青と文化祭
蝶ネクタイにサスペンダー、眼鏡の俺と、メイド服のチカ、これって客観的に見なくても明らかにおかしいよな?
俺はあれだけ反対したのに、何でチカはこんなに楽しそうなんだよ?俺には全く理解出来ない。
でもまぁ、チカがこれだけ楽しそうだし、同じクラスの奴を見ればそれなりに楽になる、騙し騙しやらなきゃやってらんないよな。
相変わらずひたすら食べ歩いてる俺に慣れたチカは横から俺の食べ物をつついてくる、それはそれで楽しいから良いんだけどね。
「そういえばアオミさんとかマミ姉とかいないね」
「アオミはハヤさんとデート、マミ姉は仕事だって」
ハヤさんも酷いよな、マミ姉に仕事押し付けて自分はアオミとデートだろ、本当にアオミ中心の人だな。
「良かったぁ」
「アオミ嫌いなの?」
「違う違う!ただアオミさんがいるとカイを独り占め出来ないじゃん、だから今日のカイはアタシだけのモノ」
「俺はモノじゃないけど、嬉しいよ!」
「か、カイ!人前だよ!」
俺はお好み焼きを持ったままチカを抱き締めた、確かに周りは人ばっかりだけど、俺の抑えられない衝動の前では意味が無い。
でも楽しい時間っていうのはあっという間、コテツの考えたクソローテーションのせいであっという間に時間が終わってしまった。
最近コテツのせいで俺が狂わされてるような気がする、コテツは俺の意に反する事ばかりしやがる、それでも憎めない不思議な奴なんだよな。
昼間を俺とツバサにしたのは流石コテツと言った感じだな、恐らく今回の主役はツバサだ、そして一度やると決めたらやり抜く俺の性格を知ってる、多分ココで他のクラスを一気に引き離す作戦なんだろうな。
「おかえりなさい、お兄ちゃん!」
う〜ん、俺には違和感が無いこのフレーズが男達には嬉しいらしい、ってかこれに慣れてる俺も割りとヤバいかも。
そして俺も負けず嫌いだ、やっぱり3組の内で一番になりたい、つう事で下らないプライドは捨てて。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
少し笑えば大体の女の子は喜んでくれる、オススメと聞かれれば高い物を薦める、プライドなんて捨てればこんだけ稼げるもんは無いな。
「カイ、何か楽しそうだね?」
「自分の思い通りになるのがこんなに楽しい事だとは思わなかったよ」
「僕のお兄ちゃんながら怖い事言うね」
二度とやりたいとは思えないんだけどね、こんなもの文化祭だからシャレで通じるけど、もう一回やったら何も言い逃れできなくなる。
その後も俺は愛想を振り撒きまくった、二度としないだろうから全身全霊で。
もう終わりに近付いた時、廊下がいやに騒がしい、声のデカイ男と女の声だ、物凄い嫌な予感がする。
豪快に教室に入って来たタバコを吸った金髪の男、そして後ろにはタンクトップで長い髪の毛の女。
「お、お前ら、……何しに来た?」
「スゲースゲー!カイが変な格好してるぞ!」
「アキラ、テメェのせいで見えねぇよ!」
それはODD GALEのランとアキラ、そしてその後ろからぞろぞろと、ニーナにゲン(ナオ)、ユメちゃんにサエまでも、コイツらどこで文化祭の情報を仕入れた?
「誰に文化祭の事を聞いた?」
「ニコルナ星人」
「違うでしょニーナさん、ハヤさんが教えてくれたんだよカイさん」
「ユメちゃんとサエは?」
「私はランに無理矢理」
「私はゲンちゃん」
はぁ、コイツらなんで他人を巻き添えにする、そして一つ気付いた事、ユメちゃんは毎度の事ながら人形を抱いてる、その隣のニーナも人形を抱いてやがる、あれは前にユメちゃんがあげたやつだな。
「とりあえず外で待ってろ、すぐに終わるから」
「だとよ、青髪のお怒りだ」
「あとそこの金髪、校内は禁煙だ」
「はいはい」
アキラはそのままゴミ箱に向かった、近くにあった皿で火をけしてゴミ箱に捨てたが、隣にいる店員が凄い嫌そうな顔してる。
「皿汚しちゃった、ゴメンね」
そのままその女の子にキスをして教室を出ていった、アイツの女癖の悪さは天下逸品だな。
終わって廊下に出た時、アキラ達ODD GALE一行は少数の生徒達に囲まれてた、それなりに名前が売れてるからな、インディーズ好きの奴らが集まるんだろ。
「何だよカイ、着替えてこいよ」
「着替えられないんだよ」
「良いじゃないか、アタイはそういう服装好きだぞ、外見から真面目を滲出してる奴は大体腹黒い」
何かランってずれてるんだよな、人とは観点が違うというか、ただのひねくれ者というか。
「カイさん、僕とユメで遊びに行ってきて良いですか?」
「別に俺に了解取らなくても良いだろ?」
「だってユメ行こう!」
「体育館裏は人いないぞぉ」
「一発ヤって来なかったら犯すからな!」
何でランとアキラはいつもそうなんだよ、別にガキカップルなんだから楽しくやらせてれば良いじゃん。
今気付いたんだけどランの右手には酒瓶、左手にはサエの腕が掴まれてる、コレは拘束?それと踏み込んではいけない領域?
「ほら、行くぞニーナ!」
ニーナは頷くとアキラの前を歩き始めた、アキラはタバコを一本取り出したけど、俺が強く睨んだら冷や汗を浮かべながら戻した、ランは酒瓶片手にサエの腕を振り回してる。
「そういえばサエ、彼氏は?」
「アタイがいるじゃないか」
「ランじゃなくて、サッカー部の彼氏、文化祭なら彼氏と来れば良かったじゃん」
「部活のやり過ぎで補習、だから行かないつもりでいたのに、ランが無理矢理………」
歩きながら話してても俺らは目を引く、人形を抱きながら先頭を歩く不思議ちゃん、すれ違う度に品定をするパンク野郎、女の手を引いてる超がさつ女。
俺らは自然と校庭のライブステージに向かった、腐ってもバンドマンか、アキラはいつになく真面目な顔でステージを見てる、ニーナは目を瞑りながら何かを歌ってる、ランは全身でリズムを取りながらうつ向いてる。
でも徐々にアキラの顔が曇っていく、そして唾を吐いて俺が止める暇もなくタバコを吸う。
「ニーナ!ラン!ゲリラライブだ!」
「機材、ない」
「知らねぇ、誰かに借りるぞ!こんなしけたライブ聴かせてらんねぇ」
「おい!ナオがいねぇぞ」
「今から呼ぶ!着いて来い!」
アキラはニーナとランの腕を掴んでステージに向かって走り出した、呆れるサエを置いて俺も処理へ走る、こんなのコテツにバレたら殺される、アイツは予期せぬ事態とかを誰よりも嫌うからな。
俺がステージに着いた時は遅かった、楽器を借りたアキラ達がステージに立ってる、校庭にいた奴らの何人かはODD GALEの存在に気付き、ステージの周りに集まり始めた。
「おい!俺らの文化祭でふざけた事するな!」
俺がステージに向かって叫ぶと、ニーナがしゃがんで俺の事を上から見る、そして人形を両手いっぱいに伸ばして俺に差し出す。
「預ける」
「うちのお姫様は一度ステージに上がったら降りないぞ、責任は俺が全部受ける、最高のライブにするから俺らの悪戯に付き合ってくれよ」
アキラが顔の前で手を合わせた、俺は分かったと一言だけ言ってバンド待合室に行く、次にやるはずだったバンドと楽器を取られたバンドに謝り、音響の人に謝りマイクを借りる。
『光ヶ丘高校文化祭、本日のビッグサプライズ、人気急上昇中のインディーズバンドの―――』
『ナオぉ!!ライブだ!ステージに1分以内に集合!』
馬鹿みたいな声量でマイクを通して叫ぶアキラ、キーンとスピーカーが鳴った、コレで完璧コテツにバレた、最悪だ。
ゲンはあっという間に来ると血相を変えて今の状況説明を俺に求めた。
「―――という事だ」
「カイさん本当にすみません、うちのバンドの人非常識な人ばっかりだから」
ゲンは頭を下げて、ベースを借りてステージに上がった、何かゲンは大人になったな、俺が知ってる島にいたゲンとは大違いだ、今はODD GALEのベース、ナオなんだな。
『お前ら、ココにいる奴らは最高に幸せもんだ、こんなライブは棚もちだぜ』
コイツこんな時にやりやがった、このままならゲリラライブでかっこよく終わってたのに、MCなんて調子乗ってやるからだ。
『え〜と、今のは忘れて貰って―――』
『おいナオ!何を忘れるんだよ?割れ込むな!』
『馬鹿馬鹿、棚もちじゃない、棚ぼた、割れ込みじゃない、割り込み』
『馬鹿共これ以上喋るな!アタイらは漫談やりに来たんじゃないよ―――』
そしてランのカウントダウンが入った瞬間全員の顔が変わった、笑っていた奴らもアキラのギターが始まった瞬間顔が変わる、何度聴いてもコイツらのライブは半端じゃないな、ODD GALEの事を知らない奴らをも取り込みやがった、僅かなファンは涙を流す者もしばしば。
コイツらのステージ上でのカリスマ性は音楽を知らない俺でも分かる、言葉で表せないような魅力、それがコイツらにはある。
その後俺とODD GALEはコテツに怒鳴られた、反論しようとしたアキラはコテツがキレて殴った机の末路を見て大人しくなった。
チカにも聴かしてやりたかった、いつか機会があったら行こうな、あのゲンが大人になったところをチカにも見てほしい。