金と文化祭
あぁかったりぃ!文化祭に何で出なきゃいけないんだよ?しかもこんなコスプレしてまで、全く聞いて無いぞ、…………寝てる俺が半分悪いだけどな。
3組に別れてやってる俺達のコスプレ喫茶、俺とチカちゃんは最後でヒノとコテツが最初だから今は暇だ、別にやることも無いし、いつものこの屋上で寝るのが一番だ。
俺が瞼を閉じて寝ようとした時、屋上の扉が思いっきり開く音がした、ムカついて睨む前にあの声が響く。
「やっぱりココにいる!五百蔵先輩、文化祭楽しみましょうよ」
そこにいたのはクリコだった、全国大会以来だから久しぶりに見たな。
しかも脇に持ってるのはサッカー誌?そんなにサッカーが好きなのかよ。
俺は面倒だからシカトしてまた目を瞑ると、顔に雑誌らしき物が落ちてきた、クリコの奴、しつこさが前よりも上がってる。
目を開くとやっぱり雑誌だった、俺はそれを退けるとクリコの満面の笑みがある、それで俺も少しは相手にする気になった。
「五百蔵先輩これ見てないでしょ?」
クリコは雑誌を広い上げて俺の前で開いた、そこには相変わらずムスッとした俺と、緊張でガチガチに固まったチビ、それにムカつくくらい良い笑顔のカイ。
この写真は初戦が終わった時にインタビューされた時の写真だ、そういえば特集組むとか言ってたな、本当に《光ヶ丘特集》って書いてあるよ。
「本当に特集載ってるよ」
「それだけですか?もっと驚くとか喜ぶとかしましょうよ」
「記者が言ってたんだからそこまで驚く事じゃないだろ?」
驚きはしないけど俺達のサッカーがこういう形で認められて嬉しい、こんだけ大々的に取り上げられればあのクソ親父とシロの目にも入るだろう、俺を見放したアイツらを見返す良いチャンスだ。
「五百蔵先輩、なんか怖いですよ」
「あぁ悪い」
「まぁ読んで下さいよ、悪い事書いて無いですよ」
悪い事は書いてないねぇ、まぁわざわざ特集組むくらいだから悪い事は書いてないだろうな。
それより気になるのはカイがいなくなったのをどう書いたかだ、アイツがいないチームは確かに弱い、でも健闘した方だと思う。
俺らが負けたチームはベスト8まで行ったからな。
《前にも紹介した光ヶ丘高校、この学校の力は1回戦のみしか見れなかったが、チームの総合力は想像を絶するモノだった。
その一番の理由は全国大会で初出場になった1年生の黍野祐希君、東京都の選抜大会ではベンチにいた選手で学校を辞めた谷口君の代わりに入った選手、私達を始め全ての者がノーマークの中、全国レベルの選手達を軽々と抜いて行った。
そしてその右足からのパスは芸術的、エースの四色君や五百蔵君への後ろからサポートしていた。
そして1年生でも美男揃いの光ヶ丘、とても男の子とは思えないような中性的な顔立ちで、大人の女性達の人気を独り占めしたピッチ上の華》
今回は長々と書いてあるな、やっぱり特集を組んでるだけある、1年のチビだけでもこれだけの持ち上げようだ、その後に俺とカイが続いてる。
《次は大会屈指のストライカー五百蔵黄金君、彼のスピードは大会でもトップクラス、彼を一度走らせたら止められない。
そしてゴール前での強さ、マークされていてもスルリと抜け出すその柔軟さは数々のディフェンダーを悩ましてきた。
一度四色君からのスルーパスを受けたらゴールは間違い無し、弾丸のようなシュートは手に当てただけでは止められない。
そして綺麗な顔立ちはサッカーをやっているとは思えない程、ポーカーフェイスが笑顔に歪んだ時、女性の歓声がピッチにこだました》
はぁ、この編集者も飽きずに容姿の事突っ込んでくるな、サッカー誌じゃないのかよ?確かに光ヶ丘は代々顔だけだったけど、今回はサッカーを誉めてるだろ?その分サッカーに回せ。
《最後は司令塔の四色海君、彼はまさにチームの要、全国大会での力は前に紹介した2人の力もあるが、四色君の奇抜な作戦があってこその2人である。
黍野君はお世辞にも全国レベルとは言えない、しかし四色君の人を生かした作戦により、全国レベルのチームの一郭となった。
五百蔵君の自由奔放なプレイすらも四色君にとっては作戦の内、五百蔵君だけを見ればチームプレイには見えないが、光ヶ丘全体はまとまっている、それも四色君の緻密な作戦があるからこそ。
そして何より彼の体力は異常なもの、走り回っているのにその動きは全く変わらない、後半にピッチ上の全員が疲れた頃、そこは四色君の独壇場と化す。
そして全員が体力の限界を感じて顔を歪めた時でも彼は笑顔を絶やさない、相手を出し抜いた時のその妖しい笑顔はファンを魅了して止まない。
しかしその四色君は1回戦を期に姿を消した、その理由は定かではないが、光ヶ丘バレー部の部長、潤間さんも姿を消した、それに何の理由があるのかは分からないが、四色君がいない光ヶ丘に輝くモノは無かった》
やっぱりカイになるんだな、アイツは俺の全てを横から入って来て持って行きやがる、何で何一つアイツには勝てないんだよ、何で俺はアイツよりも劣ってるんだよ?
「みんな五百蔵先輩の事分かってませんよね?」
何だいきなり?この雑誌に書いてあるので間違ってる事はない、確かに俺のワンマンをサポート出来るのはカイだけだし、カイがいなきゃ俺はまともな試合が出来ない、悔しいけどカイ様々だな。
「五百蔵先輩は自由にやってるわけじゃないのに、四色先輩が出しやすいように動いてるじゃないですか!何でこの人は分からないかな?」
「俺がカイに合わせてる?」
「そうですよ!四色先輩が言ってましたよ、ヤバい時でもアイツのポジション取りのお陰で助かってるって。
確かに五百蔵先輩のプレーは浮いてます、でもそれは四色先輩を信頼しきってるからですよね?」
そんな事考えた事も無かった、確かにカイに指示は出されるけど、俺はカイの場所を見ながら動いてる、それがワンマンだと言われたらそうだけど、カイの指示だけが全てじゃないと思うからそうしてる、言い方によってはクリコのも一理あるかもな。
「ありがとう、クリコ」
そう言ってクリコに雑誌を投げ渡し、再び横になった、クリコはブーブー騒ぎながらも、やっと屋上から姿を消し、俺の望む平穏な屋上が戻って来た。
いつの間にか寝ていた俺は、起きると何か枕のような柔らかい物が頭の下にある、俺は寝惚けながらもそれに触れた。
すべすべしてて暖かい、それに何か変な音?いや、声がする、……………声?
「コガネくすぐったい」
俺はビックリして飛び跳ねるように起き上がり、枕の正体を確認すると、メイド服に身を包み正座をしたヒノがいた。
って事は俺が触ってたのはヒノの足?しかもかなり長めに触ってた、最悪だ、知らなかったとはいえそんな事してたなんて。
「ゴメン、ヒノ」
「別に良いよ、コガネ可愛かったし」
男に可愛いって嬉しくないんだよな、でも慣れって怖い、頻繁に可愛いって言われてるから微妙に頬が緩む。
「どこか行くか?」
「ココで良いよ、あの中に入る嫌でしょ?」
ヒノが指した先は校庭、人が所狭しと敷き詰められてる、確かに俺はあんな所に飛込みたくは無い。
しかも今はライブやってるから人が多いし、あそこに揉まれてる俺を考えるだけでノイローゼになりそうだ。
「そういう顔すると思って食べ物買って来たよ」
「悪いな」
「良いの良いの、男の子捕まえてちょっと頼んだら買って来てくれたんだから」
ヒノってそんな奴だったっけ?確かにこの学校にはツバサ君やチカちゃん、ヒノに頼まれ事をすれば喜んでこき遣われるような奴らばっかりだ、遂にヒノもそれを利用するようになったんだな。
「………しかもタダで」
ヒノが怖い、誰よりも男の落とし方を知ってるヒノだからそれを悪用しないかが怖い、でも、男もそれで喜んでるんだから良いのかもな。
「それにしても多くないか?」
「一人に頼んだつもりだったんだけど、みんなに聞こえたみたいでね、こんなに集まっちゃったの」
ビニール袋3つ分にギッシリ詰まった屋台の食べ物達、カイはこういう雰囲気が好きらしいけど、俺には全く理解出来ない、所詮は高校生が作った美味くない飯、それが大量にあるのも拷問だよな。
「こんなに食えねぇよ」
「どうせタダなんだから食べ放題だと思えば良いでしょ?」
「美味くない飯を大量に食うより、ヒノの少量の飯の方が良いんだけどな」
「夜食べれるでしょ?」
もう3ヶ月近くもヒノと同棲してる、それをヒノの親は知ってるんだからおかしな話だよな、荷物は俺の部屋に全部置いてあるし、あれ以来ヒノは全く家に帰ってない、本当に親は承知してるのか?
「たまには家に帰ったら?親も寂しがってるんじゃない?」
「たまに電話で話てるから大丈夫」
「大学の事とか話てるのか?」
「うん、頑張れだって」
俺は食べながらで全く気付かなかったけど、話てる時にヒノは全く俺の目を見てなかった、それに気付かずに放置したのが一番の間違いだったのかもしれない。
遂に、遂にやって来てしまった、俺とヒノの平穏を崩し、屋上での昼寝すら許さないこの時間、喫茶店で俺らが営業する時間だ。
あり得ないくらいメイド服が似合ってるチカちゃんはやけにテンションが高い、ヒノがいるにも関わらず、不覚にもチカちゃんが可愛く見えてしまう。
「コガネ!アタシに見とれてないで仕事しろ!」
口は相変わらずだな、多分チカちゃんは意識してないと思うけど、カイの前だと思いっきり女なのにその他大勢の前では相変わらず、しかもアシンメトリーの髪の毛でボーイッシュさ倍増だし。
「だから仕事する!」
バフッ!
チカちゃんは俺の脇の辺りを思いっきり蹴ってきた、本当に女かよ?滅茶苦茶痛いし、それとパンツが見えたのは口が裂けても言えない。
「…………しゃいませ」
俺は適当にコテツに言われた事を無視しながら水を乱暴に出した、それなのにキャーキャー騒ぐ女ども、俺何かしたか?
「五百蔵く〜ん!」
ご指名かよ、ココはホストクラブじゃないんだぞ。
俺はシカトしようとしたけど、隣で物凄い目でチカちゃんが睨んでる、馬鹿な俺でも分かる、このままじゃあチカちゃんに殴られる、俺は嫌嫌指名先に向かった。
「何?」
「五百蔵君、オススメは?」
「水」
「食べ物は?」
「食うな」
適当に答えてると後ろから殺気を感じた、当然そこには般若の顔したチカちゃんがいる、命の危険を感じた俺は引き攣った顔で女に向き直った。
「お、オススメはち、チーズケーキになります」
「じゃあそれで!」
俺は急いで戻りチカちゃんと顔を合わせないよう努力したが、チカちゃんから寄って来た。
「やれば出来るじゃん」
「は、はい」
「次ふざけてみろ、ヒノに顔見せられないようにしてあげる」
怖い、本当に怖い、高い所の100倍怖い、カイ、俺はお前を尊敬するよ、こんな鬼俺には手なずけられない。
うるさいクリコ、やかましいツバサ君、怖いチカちゃん、悪魔のヒノ、俺はどれも使いこなせない、俺って本当に女に弱いな。