立ってコテツの背中を押した、コテツは振り向かずに自転車に乗って行った、ありがとうコテツ、振り向いてたら僕はもっと別れ辛くなってたよ。
ホンマにゴメンツバサ、わいが言うのもおかしいけど、今以上に幸せになってや。
バイバイコテツ、僕はコテツが大好きでした、この思い出は最高に幸せな思い出だよ、でもコテツはこれからも幸せでいてね。